生成AIとパワーポイント作成の新潮流
企業における情報共有や提案活動では、プレゼンテーション資料の作成が重要な役割を担っています。近年、限られた時間で多くのスライドを効率的に作成するニーズが高まる中、生成AIを活用したパワーポイント作成の新しい手法が注目されています。文章生成や画像認識などのAI技術の進化により、専門的なスライドを短時間で仕上げることが可能となっています。AIが文章や図表を自動提案し、ユーザーが最終的な構成を調整する形が一般化しつつあります。
例えば、株式会社SUPERNOVAは2025年5月27日からPowerPoint向けの生成AI拡張機能「Stella Slide」を提供開始します。この拡張機能は、PowerPoint内でスライドの要約、翻訳、図表解析など27種類のAIアクションをワンクリックで実行できるのが特徴です。国際特許出願中の技術を導入し、ユーザーが手軽に操作できる設計となっています。プレゼン内容の修正やビジュアル表現にも対応し、本番に向けた検討時間の短縮が期待されています(参考*1)。
実務で効率を高めるAIスライド製作のポイント
プレゼン資料は社内外向けに頻繁に作成され、内容の更新や追加が日常的に発生します。用途に応じたスライド構成を繰り返す中で、担当者の業務負担が増大しがちです。こうした課題に対し、生成AIを組み込んだパワーポイント自動化が注目されています。具体的な文書入力だけで下書きがまとまり、レイアウトの検討もAIが支援する形式です。活用のポイントは、どこまでAIに任せ、どの部分を人間が監修するかを明確にすることです。
株式会社リートンテクノロジーズジャパンが展開する生成AIプラットフォーム「リートン」では、「パワポ作成」機能を搭載しています。チャット形式で目的や内容を入力すると、AIが元となるスライドを提示し、プレゼンテーションの下書きを迅速に作成できます。また、AI生成コンテンツの検出を回避する「AI探知防止」機能も備え、違和感のない資料作成を支援しています(参考*2)。運用時には成果物のチェックと調整が必要ですが、下準備の段階をスピードアップできる利点は大きいといえます。
作成工程としては、基礎情報の整理から目次案の生成までをAIが支援し、補足すべき要素を人が追加して完成度を高める形が一般的です。内容の正確性や企業方針との整合性を確認し、伝えたい内容が反映されているかを見極めることが重要です。AIの提案は新しい視点を得る機会にもなります。
自動化導入の手順と研修プログラムの活用
生成AIを活用したパワーポイント作成を社内に導入する際は、段階的な検証が重要です。まずは適用業務を選定し、試験導入を経て運用体制を整える流れが一般的です。小規模チームで研修を受け、ツール操作やデータ取り扱いの基本を学んだうえで、本格的な活用に移行することが推奨されます。
社内研修が整備されることで、生成AIツールに不慣れな担当者も基本から学習でき、スムーズな定着が期待できます。学研グループの株式会社TOASUは2025年5月から「プロンプトリテラシー」「営業強化」「Excel業務効率化」「パワーポイント作成」「問題発見・解決力向上」の5つの生成AI活用講座を追加しています。実践的なワークショップと講師からのフィードバックにより、初歩的な疑問も解消しやすい点がメリットです(参考*3)。チーム単位で研修に参加する場合は、現場の課題感を共有しながらツール活用方針を話し合う場にもなります。
導入後は運用ガイドラインの整備や権限設定が不可欠です。機密情報を扱う企業ではアクセス制限やログ管理も検討されるため、初期研修段階で情報管理の意識を高めることが重要です。これらの手順を踏むことで、生成AIの強みを生かした業務自動化が実現しやすくなります。
資料の安全管理とセキュリティへの配慮
社内プレゼン資料や提案書には企業の戦略やノウハウが含まれるため、外部流出は大きなリスクとなります。生成AIと連携する際は、データが外部サーバーに保存されるプロセスやアクセス経路を明確にし、安全策を共同で検討することが求められます。
株式会社ナレッジセンスが提供する法人向けChatGPTサービス「ChatSense」では、PowerPointファイル形式の社内データもAIの追加学習データとして活用できるようになりました。回答には参照元が必ず表示されるため、利用者が確認しやすい点も特徴です。セキュリティ強化やプロンプト共有機能など法人向けに特化したサービスで、400社以上の大手企業に導入されています(参考*4)。
社外向け資料は比較的公開範囲が広い場合もありますが、社内限定の戦略的情報は慎重な取り扱いが必要です。セキュリティ方針や法務との連携を整え、必要範囲だけをAIに学習させる方法が実践的です。初期設定段階で取り扱うデータ範囲を限定し、漏えいリスクを減らしながら活用を進めることが重要です。
プレゼン資料から多様な拡張へ広がる事例
パワーポイントに生成AIを取り入れることで、スライドの構成やデザインの自動化だけでなく、資料を他のフォーマットへ変換するなど多様な応用が可能となります。スライドを基にWebサイトへ変換しやすくなり、社内外のさまざまな場面で活用の幅が広がっています。
株式会社デジタルレシピが開発した「Slideflow」は、PowerPointやGoogleスライドのファイルをノーコードでWebサイトに変換できるサービスです。2022年3月のサービス開始以降、2023年5月時点で制作されたWebサイト数は3,500を超え、200社以上が利用しています。専門知識がなくてもサイト制作が可能で、顧客向け資料や社内情報の一元管理に活用されています。さらに、テキスト入力だけでAIが最適な構成を提案する新機能も準備中です(参考*5)。
企画や営業活動で作成したスライドを簡単にウェブ上で展開できるメリットは大きく、製品情報や採用案内、報告書の共有などにも対応しやすくなります。パワーポイントが単なるプレゼンツールにとどまらず、業務全体での活用余地が広がっています。
AIツールを活かした業務改善事例
資料作成の時間短縮により、担当者が戦略立案やデータ分析により多くの時間を割けるようになります。生成AIの導入によって社内コミュニケーションが活発化し、新規プロジェクトの立ち上げが円滑になる事例も報告されています。新しいツールを単独で使うだけでなく、既存システムとの連携によって一歩進んだ活用が可能です。
株式会社Omlucは、生成AIプラットフォーム「Dify」の導入支援サービスを開始し、企業のクラウド環境構築やAI活用ワークフローの整備を包括的に担っています。資料作成時間の短縮や新入社員の問い合わせ対応時間の削減、SNS投稿作成時間の短縮など、実際のコスト削減に直結した成果が報告されています(参考*6)。
スライド変換やテキスト要約、SNS投稿のテンプレート自動化、社内チャットbotでのQA対応、システム間のデータ連携など、多岐にわたる事例が紹介されています。業務全体を見渡して運用を組み上げることで、単なる効率化を超えた成果を得ることができます。
DX推進に向けた次世代の取り組み
プレゼン資料への生成AI導入は、単なる効率化にとどまらず、DX推進の文脈で社内データ管理や意思決定プロセスの再編、新たな仕組みづくりへと発展しています。時短や自動化の効果を活かしながら、一貫性のある情報活用環境を整備する動きが進んでいます。
Felo株式会社は、次世代多言語AI検索エンジン「Felo Search」や企業向けAIエージェントプラットフォーム「Felo Enterprise」などを開発し、企業の情報収集や資料作成に新たなプラットフォームを提案しています。2025年8月27日・28日に東京国際フォーラムで開催されるイベントで、こうした最新機能が紹介される予定です。Feloの技術はマルチLLMやRAG技術を活用し、企業の業務効率化やDX推進を支援しています(参考*7)。
今後はツールのアップデートや活用事例の増加により、多様な協働が実現すると見込まれます。DX推進担当者やAI導入検討層は、実務に直結した試用や研修を通じて、スライド作成のみならず社内文化の変化を見越した活用を模索する段階に移りつつあります。業務負担を減らしつつ、効果的なアイデアを生み出すために、継続的な試行を重ねる姿勢が求められています。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
出典
- (*1) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – PowerPoint資料を“ワンクリック”でブラッシュアップする「Stella Slide」を提供開始
- (*2) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 生成AI「リートン」、大規模リニューアル第2弾を実施
- (*3) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 生成AI活用の第一歩! 学研グループの株式会社TOASU、人気5講座の日程追加
- (*4) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 法人向けRAGサービス「ChatSense」、PowerPoint(パワポ)形式データの取り込みに対応
- (*5) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – パワポでWebサイトが作れる「Slideflow」。1年余で作られたサイト数が 3,500 サイトを突破!
- (*6) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 業務時間を90%削減した実績も!株式会社Omluc、生成AIプラットフォーム「Dify」の導入支援サービスを開始
- (*7) 時事ドットコム – Felo AI博覧会 Summer 2025 に出展:時事ドットコム