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はじめに
AIエージェントを自社サービスに組み込みたい企業が増えるなか、安全なコンテナ設計や状態管理、認証の仕組みなど、本番環境に載せるまでの基盤づくりに何か月もかかることが課題でした。こうした基盤整備を後回しにすると、試作段階では動いたエージェントが本番で想定外の動作をしたり、セキュリティ上の問題を抱えたまま公開されたりするリスクが高まります。
Anthropicが公開ベータとして発表したClaude Managed Agentsは、エージェントの実行基盤をプラットフォーム側が受け持つことで、試作から本番公開までを数日に短縮できる仕組みです。本記事では、公式ブログや技術ドキュメントの情報をもとに、Managed Agentsの定義、構成要素、主要機能、導入手順、企業の活用事例、料金、そして導入時の注意点までを順に説明します。
Managed Agentsの定義と背景

Managed Agentsとは何か
Claude Managed Agentsは、エージェントの実行に必要な基盤をAnthropicのClaudeプラットフォーム上で一括して提供するサービスです。公式のX投稿では「エージェントを大規模に構築・展開するために必要なすべてをまとめた仕組み」であり、性能に最適化されたエージェントハーネスと本番向けインフラを組み合わせることで「試作から本番公開まで数日で到達できる」と説明されています。公開ベータとしてClaudeプラットフォーム上で利用可能な状態です(参照*1)。
公式ブログでも同様に、性能チューニング済みのエージェントハーネスと本番インフラの組み合わせにより、これまで数か月かかっていた開発を数日に圧縮できると記載されています(参照*2)。つまりManaged Agentsは、エージェントの「頭脳」にあたるモデル部分だけでなく、実行環境・ツール呼び出し・状態保持といった「身体」にあたる部分まで一体で提供する点が特徴です。自社でエージェント基盤を検討している場合は、この仕組みがカバーする範囲と自社で構築が必要な範囲を分けて整理することが出発点になります。
従来のエージェント開発の課題
本番環境でエージェントを動かすには、サンドボックス化されたコード実行、チェックポイント、認証情報の管理、権限のスコープ設定、エンドツーエンドのトレース記録など、多くの基盤要素が必要です。ある技術メディアの報道では、Anthropicのチームが「これらの基盤を整えるだけで、ユーザーの目に触れるものを出荷する前に何か月もかかる」と述べていると紹介されています。同報道によると、Managed Agentsはこのプロセスを10倍速くすると約束しており、その理由の一端として、サンドボックス化・認証・ツール実行の仕組みを一式提供している点が挙げられています(参照*3)。
公式ブログでも、従来のエージェント構築は安全なインフラ整備、状態管理、権限設定、モデルのアップグレードごとのエージェントループ再構築に開発サイクルを費やす必要があったと述べられています(参照*2)。自社でエージェント開発を進めている場合は、現時点でこれらの基盤づくりにどれだけの工数を投じているかを把握し、Managed Agentsへ移行した場合の工数削減幅を見積もることが判断材料になります。
アーキテクチャと中核概念

Agent・Environment・Session・Event
Claude Managed Agentsは4つの概念を軸に設計されています。1つ目のAgentは、モデル・システムプロンプト・ツール・MCPサーバー・Skillsをまとめた再利用可能な設定です。2つ目のEnvironmentは、パッケージやネットワークアクセスを定めたコンテナテンプレートです。3つ目のSessionは、AgentとEnvironmentを結び付けて特定のタスクを実行し、出力を生成する稼働中のインスタンスにあたります。4つ目のEventは、アプリケーションとエージェントの間でやり取りされるメッセージで、ユーザーの入力、ツールの結果、ステータス更新などを含みます(参照*4)。
公式クックブックでも、AgentとEnvironmentは一度作成すれば多くのSessionで再利用でき、各Sessionは1回の自己完結した実行であると説明されています(参照*5)。この4つの概念をまず押さえたうえで、自社のユースケースに合わせてAgentの設定やEnvironmentのテンプレートをどう分けるかを設計することが、構築の第一歩です。
エージェントループの仕組み
ユーザーがイベントを送ると、Managed Agentsは一連の処理を自動で進めます。公式のクイックスタートガイドによると、まずEnvironmentの設定に基づいてコンテナが用意されます。次にエージェントループが起動し、Claudeがメッセージの内容をもとにどのツールを使うかを判断します。ファイル書き込みやbashコマンドなどのツール呼び出しはコンテナ内部で実行されます。その間、エージェントの動作状況はイベントとしてリアルタイムにストリーミング配信されます。やるべきことがなくなると、セッションはsession.status_idleイベントを発行してアイドル状態に入ります(参照*6)。
また、エージェントとの通信はすべてイベントベースで設計されており、イベントの型名は{domain}.{action}という命名規則に従います(参照*7)。開発者は、このイベントストリームを自社のフロントエンドや管理画面に接続し、エージェントの進捗をユーザーへ可視化する設計を行うことになります。
主要機能と拡張性

ビルトインツールとMCP連携
Claude Managed Agentsは、外部ツール・データソース・サービスへのアクセスを標準化した通信規格であるModel Context Protocol(MCP)サーバーへの接続をサポートしています。MCP設定は2段階に分かれます。Agent作成時に接続先MCPサーバーの名前とURLを宣言し、Session作成時にあらかじめ登録したVault(認証情報の保管庫)を参照して認証を供給します(参照*8)。
この仕組みにより、エージェントはコンテナ内のファイル操作やコマンド実行に加え、外部のAPIやデータベースにもMCP経由でアクセスできます。自社で連携させたい外部サービスがある場合は、そのサービス用のMCPサーバーが利用可能かを確認し、Vaultに格納する認証情報の管理フローをあらかじめ決めておく必要があります。
Skills・Memory・マルチエージェント
Skillsは、ファイルシステムベースの再利用可能なリソースで、ワークフロー・文脈情報・ベストプラクティスをエージェントに読み込ませて専門家化させます。会話レベルで指示する単発のプロンプトとは異なり、Skillsは必要なときだけオンデマンドで読み込まれるため、コンテキストウィンドウへの影響を必要最小限に抑えられます(参照*9)。
Managed AgentsのSessionは初期設定では一時的であり、セッション終了と同時にエージェントが学習した内容は消えます。メモリストア(Memory Store)を利用すると、ユーザーの好み・プロジェクトの規約・過去の失敗・ドメイン固有の文脈をセッションをまたいで保持できます(参照*10)。
さらに、マルチエージェント機能では、1つのエージェントが他のエージェントを並列で調整しながら複雑な作業を完遂できます。すべてのエージェントは同じコンテナとファイルシステムを共有しますが、各エージェントは独自のセッションスレッドで動作し、会話履歴が分離されたイベントストリームを持ちます。これにより出力品質と完了までの速度の両方を高められると説明されています(参照*11)。Skills・Memory・マルチエージェントのうち、どの機能を組み合わせるかはユースケースの複雑さに応じて段階的に判断できます。
導入手順とクイックスタート

CLIとSDKによるセットアップ
公式クイックスタートガイドでは、まずCLIをインストールする手順が示されています。macOSの場合はbrew install anthropics/tap/antでインストールし、続けてxattr -d com.apple.quarantine “$(brew –prefix)/bin/ant”でバイナリの検疫属性を解除します。ant –versionでインストール結果を確認したあと、pip install anthropicでPython SDKを導入し、環境変数ANTHROPIC_API_KEYにAPIキーを設定すればセットアップは完了です(参照*6)。
コマンドラインだけでなく、Consoleと呼ばれるブラウザ上の管理画面も用意されています。Consoleはエージェントの作成・設定を視覚的に操作できるインターフェースで、APIの/v1/agentsおよび/v1/sessionsリソースと同じ結果を生成します。設定中は対応するAPIリクエストが画面上に表示されるため、満足のいく設定が固まったらそのままコードにコピーできます(参照*12)。CLIでの操作に慣れていない場合は、まずConsoleで試作を進め、APIリクエストの形を確認してからコードに移すという流れが取れます。
セッション作成からストリーミングまで
AgentとEnvironmentを一度作成すれば、それらを多くのSessionで使い回せます。各Sessionは1回の自己完結した実行であり、エージェントが必要とするファイルをマウントしてイベントストリームを生成します(参照*5)。
Sessionにユーザーイベントを送ると、Environmentの設定に基づいてコンテナが立ち上がり、エージェントループが開始されます。Claudeがメッセージ内容を解析してツールを選択し、ファイル書き込みやbashコマンドなどをコンテナ内で実行します。その進捗はリアルタイムでストリーミングされ、すべての処理が終わるとsession.status_idleイベントが発行されます(参照*6)。開発時はまず小さなタスクでSessionを作成し、ストリーミングイベントの内容を確認しながらAgentの設定やツール構成を調整していくと効率的です。
企業の活用事例

Notion・Asana・Rakutenの導入
Notionはワークスペース内でClaudeに直接タスクを委任できる仕組みを構築しました。公式ブログによると、エンジニアはコードの出荷に、ナレッジワーカーはWebサイトやプレゼンテーションの作成に活用しており、数十のタスクを並列で実行しながらチーム全体で成果物を共同編集できます。この機能はNotion Custom Agentsとしてプライベートアルファで提供されています(参照*2)。
AsanaはManaged Agents上にAI Teammatesを構築しました。Asana内でチームの一員として動作し、割り当てられたタスクを拾い上げるエージェントです。インフラをManaged Agentsに任せたことで、エンジニアリングの時間を複数人が同時に使える体験の開発に集中させたと紹介されています(参照*1)。
Rakutenは、製品・営業・マーケティング・財務の各部門にまたがるエンタープライズエージェントを構築し、SlackやTeamsに接続しました。従業員がタスクを指示すると、スプレッドシート・スライド・アプリなどの成果物が返される仕組みで、それぞれの専門エージェントは1週間以内に展開されたと公式ブログに記載されています(参照*2)。自社の導入を検討する際は、これらの事例における並列実行やチャットツール連携の構成が参考になります。
Sentry・Vibecodeの統合事例
Sentryは、既存のデバッグ用エージェント「Seer」とClaudeを組み合わせた統合フローを構築しました。公式ブログによると、SeerがバグをフラグしたあとClaude搭載エージェントがパッチを作成しプルリクエストを開くところまでを一連の流れで完結させています。この統合はManaged Agentsを利用することで、通常なら数か月かかるところを数週間で出荷できたと記載されています(参照*2)。
エージェント活用の別の事例として、Fountainという現場労働者向け管理プラットフォームは、Claudeを使った階層的マルチエージェント構成を採用しました。中央の指揮エージェント「Fountain Copilot」が、候補者のスクリーニング・書類の自動生成・感情分析といった専門サブエージェントを調整しています。その結果、スクリーニング速度が50%向上し、オンボーディングが40%短縮、候補者のコンバージョンは2倍になったと報告されています(参照*13)。こうした事例では、既存ワークフローのどの段階にエージェントを挟むかが成果を左右していることがわかります。
料金体系と判断基準

Managed Agentsの料金は従量課金制です。公式ブログでは、Claudeプラットフォーム標準のトークン料金に加え、アクティブ実行時間1セッション時間あたり0.08ドルが加算されると説明されています(参照*2)。技術メディアの報道では、アクティブ実行時間はミリ秒単位で計測され、次の入力やツールの応答を待っているアイドル時間は課金対象にならないと補足されています。Web検索をエージェントが行う場合は、1,000回の検索あたり10ドルが別途発生します(参照*3)。
Managed Agentsが適しているワークロードとしては、公式ドキュメントが4つの条件を挙げています。複数回のツール呼び出しを伴い数分から数時間にわたる長時間実行が必要なタスク、パッケージやネットワークアクセスが事前設定された安全なコンテナを使いたい場合、独自のエージェントループやサンドボックスを構築する負担を避けたい場合、そして複数のやり取りにまたがるファイルシステムと会話履歴の永続化が求められる場合です(参照*4)。導入を判断する際は、自社のタスクがこれらの条件にどの程度当てはまるかを照合し、トークン消費量とセッション時間から概算コストを試算することが有効です。
導入時の注意点とベストプラクティス

セキュリティとガバナンス設計
認証情報の扱いは導入初期に設計しておくべき領域です。公式クックブックでは、Vaultという仕組みが「トークンをどこに置くか」という問いへの答えであると説明されています。セッション作成時にトークンを直接書き込む方法は単一テナントの構成では動きますが、エンドユーザーが複数いる構成では破綻します。各ユーザーには固有のGitHub認証情報などが必要であり、それらを互いに隔離しなければなりません。Vaultはユーザーごとの認証情報コンテナで、一度登録すれば以降はIDを参照するだけでSessionに紐付けられます(参照*14)。
MCPサーバーの接続にも注意が必要です。MCPサーバーに接続するということは、認証情報・ファイルシステム・外部APIへの信頼を委ねることを意味します。実際にMCP運用の初年度に確認されたインシデントとして、CVE-2025-6514が報告されています。mcp-remoteのOAuthプロキシにおけるコマンドインジェクション脆弱性で、悪意あるMCPサーバーが細工したauthorization_endpointをシステムシェルに直接渡すことで、クライアントマシン上でのリモートコード実行やAPIキー・SSHキー・クラウド認証情報の窃取が起こり得るもので、深刻度は9.6 Criticalと評価されています(参照*15)。接続するMCPサーバーの信頼性を事前に検証し、Vaultで認証情報をユーザーごとに分離する運用設計を徹底する必要があります。
ツール設計とプロンプト最適化
エージェントに渡すツールの設計は、動作の精度に直結します。Anthropicのエンジニアリングチームは、特定の高効果ワークフローを狙った少数のツールから始め、評価タスクと合致させたうえで拡張していくことを推奨しています。1つのツールが複数の操作やAPI呼び出しを内部でまとめて処理する構成も有効です。ただし、各ツールには明確で重複しない目的を持たせることが求められます。ツールの数が多すぎたり機能が重なったりすると、エージェントが効率的な戦略を追求する妨げになると指摘されています(参照*16)。
Skillsを活用するとシステムプロンプトを膨らませずに専門知識を渡せるため、プロンプトの肥大化を抑えつつエージェントの行動精度を高められます。公式ドキュメントが示すとおり、Skillsは必要時だけコンテキストウィンドウに読み込まれる設計であり、常時ロードされるプロンプトとは異なります(参照*9)。ツールの粒度とSkillsの使い分けを最初に決め、小さな評価タスクで検証してから本番に拡張するという手順を踏むことが堅実な進め方です。
おわりに
Claude Managed Agentsは、エージェント開発における基盤構築の負担を大幅に減らし、試作から本番公開への移行を加速させるプラットフォームサービスです。Agent・Environment・Session・Eventの4概念を軸に、MCP連携、Skills、Memory、マルチエージェントといった拡張機能が段階的に組み合わせられる設計になっています。
導入にあたっては、Vaultによる認証情報の分離やMCPサーバーの信頼性検証、ツール設計の粒度調整など、セキュリティと運用面の設計が欠かせません。まずは公式クイックスタートやConsoleで小さなタスクを動かし、ストリーミングイベントの挙動を確認するところから始めてみてください。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
参照
- (*1) Claude on X: "Introducing Claude Managed Agents: everything you need to build and deploy agents at scale…"
- (*2) Claude Managed Agents: get to production 10x faster
- (*3) The New Stack – With Claude Managed Agents, Anthropic wants to run your AI agents for you
- (*4) Claude API Docs – Claude Managed Agents overview
- (*5) Managed Agents tutorial: iterate on a failing test suite
- (*6) Claude API Docs – Get started with Claude Managed Agents
- (*7) Claude API Docs – Session event stream
- (*8) Claude API Docs – MCP connector
- (*9) Claude API Docs – Skills
- (*10) Claude API Docs – Using agent memory
- (*11) Claude API Docs – Multiagent sessions
- (*12) Claude API Docs – Prototype in Console
- (*13) https://resources.anthropic.com/hubfs/2026%20Agentic%20Coding%20Trends%20Report.pdf
- (*14) https://platform.claude.com/cookbook/managed-agents-cma-operate-in-production
- (*15) NLJUG – Nederlandse Java User Group – 🤖 5 Best Practices for Working with AI Agents, Subagents, Skills and MCP
- (*16) Writing effective tools for AI agents—using AI agents