はじめに
生成AIとAIという言葉が広く使われるようになりましたが、その違いについてはまだ十分に理解されていない方も多いのではないでしょうか。特に「生成AIは従来のAIと何が違うのか」という疑問は、ビジネスや研究の現場で頻繁に取り上げられています。本記事「違いがわかる!生成AIと従来AIの比較ガイド」では、両者の定義や発展の背景、技術的な特徴、実際の活用事例などを、専門用語をできるだけ避けてわかりやすく解説します。
まず、AI(人工知能)は1950年代から研究が始まり、当初はルールベースのプログラムが中心でした。AIは、問題解決や学習を特定のルールやパラメータに従って行い、音声アシスタントや物体認識、不正検知など多様な分野で活用されてきました。一方、生成AIは「新しいコンテンツを生み出す」ことに特化したAIの一分野です。過去のデータからパターンを抽出し、それをもとに新規性のあるテキストや画像、音声などを生成する能力を持っています。たとえば、文章の自動作成や画像の創出、音楽やプログラムコードの生成などが代表的な用途です。
従来型AIは、特定タスクの正確な実行や予測精度の向上を目指すことが多いのに対し、生成AIは「創造的な発想」や「新しい価値の創出」に強みがあります。低コストかつ短時間で多様なコンテンツを生み出せるため、広告コピーの自動生成や動画編集のアイデア出し、ソフトウェア開発におけるコード生成など、ビジネス全般に活用が広がっています。
ただし、生成AIの普及に伴い、誤情報の拡散や著作権・データの安全性といった新たな課題も浮上しています。特に医療や金融など高リスク分野では、慎重な運用や規制対応が求められています。こうした背景を踏まえ、まずは従来AIと生成AIの歴史的・技術的な違いを理解し、具体的な活用事例やリスク、今後の可能性について順を追って解説します。
本記事を通じて、読者の皆さんが両者の違いを正しく理解し、自社の業務や学習の現場でどのように活用できるかをイメージできるようになることを目指します。
(参照*1)
生成AIと従来AIの誕生と発展の背景
生成AIの起源は、従来AIの発展の歴史の中から生まれた新しいアプローチにあります。1950年代にAIという概念が登場した当初は、問題解決やデータ分析の効率化を目的とした仕組みが開発されてきました。象徴的な出来事として、1997年にIBMのコンピュータ「ディープ・ブルー」がチェス世界チャンピオンのカスパロフ氏を破ったことが挙げられます(参照*1)。この時代のAIは、限定されたルールやパターンに基づき、特定領域で高いスキルを発揮するのが特徴でした。
その後、機械学習や深層学習の進化により、膨大なデータを活用して新しいアイデアやアウトプットを生み出す可能性が広がりました。2010年代にはニューラルネットワークや生成モデル(GAN、VAEなど)が登場し、生成AIという新たな潮流が生まれます。従来AIが既存データをもとに予測や分類を行うのに対し、生成AIは文章や画像、音声など多様なメディアで新規コンテンツを生み出す点が大きな違いです。
近年では、大規模言語モデルの登場により、自然な文章を生成できるAIが実用化され、企業の業務効率化や自動化に活用されています。例えば、社内問い合わせ対応やレポート作成の自動化によって、人手の省力化や業務スピードの向上が実現しています。
生成AIの進化は、社会のデジタル化やビッグデータの蓄積、計算リソースの拡大といった環境変化とも密接に関係しています。スマートフォンの普及やネットワークの発展により大量のデータが生まれ、GPU(グラフィックス処理装置)などのハードウェア進化が高度なモデルの運用を可能にしました。さらに、オープンソースコミュニティの貢献により、研究者や技術者が協力してアルゴリズムの進化を加速させています。
こうした背景から、生成AIは従来AIの単なる改良ではなく、独自の価値を持つ新しいAIの形として認識されるようになりました。単なる分類や認識だけでなく、創造的な成果物を生み出せる点が、生成AIの大きな特徴です。
(参照*2)
技術的視点で探る両者の違い
従来AIは、識別型アルゴリズムを用いてデータのパターンを分析し、分類や予測を行うことを得意とします。回帰分析や決定木、サポートベクターマシンなどの手法が代表的で、スパムメールの判別や顧客の離脱予測など、明確な答えが求められるタスクで活躍してきました(参照*3)。
一方、生成AIは「新しいものを創り出す」ことに特化しています。生成モデルは、訓練データから確率分布を学習し、それをもとに文章や画像、音楽、プログラムコードなど多様なアウトプットを生み出します。たとえば、生成対戦ネットワーク(GAN)は、生成器と識別器の2つのネットワークを競わせることで、よりリアルな画像や創造的な作品を生成します。トランスフォーマーを基盤とした大規模言語モデルは、文脈を深く理解し、自然な文章を生成することが可能です。
この違いは応用範囲にも現れます。従来AIは、ビッグデータから学習し、厳密な判断や予測を行う分野に強みがあります。需要予測や異常検知、顧客属性の分類などがその例です。生成AIは、イメージ生成や文章作成などクリエイティブなタスクに強みを持ち、曖昧な指示からでもアイデアを形にできる点が特徴です。
また、生成AIは膨大なデータを扱うため、モデルの容量や計算負荷が高くなりがちですが、その分コンテンツのバリエーションや質が大きく向上します。ただし、学習データの偏りが出力にも影響するため、データ選定や管理が重要です。
技術的には、「分析・判断を行う従来AI」と「新しい価値を生み出す生成AI」という違いがあり、利用シーンや実装要件も異なります。GPUの進化や大規模データ処理環境の整備が、生成AIの実用化を後押ししています。
(参照*3)
実務活用の場面と代表的な事例
生成AIと従来AIは、それぞれの特性を活かして多様な業界で活用されています。従来AIは、決められたパターンやルールに基づく予測・分類が得意です。たとえば、金融機関ではリスク評価や不正検知に従来AIを活用し、大量の取引履歴やリアルタイムのトランザクションを分析して疑わしい動きを早期に察知しています。また、eコマースのレコメンドエンジンも従来AIの代表例で、ユーザーの購買履歴や閲覧履歴をもとに商品提案を行い、売上や顧客満足度の向上に貢献しています(参照*4)。
一方、生成AIは新たなコンテンツを生み出す力が注目されており、マーケティングやクリエイティブ業務で大きな効果を発揮します。たとえば、広告やキャッチコピーの自動生成、画像や動画サムネイルの自動作成、音楽やプログラムコードの自動生成など、制作時間とコストを削減しつつ一定の品質を維持できます。
ビジネス現場では、生成AIと従来AIを組み合わせることで新たな価値を生み出す事例も増えています。たとえば、小売業では従来AIによる需要予測の結果をもとに、生成AIがプロモーションコンテンツを自動生成し、販促キャンペーンを効率化しています。金融業界では、従来AIの分析結果を生成AIがレポートにまとめ、顧客や社内向けにわかりやすくビジュアル化するケースもあります。
医療分野では、画像診断に従来AIを活用しつつ、患者カルテの要約や診療記録の作成に生成AIを応用する動きも見られます。人手不足や業務効率化が課題となる現場で、AI技術の導入が医療従事者の負担軽減やケアの質向上に寄与しています。
このように、従来AIと生成AIは補完的な関係にあり、両者の強みを組み合わせることで多面的なソリューションを実現できます。各企業やチームがこうした事例を参考に、自社に合ったAI戦略を検討することが重要です。
(参照*5)
倫理・ガバナンスと導入の要点
生成AIと従来AIは、技術面だけでなく法的・倫理的な観点でも注目されています。データの取得や利用に関しては、プライバシーや信頼性の確保が共通の課題です。従来AIでは、偏った学習データによる誤分類や差別的な結果が問題視されてきましたが、生成AIでも学習データのバイアス(偏り)は深刻な課題となります。生成モデルが偏ったデータをもとにコンテンツを生成すると、品質のばらつきや文化的配慮に欠ける表現が生まれるリスクがあります。
さらに、生成AIは新規コンテンツを生み出す特性上、著作権や知的財産権の問題にも直面しやすいです。たとえば、既存作品を大量に学習したAIが似た作風を生成した場合、そのオリジナリティや権利の帰属が法的にグレーゾーンとなることがあります。ビジネスで生成AIを活用する際は、生成物の著作権や第三者権利の侵害リスクを十分に把握しておく必要があります。
欧州連合(EU)などでは、AI技術の利用に関する規制や基準が整備されつつあり、高リスクAIの情報開示やモデル登録を義務付ける動きが進んでいます。金融や医療など、誤作動が大きな被害につながる分野では、モデルの透明性や検証プロセスの厳格化が求められています。特に生成AIの出力が意思決定や医療行為に使われる場合、学習データやモデルの仕組みを適切に監査できる体制が必要です。
導入時には、目的の明確化やデータ取り扱いガイドラインの策定が重要です。何を実現したいのか、誰が責任を持つのか、どのデータを学習に使うのかを明確にし、トラブルを未然に防ぐ体制を整えましょう。さらに、チーム内で生成AIに関する知識を共有し、定期的なレビューやモニタリングを行うことで、導入プロセスを円滑に進めることができます。
このように、生成AIの導入には従来AI以上に深い倫理的検討とガバナンス体制が求められますが、適切に対処できれば創造性や効率化の恩恵を享受できます。社会的責任を果たしつつ新たな価値を生み出すことが、企業や研究機関にとって重要なテーマとなっています。
(参照*4)
関連技術との連携と可能性
生成AIは、その創造性を活かして他のテクノロジーと連携することで、さらなる価値を生み出しています。たとえば、チャットボットに生成AIを組み込むことで、従来のルールベース型では難しかった柔軟で自然な対話が可能になります。従来のチャットボットは決められたシナリオやデータベースを参照して返答するため、複雑な質問や文脈の理解には限界がありました。しかし、生成AIの大規模言語モデルを活用することで、ユーザーの問い合わせ内容に応じて多様で自然な表現で応答できるようになり、コミュニケーションの質が大きく向上します(参照*6)。
また、画像や音声分野でも生成AIは大きな役割を果たしています。画像生成モデルはクリエイティブ制作だけでなく、合成データの作成やアノテーションコストの削減など、AI開発プロセス自体の効率化にも寄与します。音声分野では、音声アシスタントに生成AIを統合することで、複雑な意図のくみ取りや自然な会話への対応が可能となり、ユーザー体験の向上が期待されています。
製造業ではIoT(モノのインターネット)やロボティクスと組み合わせることで、センサーから取得したビッグデータを生成AIが解析し、高度なシミュレーションや設計を自動化する研究も進んでいます。エネルギー分野では、発電量の予測や稼働計画の自動生成、トラブル対応マニュアルの作成など、生成AIの応用範囲が広がっています。
一方で、生成AIを他システムと連携させる際は、適切な管理体制やセキュリティ対策が不可欠です。個人情報や機密情報を含むデータのやり取りが発生するため、誤った出力や情報漏洩のリスクを最小限に抑える必要があります。
こうした課題を乗り越えれば、生成AIと他のデジタル技術の組み合わせによるイノベーションが期待できます。今後はAI同士の連携やマルチモーダルなシステム設計のノウハウが蓄積され、より高度な社会課題への応用が進むでしょう。
(参照*6)
今後の可能性と準備のポイント
従来AIはすでに多くの企業や公共機関で活用され、生産性向上やコスト削減に大きく貢献してきました。生成AIの普及により、新たな事業機会や業務変革の可能性がさらに広がっています。大量のデータを瞬時に解析し、新規製品のアイデア創出や顧客とのコミュニケーション強化など、これまでにない付加価値を生み出すことが可能です(参照*7)。
組織としては、人材育成やリスキリング(再学習)を計画的に進めることが重要です。生成AIを使いこなすには、プロンプト設計や検証方法の理解、出力内容の正確性を見極めるリテラシーが求められます。専門知識を持つ社員がAIツールを活用することで、効率的な提案や資料作成が可能になりますが、人による監修も不可欠です。
また、雇用への影響も考慮する必要があります。単純作業の自動化が進む一方で、AIの提案を監視・修正する役割や、AIと連携して高度なクリエイティブ業務を担う新たな職種が生まれると予想されています。企業はこうした変化に対応し、労働力の再配置や学習支援策を整備することが競争力強化の鍵となります。
最終的には、生成AIと従来AIが相互補完的に活躍することで、業務効率化と創造性向上の両立が期待できます。システム導入時には「何を自動化し、どこを人間が担うか」という役割分担を明確にし、段階的な導入を進めることがポイントです。法令順守やセキュリティ、データ品質にも十分配慮し、柔軟な組織体制で新しい価値創造に取り組む姿勢が、今後の成長を左右します。
(参照*7)
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
出典
- (*1) Miquido – What is the difference between AI and Gen AI?
- (*2) Forbes – The Difference Between Generative AI And Traditional AI: An Easy Explanation For Anyone
- (*3) Difference between AI, ML, LLM, and generative AI
- (*4) MyCase – AI vs Generative AI: What’s the Difference?
- (*5) Generative AI vs. Traditional AI: What’s Better?
- (*6) 生成AIとチャットボットの違いについて解説!それぞれの特徴も紹介
- (*7) 第153回「生成AIと雇用・リスキリング(1)」
Photo:Andrey Matveev