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この記事のまとめ
日曜劇場『VIVANT』の続編では、生成AIによって制作されたシーンが登場します。TBSのドラマとしては初となる生成AIの本格活用であり、使われたのは爆発シーンや監視カメラ映像など、物語の核心から離れたカットでした。
この線引きの背景には、制作工数の構造や著作権の問題、社内における判断体制が存在します。主なポイントは以下の4点です。
- 生成AIが使われたのは、病院屋上の爆発カットや監視カメラ映像、ニュース映像の一部、PC画面など、画面内や背景に現れる部分です。
- CG制作では重要カットも背景も同じくらいの工数がかかるという課題があり、後者をワークフローとして切り分けています。
- 著作権のリスクは3名のコアメンバーで検討を重ね、最終判断はプロデューサーが下す体制が取られました。
- 効率化で創出された時間を、登場人物の感情を丁寧に描く工程へ還元するという狙いが語られています。
生成AIが使われたシーン

爆発カットと監視カメラ映像
生成AIが導入されたのは、物語を牽引する主役級のシーンではなく、わずか数秒の爆発カットや作中のモニター映像でした。この線引きは偶然ではなく、制作現場の判断に基づく意図的な選択です。
3年ぶりに放送された日曜劇場『VIVANT』の第2シーズンでは、随所に生成AIを活用したシーンが盛り込まれています。ドラマ開始から4分40秒過ぎ、愛知県の「半田総合病院」屋上にある機械室が爆発したとされる場面がその一例です。
ほんの数秒のカットながら、カメラワークによる視点移動の中でも「違和感のない爆発」に見えます。さらに開始17分15秒過ぎ、「AIハヤト」が連れ去られた別班メンバーについて説明する場面で、壁面ディスプレーの中央に映る「旭川共済病院」の監視カメラ映像(ボイラー室爆発)にも、生成AIが用いられています(参照*1)。
ニュース映像とPC画面への利用
活用箇所は爆発場面にとどまらず、画面の奥に映り込む細部映像へも広がっています。
第11話では、半田総合病院の機械室や旭川共済病院のボイラー室という2か所のほかにも生成AIが使われました。一つは「別班特別準備室のニュース映像の一部」であり、もう一つは「ブルーウォーカー・太田梨歩の部屋のPCデスクトップ画面」です(参照*1)。
いずれも画面内や背景として現れる映像で、登場人物の心情を直接映し出すカットではありません。
公表された用途は爆発シーン、監視カメラ、ニュース映像の一部、PC画面などです。ニュース映像に関しても、全編ではなく一部の描写に限定して使われたことが示されています。
採用モデルと発表の経緯
動画生成モデルにはVeo 3が採用され、社外イベントの場で公表されました。
TBSは2026年放送の日曜劇場『VIVANT』続編(毎週日曜よる9時)において、TBSドラマ史上初となる生成AIの本編映像活用を決定しました。そして2025年10月30日、Google Cloud主催の「AI Agent Summit ’25 Fall」基調講演にて、メディア生成AI「Veo 3」の導入を発表しています(参照*2)。
モデルIDはveo-3.0-generate-001で、リリース段階はGA、リリース日は2025年7月29日、提供終了日は2026年6月30日と記されています(参照*3)。
全面ではなく背景に限った理由

重要カットと背景カットの工数
利用範囲を背景に絞った背景には、CG制作における工数の発生構造が関係しています。私がAI導入支援の現場で繰り返し目にしてきた課題と、構造がよく似ています。
TBS側の説明によれば、従来のドラマCG制作には多くの作業時間が費やされてきました。CGにはストーリーの主軸を担う重要映像と、背景の一部として求められる映像の双方が存在します。しかし、どちらも同じくらいの工数がかかってしまう点が課題でした。
そこで後者のカットについて「この部分のみ活用する」と見極め、ワークフローを細かく分けて制作を進めています(参照*2)。
要するに、映像の重要度と制作の手間が比例しない現実が出発点となっています。物語の核心ではないにもかかわらず同じくらいの労力を要する部分に、生成AIを活用しているわけです。これはドラマ制作に限らず、あらゆる業務に共通する論点だと思います。
実際に生成AIが適用されたのも、短い爆発カットや監視カメラ映像といった、背景寄りの描写でした(参照*1)。
得意・不得意を踏まえた使い分け
活用すべき箇所を判断しているのは、ドラマ制作に精通した現場のクリエイターです。そしてこの点こそ、AI導入がうまくいくかどうかの核心だと私は考えています。
TBSの担当者は、ドラマ作りのプロが生成AIの得意・不得意を深く見極めたうえで、柔軟に使い分ける姿勢が何より重要になると語っています。そのうえで試行錯誤を重ね、実用に足る水準に達したと判断できたためVeo 3の採用に至ったと明かしました(参照*2)。「得意・不得意を見極める」という言葉は簡単ですが、これを実際にやれる組織は少ない。たいていはPoC(概念実証)で終わるか、一律禁止になるかのどちらかです。
採用決定は一度きりの判断ではなく、検証を重ねた結果です。私自身も生成AIを業務に組み込む際は、まず小さな工程で試し、出力品質と確認コストのバランスを見てから範囲を広げるという順序を取ります。いきなり全面導入を狙うと、ほぼ必ずどこかで止まります。
将来的な期待として、解像度の向上が挙げられています。
TBSの宮崎氏は、4K出力が可能になれば制作フローは劇的に進化すると言及しました(参照*4)。これは今後の展望です。
権利とルールが引く線

ガイドライン改定と判断体制
生成AIを本編映像に組み込むにあたり、まずは著作権の精査と判断の手順が明確化されました。この体制の設計こそが、AI導入において最初に詰まるポイントです。
TBSはAI活用プロジェクトでの検討を経て、2023年7月策定のガイドラインを最新動向に合わせて改定しました。「採用モデルの学習手法に権利上のリスクはないか」「既存作品に類似しており使用を控えるべきではないか」といった懸念を、DX推進部門に法務部門とメディア企画を加えた3名のコアメンバーで議論します。私がコンサルティングの場で見てきた経験から言えば、こうした小さなコアチームで議論を回せる組織は、導入スピードが圧倒的に速い。情報システム・法務・現場の三者が揃いながらも、意思決定が一人のプロデューサーに集約されている点も重要です。
その検討結果を制作現場にフィードバックし、最終責任者である飯田プロデューサーが採否を決定する体制を敷くことで、コンプライアンスの遵守を徹底しています。
飯田氏は、AI活用において著作権は最大の懸念点であり、素材の権利侵害を指摘されるリスクはプロデューサーとして常に警戒しなければならない、と述べています(参照*2)。
二次利用と表示義務の論点
完成したコンテンツを海外展開するフェーズでは、AI生成物である旨の表示義務が焦点となります。
ジェトロの資料によれば、EUのAI規制法が定める義務のうち、日本のコンテンツ事業者に直接関わる要素は「コンテンツがAIによって生成・操作されたものであることの明示義務」であると指摘されています(参照*5)。ここでは開発者向けの義務とは切り離された、コンテンツ企業特有の論点が示されています。
同資料によると、AI規制法は2024年8月に発効しました。
そして「ハイリスク」および「透明性の確保を要するリスク」に関する規定の適用開始は2026年8月2日であり、EU当局はそれまでに実務指針となるガイドラインや雛形を公表する見通しです(参照*5)。これは欧州の法規制に関する記述であり、EU域内へ作品を配信・販売する際に留意すべき論点となります。
工数を削るAIと人を立たせるAI

現場が歓迎した理由
制作現場が見せた反応は、導入を推進した側の懸念とは真逆のものでした。
宮崎氏は当初、仕事を奪われると感じたCGチームから反発を受けるのではないかと危惧していたそうです。しかし直接現場に足を運んでAIを試してもらったところ、返ってきた反応は予想に反して「非常に助かる」という好意的な声でした(参照*4)。
飯田氏によると、意識変化の転換点となったのは、2022年のドラマ『マイファミリー』でLEDパネルを用いたバーチャルプロダクションを導入した体験でした。
従来の車内撮影は公道で車両を牽引する必要があり、通常は丸2日を費やしていました。天候次第で雨天中止となり、それでも撮影費用が発生していたところ、LEDパネルの活用によりわずか4時間で撮影を完了できたといいます(参照*4)。これは同作における具体的な成功事例です。
AIに置き換えられない経験
人間が担うべき本質的価値として挙げられているのは、その人しか語ることのできない実体験です。私はこの論点を、ライターの仕事においても繰り返し考えてきました。
飯田氏はその具体例として、カスピ海の「香り」を挙げています。現地には独特の草のような香りが漂っているものの、実際に訪れた経験がなければその実感は掴めません。
鑑賞者の心を揺さぶるのは、五感を通じて得た手触りや予期せぬ出会いなど、その人だけが語れる実体験であるというのが飯田氏の持論です(参照*4)。これはドラマ制作に限った話ではありません。AIは文体を模倣し、それらしい意見を生成できますが、「カスピ海の草の香り」のような一回性の経験は出てこない。体験談が強いのは、飾り方の問題ではなく、実際に見た・感じた・判断したという事実の重みにあります。
こうした思想は、浮いた時間の再投資先にも直結しています。
TBSは時間短縮と費用削減によって生み出されたリソースを、「作品の根幹である登場人物の感情描写」を深めるために還元できる点に期待を寄せています(参照*2)。これは現時点での目指す方向性であり、すでに達成された確定的な成果ではありません。
社内への横展開
AI活用の試みは、連続ドラマの現場だけに限定されていません。
宮崎氏の説明によると、ドラマ部門だけでなく報道や音楽番組の背景美術など、多様な部署で試験導入が進められています。ツールの特性を理解した実務担当者が「この制作工程のここで活かせる」と自ら判断し、実践的なノウハウが蓄積されています。今後はそうした成功パターンを社内で集約・共有していく方針です(参照*2)。
この展開における特徴は、経営層が一律に利用法を指示するのではなく、実務者が工程の中で使い方を主体的に見出している点にあります。全社共有の仕組み化は、今後の計画として進められている段階です。
自分の仕事への翻訳

核心と周辺の切り分け
本質と周辺を切り分けるアプローチは、映像以外の日常業務にもそのまま応用できます。私自身、文章制作においても同じ発想を採用しています。取材、論点設計、事実確認は人間が担い、構成の下書きや調査の補助はAIに任せる、という分け方です。
TBSの取り組みでは、作品の骨格となる映像表現と背景に必要な補助映像を切り分け、後者に対して細分化したワークフローを組んでいます(参照*2)。
映像制作以外の領域でも同様の思想による実践例が見られます。TBSは東京2025世界陸上のスタートリスト作成業務に生成AI(Gemini)を組み込み、PDFを読み込ませたうえで社内データベースを参照し、日本語名を割り当ててCSV出力する仕組みを整えました。
この自動化によって制作負担が大幅に軽減され、ある出演者からは「従来は当日に届いていた資料が、前日中に届くようになった」と好評を得ています(参照*6)。
削った時間の使い道
業務時間を削減できた事実そのものは、事業の最終成果とは区別して捉える必要があります。この点は、私が企業のAI導入支援をしていて最もよく議論になる論点です。
生成AIの活用範囲が着実に広がる一方で、公表されている実績の多くは時短や工数削減といった効率化にとどまっている、と調査レポートは分析しています。売上拡大やコスト削減、ROIといった事業指標への寄与を定量的に証明した事例は、いまだ限られているのが実情です(参照*7)。
同レポートは、工数削減は事業成果そのものではなく、目的を果たすための手段に過ぎないと論じています。「AIを入れたら30%工数が減りました」という報告を受けたとき、「その30%をどこに使いましたか」と問い返すことが、次のステップへ進めるかどうかを左右します。
効率化の成果が強調される反面、ビジネス成長との因果関係は判然としない例が少なくありません。そのため、創出した時間の具体的な充当先をあらかじめ定め、事業KPIや投資対効果の測定指標と連動させて評価することが重要であると結論付けています(参照*7)。
おわりに
『VIVANT』続編における生成AIの役割は、爆発の短いカットや監視カメラのモニター映像、ニュース映像の一部など、ストーリーの根幹を外れた背景描写に限定されていました。この判断の背景には、主役級の映像も背景も同じくらいの労力を要するというCG特有の課題と、権利関係を検討したうえでプロデューサーが判断を下すガバナンス体制が存在します。
効率化によって生み出された時間を、登場人物の繊細な感情を描き切る作業へ充てることに期待が集まっています。AIに委ねる作業の境界線を引くことは、人間が担うべき本質的な役割を見定める作業そのものと言えます。爆発シーンはAIが担い、カスピ海の草の香りは人間が担う。この線引きの思想は、業種や職種を問わず、AI時代の仕事設計において参照できる実践例だと思います。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、95万部(2026年6月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
参照
- (*1) TBS NEWS DIG – 「VIVANT」で生成AIが使われたのはこのシーンだ!~TBSドラマ初の本格利用~【調査情報デジタル】
- (*2) TBS INNOVATION LAND – TBS日曜劇場『VIVANT』続編は生成AIとタッグ!制作陣が明かす「心揺さぶるドラマ」の舞台裏
- (*3) Google Cloud Documentation – Veo 3 | Gemini Enterprise Agent Platform | Google Cloud Documentation
- (*4) note(ノート) – TBS 'VIVANT' production team discusses the future of entertainment with Google's AI
- (*5) https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2025/3ac978bc155d3126/202503.pdf
- (*6) TBS NEWS DIG – テレビ局の制作現場でも始まった生成AIの本格活用~「泥臭いDX」を目指すTBSの取り組み~【調査情報デジタル】
- (*7) 「広く・深く」進む生成AI活用、次の焦点は事業成果~各社の公表情報から見えた3つの提言~