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この記事のまとめ
Copilot導入企業が抱える主な困りごとは、業務に必要な情報が複数のシステムに分散している点です。従業員数1,000名以上でCopilotを導入している企業に勤め、生成AIやAIツールの導入・活用推進に携わる105名を対象にした調査では、87.5%が情報の分散に課題を感じていると回答しました。この記事では、調査結果の詳細とともに、横断検索の仕組み、アクセス権限の整え方、社内へ定着させる進め方を解説します。
要点は4つあります。
- Copilot・M365だけで社内情報の検索・活用をカバーできていると答えた人は78.0%で、一定の手応えがうかがえます。
- 一方で、M365内外の複数システムに情報が分散していることに課題を感じる人は87.5%にのぼります。
- M365外の情報も横断的に検索・活用できるAI環境があれば自社のAI活用がさらに進む、と答えた人は96.2%でした。
- 横断の手段としてCopilotコネクターとCopilot Searchがあり、Copilotはサインインしたユーザーの権限の範囲でしかデータにアクセスしません。
87.5%が挙げた困りごと

調査の対象と全体像
数値を正確に読み解くために、まず誰を対象に何を聞いた調査なのかを整理しておきます。
この調査の対象者は、明確に絞り込まれています。双日テックイノベーションは、従業員数1,000名以上でCopilotを導入している企業に勤め、生成AI・AIツールの導入や活用推進に携わる人を対象にアンケートを行いました。質問内容は、Copilot・M365による社内情報の検索・活用状況、M365内外に分散する情報の検索・活用における課題、そして横断的なAI環境に対する期待などです(参照*1)。
回答者の属性もはっきりしています。本調査は推進担当者105名からの回答をもとに、Copilotの活用効果、M365内外に分散する情報の検索・活用における課題、M365外のシステムを含む横断的なAI環境への期待を詳しく分析しています(参照*1)。ここで示される数字は、大企業でCopilotをすでに導入し、推進役を担う人たちの回答です。現場のエンドユーザー全体の声ではない点は、読む際に頭に置いておく必要があります。
情報分散という困りごと
調査で扱われた課題は、情報が保管されている場所にあります。
調査結果には、象徴的な2つの数値が示されています。1つ目は、Copilot・M365だけで業務に必要な社内情報の検索・活用をカバーできているかという設問です。「非常にそう思う」の39.0%と「ややそう思う」の39.0%を合わせ、合計78.0%がカバーできていると回答しました(参照*1)。
2つ目は、情報の分散に関する設問です。業務に必要な情報がM365内外の複数システムに分散している状況について、「非常に課題を感じている」が42.3%、「やや課題を感じている」が45.2%となり、合計87.5%が課題視していると答えました(参照*1)。
約8割がカバーできていると感じつつ、約9割が分散に頭を悩ませています。これらは別の観点から尋ねた設問であり、矛盾する結果ではありません。「使えている、でも足りない」という感覚は、ツール導入後の企業によく見られる状態です。
調査元は、この結果を次のように分析しています。Copilot・M365による社内情報の検索や活用には一定の手応えがある一方、M365外を含む複数システムへの情報分散によって、検索や確認にかかる負担が依然として残っている実態がうかがえます(参照*1)。実用への手応えと分散への困りごとが同時に存在しているのが、導入企業の現在の姿といえます。
私がコンサルティングの現場で見てきた感覚とも一致します。生成AIの導入効果を実感し始めた段階で、次に必ずぶつかるのが「参照できる情報が足りない」という壁です。Copilotに限らず、どのAIツールも、アクセスできるデータの範囲でしか答えを出せません。モデルの性能が上がるほど、データ側の整備が次の課題として浮かび上がります。
モデル性能ではない論点
今回の調査で確認された課題は、AIモデルの賢さではなく、参照すべき情報がどこに置かれているかという点です。この視点は重要です。
双日テックイノベーションは、その背景について次のように解説しています。CopilotやM365の導入によって文書作成や情報整理は効率化されるものの、企業が業務で扱う情報はM365以外のツールやシステムにも分散しています。そのため、CopilotやM365を活用していても、必要な情報を探す際に複数のツールを行き来して確認しなければならないケースが生じています(参照*1)。
この調査が確認したのは、検索・活用の現状、分散する情報の課題、横断的なAI環境への期待という3点です(参照*1)。AIモデルの優劣を比較する設問は含まれていません。明確になったのは、データの分散という「置き場所の問題」が、はっきりと数字に表れているという事実です。言い換えれば、AIを入れれば解決するという話ではなく、AIが参照する情報をどう整備するかが本質的な論点だということです。
横断検索という解

横断的なAI環境への期待
情報分散という困りごとの裏返しとして、システムを横断して検索できる環境への高い期待が示されています。
調査では、Copilotに加えてM365以外のシステムにある社内情報も横断的に検索・活用できるAI環境が整えば、自社のAI活用がさらに進むかどうかを尋ねています。「非常にそう思う」が50.5%、「ややそう思う」が45.7%となり、合計96.2%もの推進者が横断的なAI環境に期待を寄せました(参照*1)。
なお、この96.2%という数値はあくまで今後の環境構築に対する期待度を示したものです。横断環境を導入した後の効果測定データではありません。回答者は、従業員数1,000名以上のCopilot導入企業で推進を担う105名です(参照*1)。期待が高い分、導入後に「思ったより使われない」という落差も起きやすい。その意味で、次のステップとして技術仕様と権限管理を正確に理解しておくことが重要です。
コネクターの種類と仕組み
この横断的なデータ連携を可能にする基盤が、Microsoft 365 Copilotコネクターです。仕組みを理解しておくことで、「つながる」「つながらない」の判断が現場でできるようになります。
Microsoftの技術解説によると、Microsoft 365 CopilotコネクターはM365外部のデータソースと接続し、CopilotやMicrosoft Searchが扱える情報範囲を拡張します。連携方式は主に2種類です。
外部データのインデックスをあらかじめ作成する「同期コネクター」と、リアルタイムで直接データに接続する「フェデレーションコネクター」から選択できます。この柔軟な仕組みにより、ユーザーはM365アプリやCopilotを通じて、M365内外のデータをセキュアに検索し、操作することが可能になります(参照*2)。
接続先を一から独自開発する必要もありません。Microsoftは主要なサービス向けに100種類以上の事前構築済みコネクターを用意しています。主な対応先は3分野に分けて示されています(参照*2)。
- ファイル共有やコンテンツ管理分野では、Box、Dropbox、Google Drive、Confluence、MediaWiki、ネットワークファイル共有に対応します。
- 業務アプリやデータベース分野では、Salesforce、ServiceNow、Dynamics 365、Azureサービス、SQL/Oracleデータベース、SAPが提供されています。
- その他のプラットフォームでは、Workday、Zendesk、Jiraなどをカバーしています。
Copilot Searchでできること
横断検索の総合的な入り口となるのが、Microsoft 365 Copilot Searchです。
Microsoftの公式資料において、Copilot SearchはM365内外の関連情報をすばやく見つけ出すAI搭載のエンタープライズ検索と位置づけられています。デスクトップ、Web、モバイルの各環境でCopilotアプリに組み込まれる統合検索レイヤーです。
機能には、ユニバーサル検索と自然言語理解があります。ユニバーサル検索によりメール、ファイル、チャット、会議、外部システムのデータを安全かつ高速に探し出し、自然言語理解によって「第4四半期の予測を表示」や「KPIを定義して」といった日常会話のフレーズから意図を読み取ります(参照*3)。
実際のユースケースも分かりやすく示されています。たとえばユーザーが「経費報告書を提出するにはどうすればよいですか」と入力すると、Copilot SearchはM365と連携済みの外部システムを一括検索します。コネクター経由で社内の財務Wikiに関連記述が見つかった場合、Copilotはその情報を参照元として引用しながら、要点をまとめた回答を自動生成します(参照*2)。
横断する前に整える権限

ユーザー権限とデータ境界
外部システムへ横断接続した場合でも、Copilotがアクセスできる範囲は利用ユーザー自身の権限内に限られます。ここは設計上の重要な前提です。
Microsoftのアーキテクチャ解説によれば、CopilotがM365のサービス境界内で動作していても、テナント全体の全データを自由に閲覧できるわけではありません。情報へのアクセス権は、常にサインインしているユーザー個人の権限範囲に制限されています(参照*4)。
アクセス可否の判定は、既存のセキュリティ基盤に基づいて行われます。Copilotは、M365が備えるロールベースのアクセス制御などに従い、そのユーザーに閲覧許可があるデータのみを参照します。本人が閲覧権限を持たないデータには、Copilotもアクセスできません(参照*4)。
つまり、Copilotが回答に利用できる情報の境界線は、社内で設定されているアクセス権そのものによって決まります。裏を返せば、アクセス権の整備が不十分なまま横断検索を広げると、意図せず機密情報が参照される状況をつくりかねません。
過剰共有とインデックスの確認
外部データを連携させる際は、インデックス側の権限設定が検索結果の露出範囲に直接影響します。
Microsoftは、コネクター経由でインデックスされた項目のアクセス許可について指針を示しています。アクセス権は、各項目に紐づくグループやユーザー単位で一覧管理されます。
ステータスが「許可」であれば対象ユーザーは項目を表示でき、「拒否」であれば閲覧できません。接続設定において、アクセス権が「特定権限を持つユーザーのみ」ではなく「全員を許可」に設定されていると、インデックス内の全データが組織全体に公開され、個別の制限が働かなくなります(参照*5)。
また、権限変更の反映タイミングにも留意が必要です。ユーザーやグループのアクセス制御リスト(ACL)を変更した場合、Microsoft SearchやCopilotに反映されるまで最大24時間を要することがあります。アクセス許可の更新処理は、差分の増分クロールではなく完全クロールのタイミングで実行されるためです(参照*5)。
Microsoftは自社での全社展開において、データガバナンスの整備を進めています。Copilotによって組織内のデータ検索が容易になるからこそ、機密情報を守るためのデータ衛生管理が不可欠であるとしています。同社では感度ラベルを使用し、従業員が必要なデータへアクセスできるようにしながら、機密情報へのアクセスを制限しています(参照*6)。
私が生成AI導入支援を行う中で痛感するのは、ツールの設定より先にデータガバナンスの議論が必要だという点です。「どこに何があるか」「誰がどこまで見てよいか」が整理されていない状態で横断検索を動かすと、便利になるよりも先に情報漏洩リスクの話が出てきて、プロジェクトが止まります。横断検索の導入は、技術の問題ではなく、組織のデータ整理の問題だと考えたほうが現実に近いです。
社内に定着させる進め方

推進体制と研修の事例
検索基盤を導入したあと、それを現場に定着させて日常的に活用してもらうことは、技術導入よりも難しい課題です。推進体制の設計が鍵を握ります。
NTTPCコミュニケーションズでは、全社の各部門に推進担当者を配置する「ナレッジハブ」という仕組みを立ち上げました。約50名の担当者が任期1年で活動し、取り組みは現在2年目です。主な役割は4つあります(参照*7)。
- AI活用研修を社内へ周知すること
- コミュニティへの参加を促すこと
- 定期的な部署ミーティングを開催すること
- 利用申請を後押しすること
こうした推進体制や施策のもと、利用率は着実に向上しました。同社は2025年1月にM365 Copilotを全社導入し、約1年で全社員の83%に当たる530名が生成AIを活用しています。導入直後の2025年春頃は利用者が約100名と全体の2割未満にとどまっていましたが、9カ月で8割超へと拡大しました(参照*7)。
これは同社の実践的な成果を示す数値です。導入から9カ月で利用率が2割から8割超へ伸びた要因は、ツールの性能だけでなく、現場に近い推進担当者の存在にあると見るのが妥当です。
体制づくりの要点について、同社の奥平氏は次のように指摘しています。全社へ均等に浸透させたい場合、現場の課題を吸い上げ後押しを行うナレッジハブのような仕組みは有効だと述べています。ただし、現場の推進担当者の努力だけに頼るのではなく、経営陣の強力なバックアップが欠かせないと見解を述べています(参照*7)。
部門別ユースケースの広げ方
部門ごとに具体的な活用シナリオを定義しながら浸透させていく手法は、Microsoft自社の導入事例が参考になります。
はじめに展開規模を見ると、Microsoftは従業員および契約社員を含む33万人以上の規模でCopilot for Microsoft 365を展開しました。Microsoft Researchの初期調査では、多くの従業員が短期間で業務プロセスへ組み込み、効果を実感していることが分かっています。社内アンケートでは回答者の74%が生産性向上を実感し、1日あたり20分の時間短縮が推定されました(参照*6)。
これは自己申告と推計に基づいたデータです。数値そのものより、「財務チームのような専門性の高い部門でも、役割別にシナリオを定義することで定着が進む」という手順のほうが参考になります。
部門ごとの展開手法も実践的です。財務チーム(Finance)への展開時、同社はまず主要な業務役割を洗い出し、各担当者に日常業務とCopilotの連携プロセスを文書化してもらいました。
現在では専用のSharePointサイト上に役割別シナリオ集が体系化されています。同チームが特に大きな効果を得ている共同作業や情報検索の領域は4つです(参照*6)。
- 提案依頼書(RFP)への回答作成
- 税務書類の検索
- リスク・内部統制の評価
- 社内規定の周知
接続先の拡張も継続的に行われています。同社は現在までにServiceNow、Workday、SAPの3つの社内Graphコネクターを展開しており、今後も主要ソリューションへ適用範囲を広げる計画です。業務部門独自のツールや日常業務の接点へAIを組み込むことで、Copilotが企業にもたらす価値を高めています(参照*6)。
この進め方で重要なのは、全社一斉展開ではなく「部門ごとに業務シナリオを定義してから広げる」という順序です。私が企業の導入支援をする際にも同じ方針を取ります。AIに何をさせるかが決まっていない段階でライセンスを配っても、ほとんどの場合PoCで止まります。先に業務を分解し、どの工程にAIを入れると効果が出るかを特定することが先決です。
おわりに
調査対象となったCopilot導入企業の推進担当者が挙げた主な課題は、業務情報が複数システムに分散していることです。推進担当者105名を対象とした調査でも、87.5%が情報分散を課題に挙げ、96.2%が横断的に検索・活用できるAI環境の構築に強い期待を寄せています(参照*1)。
解決に向けたアプローチとして、コネクターやCopilot Searchによる横断検索の整備、アクセス権限やインデックスの適切な棚卸し、そして推進体制と業務別シナリオによる現場定着が挙げられます。まずは社内の重要データがどこにあり、どのような権限設定で共有されているかを正確に把握することが、効果的な活用の第一歩です。技術の整備と組織の整備を並行して進めることが、結果的に最も早い道だと私は考えています。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、95万部(2026年6月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
参照
- (*1) 双日テックイノベーション、『Copilot・M365活用実態調査』を公開
- (*2) Docs – Copilot connectors overview
- (*3) Docs – Connectors and Copilot Search – Microsoft 365 Copilot connectors
- (*4) Docs – How does Microsoft Copilot work?
- (*5) Docs – Search and validate indexed connector content – Microsoft 365 Copilot connectors
- (*6) https://adoption.microsoft.com/files/copilot/Applying-AI-at-scale-whitepaper.pdf
- (*7) Website – 生成AI導入で変わる現場の働き方 ~NTTPCが実践する全社DX推進のリアル~