「Claude Code」のCOBOL変換ツールとは?発表内容と企業システムへの影響

2026.02.24

WorkWonders

「Claude Code」のCOBOL変換ツールとは?発表内容と企業システムへの影響

はじめに

金融や行政の基幹システムを数十年にわたり支えてきたCOBOLが、いまAIによる書き換えの対象として急浮上しています。Anthropicは自社の開発支援ツール「Claude Code」でCOBOLの近代化を自動化できると発表し、発表当日にIBMの株価が約13%下落するなど市場にも大きな波紋を広げました。

この記事では、COBOLが企業システムで果たしている役割から、Anthropicが示した技術的な手法、市場や業界への波及、そしてAIによるコード変換の技術的な限界まで、押さえておきたいポイントを順に取り上げます。

COBOLとは何か——60年以上使われ続ける言語の現在地

COBOLとは何か——60年以上使われ続ける言語の現在地

COBOLの誕生と企業基幹システムでの役割

COBOLは1950年代後半に開発されたプログラミング言語で、ビジネスデータの処理に広く使われてきました。毎日何百億行ものCOBOLが本番環境で動作しており、金融、航空、政府の重要なシステムを動かしているとAnthropicはブログ投稿で述べています(参照*1)。

社会保障の支払いや航空会社の運行管理など、止まれば社会全体に影響が及ぶ領域でCOBOLは稼働し続けています。こうした基幹システムは長い年月をかけて拡張されてきたため、コードの構造やビジネスルールが複雑に絡み合っている点が特徴です(参照*2)。

COBOLを扱うシステムの全体像を把握するには、どの業務領域でどの程度の規模のコードが動いているのかを洗い出す作業が欠かせません。

ATM取引の95%を支える規模感とエンジニア不足の深刻化

COBOLの利用規模を端的に示す数字があります。Anthropicによると、米国のATM取引の約95%がCOBOLを使用しています(参照*1)。日常の現金引き出しや振込のほぼすべてが、この60年以上前に生まれた言語の上で処理されているということです。

一方で、COBOLを読み書きできるエンジニアの確保は四半期ごとに難しくなっているとAnthropicは指摘しています。この言語を教えている大学もごく一部に限られます(参照*2)。さらに、ドキュメントの不備や暗黙のビジネスルールを理解するのが困難であることから、COBOLの近代化作業は非常に難航するケースがほとんどだといいます(参照*3)。

自社のCOBOL資産がどれほどの規模で、それを扱える人材がどの程度残っているのかを棚卸しすることが、近代化の出発点になります。

Anthropicが発表した「Claude Code」によるCOBOL変換ツールの全体像

Anthropicが発表した「Claude Code」によるCOBOL変換ツールの全体像

ブログで示された調査・分析作業の自動化アプローチ

COBOL近代化のボトルネックは、コードの書き換えそのものよりも事前の「調査・分析作業」にあるとAnthropicは位置づけています。レガシーコードの近代化は、コードを理解するコストが書き換えのコストより高かったため何年も停滞していたとブログで述べ、AIがその構図を覆すと主張しました(参照*1)。

Claude Codeを使えば、この近代化における複雑性の大部分を占める調査・分析作業を自動化できるとAnthropicは報告しています。人間のアナリストが数カ月かかっていた工程が、Claude Codeなら短期間で完了できるようになるとのことです(参照*3)。

また、検証済みのAI駆動ソフトウェア開発ライフサイクルのフレームワークを活用し、重要なビジネスロジックを維持しつつリスクを低減させながら、近代化の成果を数週間で達成する方法が示されています(参照*4)。自社の近代化計画で調査・分析に何カ月かかっているかを確認し、AIによる短縮余地を見積もる材料として活用できます。

依存関係マッピングとリスク特定の仕組み

Claude Codeの具体的な機能として、何千行にもわたるコードの依存関係をマッピングし、ワークフローを文書化する能力が挙げられています。さらに、人間の分析者が表面化させるまで数カ月を要するリスクを特定することにより、COBOLのコードベースの近代化を支援するとAnthropicは述べました(参照*1)。

依存関係とは、あるプログラムが別のプログラムやデータベースとどのようにつながっているかを示す構造です。基幹システムでは数十年の改修を経て依存関係が複雑に入り組んでおり、1つの変更が思わぬ箇所に影響を与えることがあります。Claude Codeはこの全体構造を機械的に可視化し、手作業では見落としやすいリスク箇所を洗い出すアプローチをとっています。

依存関係の把握とリスクの洗い出しは、近代化プロジェクトの要件定義と工数見積もりの精度に直結します。既存の手動分析と、AIが生成するマッピング結果を突き合わせて検証する作業フローを検討してみてください。

Claude Codeのサンドボックス機能とセキュリティ設計

AIツールが企業の本番コードを扱う以上、セキュリティ設計は避けて通れない論点です。Claude Codeにはサンドボックス機能が搭載されており、AIが各アクションの承認を逐一求める代わりに、あらかじめ定義された境界の中で自由に作業できる仕組みになっています(参照*5)。

サンドボックスとは、外部に影響を及ぼさない隔離された実行環境のことです。この機能を有効にすると承認を求めるプロンプトが飛躍的に減り、安全性も向上するとされています。内部での使用ではサンドボックス化によって権限プロンプトが84%削減されたことが確認されました(参照*5)。

運用を想定する場合は、サンドボックスの境界設定がどこまでカスタマイズできるか、自社のセキュリティポリシーとの整合性を確認する必要があります。

IBM株価13%急落——市場が反応した背景と経緯

IBM株価13%急落——市場が反応した背景と経緯

IBMのメインフレーム事業とCOBOLモダナイゼーション収益構造

IBMは長年にわたり、COBOLがしばしば使われる大規模トランザクション処理に最適化されたメインフレームシステムを販売してきました。メインフレームの運用保守やソフトウェアライセンスはIBMにとって安定的な収益源であり、COBOL近代化のコンサルティングもその延長線上に位置づけられています(参照*1)。

AnthropicがClaude CodeによるCOBOL近代化の自動化を打ち出したことは、このIBMの収益構造に対する挑戦と受け止められました。顧客企業がAIツールで自力の近代化を進められるようになれば、IBMへの依存度が低下する可能性があるためです。

自社がメインフレーム関連でどのベンダーにどれだけの費用を支払っているかを洗い出すと、AI導入によるコスト構造の変化を具体的に試算できます。

時価総額約310億ドル消失と投資家心理の分析

Anthropicのブログ発表を受けて、IBMの株価は1日で約13.1%下落し、223.39ドルで取引を終えました。この下落幅は2000年10月以来の1日最大の下落となっています。これにより、IBMの時価総額はおよそ310億ドル失われたと報じられています(参照*2)。

ただし、複数のエコノミストは投資家がAIの動向に過剰反応している可能性を指摘しています。ソフトウェアやAI関連産業の間で見られる株価変動は「市場の物語の転換」を反映したものであり、実際に収益や利益が減少したわけではないとの分析があります。また、AI企業がソフトウェア業界を混乱させるという見方は「壊れたロジック」だとする声もあり、投資家の懸念は過大評価だとの見解も出ています(参照*2)。

IBMとAnthropicの戦略的パートナーシップが示す共存の可能性

IBMとAnthropicの戦略的パートナーシップが示す共存の可能性

IBM IDE×Claude統合による生産性45%向上の早期成果

株価の急落が示すような対立の構図とは別に、IBMとAnthropicにはすでに協業の実績があります。2025年10月に両社はエンタープライズ向けソフトウェア開発を共同で推進するパートナーシップを発表しました。その早期テスト段階では、IBM内の6,000人以上の初期導入者が新しい統合開発環境(IDE)を使用し、生産性の向上が平均で45%と報告されています。コード品質とセキュリティ基準を維持しつつ、コスト削減にもつながったとのことです(参照*6)。

6,000人規模の導入で45%の生産性向上という数字は、実運用に近い環境での成果として注目に値します。自社の開発チームの規模や既存ツールとの比較材料として、この導入規模と効果の数値を整理しておくと判断に役立ちます。

MCPサーバーとエージェント開発ライフサイクル(ADLC)の設計思想

パートナーシップの技術面では、IBMが「Architecting Secure Enterprise AI Agents with MCP」という設計指針を作成し、Anthropicがこれを検証しました。モデル・コンテキスト・プロトコル(Model Context Protocol:MCP)とは、AIエージェントが外部のデータやツールと安全に接続するための通信規格のことです。この設計指針はエージェント開発ライフサイクル(Agent Development Lifecycle:ADLC)に焦点を当て、企業向けAIエージェントの設計、展開、管理を行うための構造化されたアプローチを提供しています(参照*6)。

組織がエージェント駆動のAIを標準化して自律的な意思決定や知能自動化を推進するなかで、従来のITプロセスでは十分に対応できなくなる可能性があると同資料は指摘しています。COBOL近代化も、単発のコード変換ではなくAIエージェントの設計・運用という大きな枠組みの中で捉える必要があるということです。自社のIT運用体制がエージェント駆動の開発に対応できるかどうかを、ADLCの枠組みに照らして点検するのが実践的な第一歩になります。

メインフレーム近代化の業界動向とAI活用の広がり

メインフレーム近代化の業界動向とAI活用の広がり

Kyndryl調査に見る生成AI導入意欲86%の実態

メインフレーム近代化への関心はAnthropicの発表以前から高まっていました。業界や政府を横断する企業の上級リーダー500人を対象にした調査では、回答者の86%がメインフレーム環境で生成AIを導入しているか、導入を計画していることが明らかになっています。また、組織の96%がワークロードの平均36%をメインフレームからクラウドへ移行しており、セキュリティが近代化投資を推進する最大の懸念事項で、回答者の3分の2が最も重要なメインフレーム機能と評価しました(参照*7)。

一方で、スキルギャップは依然として企業の4分の1を超える障壁となっており、AIやセキュリティの分野で特に顕著です。全社横断の可観測性が回答者の92%にとって不可欠とみなされている一方、ハイブリッドIT環境でそれを達成するのに多くの企業が苦戦しています(参照*7)。

自社のメインフレーム戦略を検討するときは、クラウド移行の割合、セキュリティ要件、そしてスキルギャップの3つの軸で現状を棚卸しすると、優先課題を絞り込みやすくなります。

FRBバー副議長が示したレガシーコード変換でのAI活用事例

金融規制当局もレガシーコードの変換にAIを活用する動きを具体的に示しています。米国連邦準備制度理事会(FRB)のバー副議長は、明確なガードレールの下でレガシーコードの翻訳、単体テストの生成、クラウド移行の加速に生成AIツールを活用していると述べました。その成果は納品の迅速化、品質の向上、開発者体験の強化という形で表れているとしています(参照*8)。

具体的なプロジェクトでは、数百のデータベースを更新する作業においてAIツールを使うことで完了までの時間を50%短縮し、テスト段階での問題を従来の移行よりも30%多く検出・解決できたと報告されています。これにより、チームをより価値の高いコーディング作業に集中させることが可能になりました(参照*8)。

作業時間50%短縮と不具合検出30%増という数値は、COBOL近代化でAIを採用する際の費用対効果を見積もるうえで具体的な比較基準になります。

LLMのCOBOL理解力に関する技術的限界と注意点

LLMのCOBOL理解力に関する技術的限界と注意点

IBM Research論文が明らかにしたロングコンテキスト推論の脆弱性

AIによるCOBOL変換には期待が集まる一方で、大規模言語モデル(LLM)のコード理解力にはまだ克服すべき課題があります。研究論文によると、選択肢を並べ替えた場合や自由記述形式の質問において、LLMの性能が大幅に低下することが確認されました。また、無関係な手がかりが混在する環境では動作が不安定になることも明らかになっています(参照*9)。

この研究は、現在のロングコンテキスト(長い入力文脈)評価の限界を浮き彫りにし、レガシーシステムと最新システムの両方でコード推論を検証するための広範なベンチマークを提供するものだと位置づけられています。COBOL変換の精度を評価する際には、短いコード片だけでなく数千行規模のコードでの挙動を検証する必要があります。

選択肢依存・位置バイアスとCOBOL特有の課題

LLMの弱点として特に注意すべきなのが「位置バイアス」です。研究では、情報の取得精度が入力テキスト内の位置に強く依存しており、直近の文脈を偏重する傾向が顕著だと指摘されています。COBOLのようなレガシー言語では、コンテキストの前半に配置された情報ほど性能が劣化するという結果が出ています(参照*9)。

COBOLのプログラムはデータ部やプロシージャ部など複数のセクションが順番に並ぶ構造をとり、冒頭のデータ定義がプログラム全体の挙動を左右します。位置バイアスによって冒頭部分の理解精度が下がるとすれば、変換後のコードにビジネスロジックの欠落が生じるリスクがあります。AIによる変換結果を受け取った後に、元のCOBOLコードの冒頭セクションとの整合性を重点的に照合する作業手順を組み込むことが実務上の対策になります。

おわりに

Anthropicが発表したClaude CodeによるCOBOL変換ツールは、エンジニア不足と調査コストという2つのボトルネックに対し、AIで風穴を開ける試みです。一方で、LLMの位置バイアスやロングコンテキスト推論の脆弱性といった技術的な限界も研究で示されており、全自動化には距離があります。

IBMとAnthropicのパートナーシップが示すように、既存のメインフレーム資産とAIツールは対立だけでなく組み合わせて活用する道もあります。自社のCOBOL資産の規模、スキルギャップ、セキュリティ要件を棚卸ししたうえで、AIによる調査・分析の短縮効果と人手による検証の必要性のバランスを見極めることが、近代化を進めるうえでの鍵となります。

監修者

安達裕哉(あだち ゆうや)

デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))

参照

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