BRICSのAIオープンソース共同体、5つの協力案の先頭に置かれた理由

2026.09.16

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BRICSのAIオープンソース共同体、5つの協力案の先頭に置かれた理由

この記事のまとめ

BRICS首脳会議で、中国の習近平国家主席は「AIオープンソース共同体」の設立を提案しました。これは中国が示した5つの協力イニシアチブの筆頭に位置づけられています。本記事では、その内容と背景、共同宣言との温度差、残された不確実性という4つの論点を整理します。

  • 中国はBRICS AIオープンソース共同体の設立を主導し、大規模言語モデルの開発・応用における協力や、専門セミナー・研修コースの開催を進めると表明しました。
  • この提案は、貿易・投資、デジタル産業、スマート製造、科学技術人材と並ぶ5つの協力案の筆頭に置かれています。
  • 一方のニューデリー宣言は、AI資源へのアクセスや安全性・包摂性の確保を掲げるにとどまり、習氏の提案を名指しで支持してはいません。
  • BRICS加盟国間のAI格差や規制の違い、開放性がかえって依存を招きかねない点など、実効性に向けた課題も指摘されています。

AIオープンソース共同体の内容

AIオープンソース共同体の内容

提案された協力内容

まず、中国側が示した具体的な提案内容を確認します。発表の構造を見ると、単なる理念の表明ではなく、実施主体・対象・手段・目的がセットで語られており、政策メッセージとしての設計は整っています。

中国は、BRICS AIオープンソース共同体の設立を主導する方針を示しました。あわせて、大規模言語モデル(LLM)の開発・応用における協力を後押しし、専門的なAIセミナーや研修コースを開設することで、開かれたAIエコシステムを構築するとしています(参照*1)。

この発言は、ニューデリーで開催されたBRICS首脳会議において習近平国家主席が行ったものです。習氏は、途上国間のAI協力と発展を推進するために中国が主導的な役割を果たすと述べました。

この内容は、中国外務省が日曜日に発表した声明で明らかにされています(参照*2)。

ただし、これらはあくまで中国側からの提案であり、BRICS全体の合意に基づく枠組みとして確定したものではありません。なお、本構想は報道によって「コミュニティ」や「プラットフォーム」など表記に揺れがあります。

オープンソースとLLMの基礎

前提となる基本概念を整理しておきます。

オープンソースとは、ソフトウェアの設計図(ソースコード)を公開し、誰もが利用や改変を行えるようにする考え方です。開かれたエコシステムとは、そうしたオープンな基盤をもとに、多様な国、企業、技術者が集まり、連携しながら開発を進める環境を指します。中国は、こうしたAIエコシステムの構築を掲げています(参照*1)。

大規模言語モデル(LLM: large language model)は、膨大な文章データを学習し、言語処理を行うAIモデルを指します。今回の提案では、LLMの開発とその実用化に向けた協力支援が盛り込まれました。この共同体構想は、モデルの開発から社会実装までの両面を視野に入れた内容となっています。

閉じたモデルとの対比

オープンソース路線の強調は、一部の米国企業が採る方針との対比として語られています。ここで注意が必要なのは、「オープンソース」という言葉が持つ含意です。

報道によると、中国は国内外のユーザーに向けて、米国の技術に依存しない低コストな代替手段となるAIエコシステムの確立を目指しています。この戦略は、OpenAIやAnthropicといった米国の有力企業が主導するクローズドモデル(非公開型)の開発姿勢と対照的なものとして位置づけられています(参照*3)。

ただし、中国のオープンな姿勢にも限界があるとの指摘がなされています。習氏は技術開発と安全保障のバランスを重視するよう求めており、中国の政策論評でも従来、先端AIモデルの最も強力な機能へのアクセスを制限する方針が支持されてきました(参照*3)。

なお、これらはメディア各社による分析であり、どちらの開発手法が優れているかという優劣を示すものではありません。

私自身、ChatGPTやClaude、Geminiといったクローズドモデルと、Metaが公開するLlamaのようなオープンウェイトモデルを実務で使い比べてきた経験から言うと、「オープンかどうか」だけで優劣は語れません。重要なのは、利用者側にモデルを評価・改変・検証する技術的な体力があるかどうかです。その体力が伴わなければ、オープンソースは「無料で使えるが中身はわからない」ツールになるだけです。

5つの協力案の先頭に置かれた背景

5つの協力案の先頭に置かれた背景

5つのイニシアチブの全体像

AIの提案は、提示された5つの協力案の筆頭に位置づけられました。

現地時間9月13日午前、習近平国家主席はニューデリーで開催された第18回BRICS首脳会議の第2セッションに出席し、「BRICS協力の基盤を固め、グローバルサウスの力を強化する」と題した声明を発表しました。その第1項目に挙げられたのが「オープンソースで包摂的なAIイニシアチブ」であり、共同体の設立主導、大規模言語モデルの開発・応用支援、専門セミナーや研修コースの開設、開放的なエコシステムの構築が盛り込まれました。第2の「貿易・投資円滑化イニシアチブ」では、BRICS特別経済区パートナーシップの設立とスマートポータルを通じた政策調整を提案。

第3の「デジタル産業協力イニシアチブ」では、BRICSデジタルエコシステム・クラウドプラットフォームの構築を通じた技術交流や産業連携を打ち出しました。さらに第4の「スマート製造協力イニシアチブ」では、加盟国におけるスマート工場の建設支援や基準・規範の策定を掲げています(参照*4)。

そして第5項目となる科学技術人材の育成に関しては、中国が「BRICS技術者育成同盟」の設立を提案し、イノベーション促進に向けた「BRICS青年交流プログラム」を開始する方針を示しました(参照*1)。

グローバルサウス結集という文脈

AIが最優先課題として5つのイニシアチブの筆頭に置かれた背景には、グローバルサウスの結束を主導したい意図が読み取れます。言い換えれば、AIは技術政策であると同時に、地政学的なメッセージでもあります。

習近平主席は、グローバルサウス諸国が共同で安全保障ガバナンスを推進し、従来型・非従来型双方の脅威に対処するとともに、地球規模の気候ガバナンスを改善すべきだと主張しました。そのうえで、新技術が共有された繁栄の糧となるよう、国際的な合意に基づくAIガバナンス枠組みの構築を急ぐよう呼びかけています(参照*5)。

首脳会議の第1セッションでも、習氏はAI分野での連携強化を訴えました。BRICS諸国が主導権を握り、オープンソース、開放、協力、共有を促進すべきだと強調。

さらに、中国が関係各国とともに「世界AI協力機構」を発足させ、BRICS諸国などと「国際AI応用協力センター」を発展させてきた実績に触れ、これらがグローバルサウスの重要な協力基盤になるとして積極的な参加を歓迎しました(参照*6)。

研修・人材・基盤とのセット構造

共同体の提案は、単体の構想ではなく、他の支援策とパッケージで設計されています。

報道によると、この提案は包括的な技術協力プログラムの一環です。習氏は「BRICSデジタル・エコシステム・クラウド・プラットフォーム」の設立を提案し、中国としてデジタル経済の発展を支援するため、スキル研修や技術交流、産業連携を推進すると表明しました(参照*7)。

あわせて人材育成の枠組みも提示されています。

技術者の共同育成と能力基準の相互承認を目指す「BRICS技術者育成同盟」の立ち上げや、科学技術イノベーションを担う「BRICS青年交流プログラム」の開始により、高度な専門人材を育てる計画です(参照*1)。

このように、AI共同体、クラウド基盤、人材育成の3要素が一体となって提案されています。ただし、現時点ではあくまで構想段階であり、具体的な成果はこれからの課題です。

共同宣言との温度差

共同宣言との温度差

ニューデリー宣言のAI記述

採択された首脳共同宣言における表現は、習氏の提案に比べて抽象的な内容にとどまっています。この温度差は、見逃すべきでないポイントだと思います。

「レジリエンス、イノベーション、協力、持続可能性のための構築」と題するニューデリー宣言は、2026年9月12日にインドで発表されました。第81項では、AIが包括的な経済成長と持続可能な開発をもたらす重要な機会であると認めています。そのうえで、AI資源へのアクセスを拡大しつつ、安全性、セキュリティ、包摂性、信頼性を担保し、AIのエネルギー効率向上や科学イノベーションの育成に向けた国際協力が、グローバルサウスをはじめとするすべての国に不可欠であると留意しました。

また、2026年2月にインドが開催した「AIインパクト・サミット」の成功を評価し、共通の優先事項を推進する国際協力の強化に資するものとして歓迎しています(参照*8)。

議長国インド側の報道も同様のトーンで報じています。

AIを経済成長と持続可能な開発の契機と位置づけ、加盟国が安全・確実・包摂的で信頼できるAI協力に取り組む合意を形成したとまとめ、2026年2月のサミット実績にも言及しました(参照*9)。

参加国の反応と不確実性

他の加盟国がこの提案にどこまで同調するかは、現段階では不透明です。

土曜日に発表された共同宣言では、習近平氏の提案に対する名指しでの支持は見送られました。宣言は包括的なAIアクセスの拡大や、安全性・信頼性の確保に向けた国際協力を求める一般的な記述にとどまっています。インドやアラブ首長国連邦(UAE)をはじめとする加盟国から、中国主導の構想がどの程度の実質的な支持を得られているかは判明していません(参照*3)。

もっとも、共同宣言に明記されていないことは必ずしも反対を意味するわけではありません。各国の支持や賛同の度合いがまだ見極められない状況といえます。

ただし、私が注目するのはこの「温度差」そのものです。企業のコンテンツ発信でも、発表者の主張と、それを受け取った組織の公式見解がずれることはよくあります。宣言に名指しが入らなかった事実は、他の加盟国が慎重な立場をとっているシグナルとして読むべきでしょう。「反対ではないが、約束もしていない」という状態は、実務的には「白紙」に近い。

共同体をめぐる論点と課題

共同体をめぐる論点と課題

BRICS内部の格差と相違

BRICSにおけるAI協力には、加盟国間の構造的な差異という課題が存在します。

2026年7月17日、復旦大学シンクタンクによる報告書「グローバルサウスの視点から見たBRICSのAI協力拡大:機会と課題」が、2026年世界人工知能大会(WAIC 2026)のフォーラム「グローバルAIガバナンスと持続可能な発展:課題と対応」で発表されました。報告書は、加盟国が拡大したBRICSは多様性が高く、合意形成のコストも大きいと指摘。

課題として、①加盟国間のAI開発格差、②国家戦略上の位置づけの違い、③法規制アプローチの違い、④欧米への技術依存度と協力関係の差、⑤一部先進国による技術的制約、⑥多国間枠組みへの認識の差、⑦世界的なAI統治への関与不足、⑧デジタル・AI主権への解釈の違い、という8つの側面を挙げています(参照*10)。

これはシンクタンクによる現状分析であり、特定国の政策の是非を論評するものではありません。

開放性と依存のジレンマ

「オープンであること」が直ちに技術的自立をもたらすとは限らない、というジレンマも指摘されています。これは、生成AI導入を支援する中で私が現場で繰り返し見てきた構造とも重なります。

カーネギー国際平和基金の政策分析では、AI主権を支える重要な要素として「開放性」が挙げられています。オープン化は参入障壁を引き下げ、分散型の実験や迅速な普及を可能にします。しかし一方で、開放性が無条件の恩恵をもたらすわけではないとも指摘されています。

オープンな技術要素の多くは、最終的に少数の支配的企業が保有する独自基盤(技術スタック)に組み込まれ、結果として開発コストを外部化しながら利益の大半を独占する構造を生みやすいとされています。さらに、利用国側にコードを改変・監査できる高度な人材が不足している場合、単に外部技術へ受動的に依存する構造から抜け出せなくなるリスクが警告されています(参照*11)。

生成AIの導入相談を受ける中で感じるのは、「使えるツールがある」ことと「使いこなせる組織である」ことの間には、大きな溝があるということです。オープンソースのモデルを提供されても、それを評価・改変・運用できる人材がいなければ、結局は「誰かが整備したエコシステムに乗るだけ」になります。BRICS各国の現状を見ると、この問いはかなり切実なはずです。

おわりに

中国はBRICS AIオープンソース共同体の設立を掲げ、大規模言語モデルの共同開発や人材育成、開放的なエコシステムの構築を提案しました。この構想は、貿易・投資や製造業支援などと並ぶ5つの協力案の筆頭に位置づけられており、AIを単なる技術課題ではなく地政学的な優先事項として扱っていることがわかります。

一方で、2026年9月12日のニューデリー宣言は、AI資源へのアクセス拡大や安全性・包摂性の確保といった一般的な原則の提示にとどまりました。インドやアラブ首長国連邦をはじめとする加盟国の支持を取り付けられるか、また復旦大学の報告書が指摘した各国のAI格差や規制方針の違いをいかに調整できるかが、今後の進展を見極める鍵となります。私が注目しているのは、構想の内容よりも「誰が実際に使いこなせるか」という実装の問いです。オープンソースという旗印が、技術的自立ではなく別の依存構造を生む可能性は、関係各国が真剣に検討すべき論点だと考えています。

監修者

安達裕哉(あだち ゆうや)

デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、95万部(2026年6月時点)を売り上げる。
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