![]()
はじめに
OpenAIが企業向けのAI活用を本格化させるなかで、大手コンサルティング4社と手を組んだ「Frontier Alliances」が発表されました。技術だけでは越えられない導入の壁を、戦略立案からシステム統合まで一気通貫で支える枠組みです。
この記事では、Frontier Alliancesの定義と背景、4社それぞれの役割分担、導入メリットとリスク、競合との違い、そして企業が取るべき具体的なステップを押さえていきます。
Frontier Alliancesとは何か——定義と発表の概要

OpenAIによる公式発表の内容
Frontier Alliancesは、OpenAIが自社の企業向けプラットフォーム「Frontier」の導入を加速するために設けた提携プログラムです。OpenAIは2026年2月23日(現地時間)にこのプログラムを発表し、4つの主要コンサルティング企業との複数年にわたるパートナーシップを公表しました。発表文によると、財務面の詳細は共有されていません(参照*1)。
この提携は、OpenAIが企業にAIを実質的に採用してもらうために、さまざまなアプローチを試す用意があることを示すものとして位置づけられています。先に発表されたAIエージェント用プラットフォーム「Frontier」を軸に、各パートナーが戦略からシステム実装までを担います(参照*2)。発表内容を確認する際は、パートナーシップの対象範囲と契約期間に着目するとよいでしょう。
パートナー4社の顔ぶれと複数年契約の枠組み
Frontier Alliancesに参加するのは、Boston Consulting Group(BCG)、McKinsey & Company、Accenture、Capgeminiの4社です。いずれもグローバルで企業変革を手がけてきた実績を持つコンサルティング企業であり、OpenAIとの契約は複数年にわたります(参照*3)。
4社それぞれがOpenAIの技術に関する認定を受けた専門チームを編成し、技術力と業界知見を組み合わせて企業顧客を支援する体制を構築します。各パートナーは専用の実践グループを立ち上げ、AIの導入を確実かつ大規模に進める役割を負います(参照*4)。どの企業がどの領域を担うかは、この後に整理します。
なぜ今Frontier Alliancesが必要なのか——背景と課題

エンタープライズAI導入を阻む「機会格差」の実態
大企業がAIを本番環境で動かすためには、技術そのものだけでは足りません。導入を妨げる主な障壁は、データの整備、運用モデル、技術とデジタル活用の準備状況、さらには業界・機能・ドメインの知識と専門性であると指摘されています(参照*5)。
こうした障壁を乗り越えられる企業とそうでない企業の間に「機会格差」が生まれます。大規模な企業では、データが分断されたままの状態や、旧来のシステム、そして新技術を全社に広げるための社内調整の難しさが導入を阻んでいます(参照*4)。自社がどの障壁に直面しているかを洗い出すことが、Frontier Alliances活用の出発点になります。
データサイロ・断片化されたガバナンスという構造問題
企業はすでに、複数のクラウド、データ基盤、アプリケーションにまたがるバラバラのシステムとガバナンスに圧倒されています。AIはその断片化をより目に見える形にし、多くの場合いっそう深刻にしました。エージェントがあちこちで導入される一方、それぞれが孤立した状態で動いていると指摘されています(参照*6)。
Frontier Alliancesは、こうした構造的な課題と技術導入の間にあるギャップを埋めるために設計されたプログラムです。自社のデータ基盤がどれだけ分散しているか、ガバナンスの統一度合いがどの水準にあるかを把握することで、必要な支援の範囲を見極められます。
Frontierプラットフォームの全体像と仕組み

共有ビジネスコンテキストとセマンティックレイヤーの役割
Frontierは、分断されたデータウェアハウス、CRM、チケット管理ツール、社内アプリケーションをつなぎ、AIコーワーカー(AIが同僚のように業務を担う仕組み)に共有されたビジネスの文脈を与えます。AIコーワーカーは情報の流れ、意思決定の場所、求められる成果を理解できるようになります。Frontierは、すべてのAIコーワーカーが参照できる「企業向けのセマンティックレイヤー(意味の統一基盤)」として機能します(参照*6)。
OpenAIはFrontierを、AIエージェントがビジネスソフトウェアを横断し、ワークフローを実行し、組織全体の技術スタックで意思決定を行える統一プラットフォームと説明しています。初期の企業顧客にはIntuit、State Farm、Thermo Fisher、Uberが含まれます(参照*7)。
AIコーワーカーの構築・展開・管理サイクル
Frontierの大きな特徴は、既存のシステムを入れ替える必要がない点です。すでに利用しているデータやAIを、導入済みの場所でそのまま整理・統合できます。オープン標準を採用しており、新しいデータ形式への移行や、展開済みのエージェント・アプリケーションの廃棄は求められません(参照*8)。
つまり、AIコーワーカーの構築から展開・管理までを、既存の環境を壊さずに進められるのがFrontierの設計思想です。新しいツールを導入するたびに全体を作り直すのではなく、いまあるシステムの上にAIの層を重ねていく方法と捉えると分かりやすいでしょう。
アイデンティティ・権限・ガバナンスの設計思想
AIエージェントが社内の多くのシステムにアクセスできるということは、誰がどの情報を見られるか、どの操作を許可するかの管理が欠かせないということです。Frontierは、複数のクラウドやアプリケーションにまたがって断片化していたガバナンスを、一つの基盤に統合する設計を採っています(参照*6)。
エージェントごとに閲覧できるデータや実行可能な操作を限定し、組織全体のセキュリティ方針と整合させる仕組みです。自社の権限管理ルールがFrontier上でどのように反映されるかを事前に確認しておくことが、導入後の混乱を防ぐ鍵になります。
4社の役割分担——戦略系とシステム統合系の違い

BCG・McKinsey:戦略策定とオペレーティングモデル再設計
BCGとMcKinseyは主に戦略とオペレーティングモデルのパートナーとして位置づけられています。経営層がエージェントをどこに、どのように大規模展開するかを見極める支援を行います(参照*7)。
McKinseyのAI部門であるQuantumBlackは、技術力と業界知見を組み合わせ、もっとも価値の高いワークフローにエージェントを組み込む役割を担います。BCGはBCG Xというユニットを通じて、AI変革が実際のビジネス運営を反映し、測定可能な成果を生むことを目指します(参照*9)。OpenAIの最高執行責任者Brad Lightcapは、BCGとの複数年パートナーシップが「企業にAIの協働者をもたらす助けになる」と述べました(参照*10)。
Accenture・Capgemini:エンドツーエンドのシステム統合と大規模展開
AccentureとCapgeminiは、エンドツーエンドのシステム統合という実務寄りの役割を担います。データ設計、クラウド基盤、企業が実際に運用しているシステムにFrontierを接続する、手間のかかる作業を引き受けます(参照*7)。
Accentureの旗艦AIプログラムは、金融サービス、ヘルスケア、公共部門、小売を含む産業分野で、旧来のプロセスをAI搭載のワークフローへ転換する支援を行います(参照*11)。Capgeminiは、深いセクターとドメインの経験、戦略・変革能力、AI・データ・クラウド資産を活かして統合的なビジネス変革を実現し、消費財・小売、金融サービス、ライフサイエンス、エネルギー・ユーティリティなどに焦点を当てた業界別ソリューションをOpenAIと共同開発します(参照*5)。
Forward Deployed Engineering(FDE)チームとの連携体制
Frontier Alliancesでは、OpenAIの現場実装支援チーム(Forward Deployed Engineering:FDE)が4社のコンサルタントと組んで企業顧客を支援します。FDEはOpenAI内部のエンジニアリング部隊で、顧客の現場に入り込んで技術を実装する役割を持ちます。各コンサルティングパートナーはOpenAI技術の認定を受けた専門グループを編成し、技術力と業界・変革の経験を掛け合わせます(参照*4)。
この体制では、OpenAI側が技術的な問題解決を担い、パートナー4社が業務プロセスや組織変革を支える分業が成り立ちます。自社がどちらの支援を優先的に必要としているかを見定めたうえで、適切なパートナーとFDEチームの組み合わせを検討することが実務上の判断点になります。
Frontier Alliances導入のメリットと注意すべきリスク

パイロット段階を脱し測定可能なROIを生む利点
Frontierの紹介では、具体的な成果が報告されています。ある大手メーカーでは、エージェントが生産最適化の作業を6週間から1日に短縮しました。グローバルな投資会社では、営業プロセス全体にエージェントを展開した結果、営業担当者が顧客と過ごせる時間が90%以上増加しました。大規模なエネルギー企業では、エージェントの支援により生産量が最大5%向上し、10億ドル以上の追加収益につながっています(参照*6)。
こうした事例は、試験導入の段階を超えて測定可能な投資対効果を生み出せることを示しています。自社のどの業務プロセスで同様の時間短縮や収益増が見込めるかを、対象領域ごとに検証するとよいでしょう。
ベンダーロックインとSaaS企業への影響リスク
一方で、Frontierのようなプラットフォームを採用する際にはベンダーロックイン(特定の提供元に依存して切り替えが難しくなる状態)のリスクが指摘されています。ワークフロー自動化の基盤を特定のLLM提供元に紐づけることへの懸念は、技術者コミュニティでも繰り返し表明されています(参照*8)。
さらに、Frontier Alliancesの登場は、Salesforce、Workday、Microsoft、ServiceNowといった既存のSaaS提供元にとって厄介な展開となり得ます。これらの企業もまた、大手コンサルティング企業というシステム統合の担い手に依存してソフトウェアを大企業や政府機関へ展開してきたためです(参照*7)。導入を検討する企業は、ロックインの程度と既存SaaS資産との共存可能性を事前に評価することが欠かせません。
競合比較——AnthropicやSaaS各社との違いと判断基準

OpenAIがFrontier Alliancesを打ち出した背景には、競合の動きがあります。AnthropicもDeloitteやAccentureを含むコンサルティング大手と契約を結んでおり、Claude CodeやClaude Coworkといった製品でビジネス市場に進出しています(参照*2)。Frontier Alliancesは、Anthropicからエンタープライズ向けAI市場の勢いを奪おうとするOpenAIの取り組みの一部と位置づけられています(参照*7)。
MicrosoftやGoogleもまた、独自のAI基盤とパートナーシップで法人顧客を獲得しようとしています。OpenAIにとってFrontier Alliancesは、信頼あるビジネスネットワークと導入実績を活用し、大規模展開へのより確かな道筋を自社プラットフォームに与える手段です(参照*4)。企業が選定する際は、自社の既存システム構成、対象業界への対応実績、ロックインの許容度を軸に各社の提供内容を比較するのが判断の基本線になります。
企業が取るべき次の一手——導入ステップと実践ポイント

Frontier Alliancesを活用してAI導入を進めるには、まず社内の準備状態を正確に把握する必要があります。AIによるインパクトを実現するためには、経営層の合意形成、ワークフローの再設計、システムおよびデータの統合、そして導入を推進するためのチェンジマネジメントが不可欠です(参照*3)。
Frontier Alliancesは、試験導入を繰り返すだけの状態から抜け出し、規制対応が求められる環境でも自律的なAIを展開するための認定されたロードマップを提供するとされています(参照*9)。医療、金融サービス、保険、自動車、小売、公共部門を含む幅広い産業での展開が想定されています(参照*12)。自社が属する業界にパートナーの知見がどの程度あるかを確認し、経営合意の取り付け、対象ワークフローの選定、データ統合の範囲確認、変革推進体制の整備という4つのステップを順に進めていくとよいでしょう。
おわりに
OpenAIのFrontier Alliancesは、技術と経営の両面からAI導入を支える新たな枠組みです。戦略立案を得意とするBCG・McKinseyと、システム統合に強いAccenture・Capgeminiの役割分担を理解することが、自社に合った活用法を見つける手がかりになります。
導入の可否を判断するには、データ統合の現状、ガバナンスの成熟度、ベンダーロックインの許容範囲を洗い出すことが先決です。Frontier Alliancesの枠組みを自社の課題に当てはめ、どのパートナーとどの領域から着手するかを具体的に検討してみてください。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
参照
- (*1) CNBC – OpenAI lands multiyear deals with consulting giants in enterprise push
- (*2) TechCrunch – OpenAI calls in the consultants for its enterprise push
- (*3) Infoseekニュース – OpenAI、マッキンゼーやアクセンチュアなどが参画する「Frontier Alliances」発表|Infoseekニュース
- (*4) TNW | Business – OpenAI forms “Frontier Alliances” with top consultancies
- (*5) Capgemini – Capgemini joins forces with OpenAI to accelerate new era of AI-powered enterprise transformation with Frontier Alliance
- (*6) Introducing OpenAI Frontier
- (*7) Fortune – OpenAI partners with McKinsey, BCG, Accenture, and Capgemini to push its Frontier AI agent platform
- (*8) InfoQ – OpenAI Launches Frontier, a Platform to Build, Deploy, and Manage AI Agents across the Enterprise
- (*9) OpenAI Frontier Alliances: Big Four to Scale AI Coworkers (February 2026)
- (*10) Japan – JP – BCG and OpenAI Expand Partnership With OpenAI Frontier Alliance
- (*11) OpenAI and Accenture Accelerate Enterprise Reinvention with Advanced AI
- (*12) BCG Global – BCG’s Partnership with OpenAI