生成AI企業・日本の展望:いま注目される理由
生成AIは、人間の発想や判断を支援するAI技術の総称であり、文章作成や画像生成、音声認識など多様な業務で活用が進んでいます。こうした領域で活躍する生成AI企業は世界各国で増加しており、日本の生成AI企業も再び注目を集めています。日本の企業は、国内で蓄積された豊富なデータや専門知識を活かし、先端的な生成AI技術の研究やサービス開発を加速させています。読者の皆様も「生成AIとは何か」「どのように導入を進めるべきか」「社内DX推進のためにどのような準備が必要か」といった疑問をお持ちではないでしょうか。この記事では、日本の生成AI企業が目指す方向性や、今後の生成AI市場拡大が期待される理由、具体的な生成AI導入事例を解説します。
急拡大する生成AI市場:北米との比較と投資動向
近年、世界のIT投資の流れを大きく変えたのが米国シリコンバレー発の生成AIブームです。アメリカではアイデアをすぐに形にする文化が根強く、投資家も生成AI企業の可能性に積極的に資金を投入しています。実際に米国のオープンAIをはじめとした生成AI企業が注目を集め、2023年の生成AI分野への投資額は7月時点で既に152億ドルに達しています(参考)。一方で、世界全体のVC投資はインフレや金利上昇などによる経済の不透明感から減少が続いていますが、生成AI市場だけは例外的に投資が伸びている分野です。
こうした海外の状況に対して、日本国内でも生成AIを活用したスタートアップやAI企業への投資が活発化しています。AI特化型ベンチャーキャピタル「DEEPCORE」は約180億円を投資し、日本の生成AI企業を支援しています(参考)。日本の強みとして、製造業やロボティクス分野で培った職人技やデータ管理手法、緻密な業務フローを生成AI技術に取り込める点が挙げられます。これにより、特定分野に特化した大規模言語モデルや専門性の高い独自データベース活用など、新しい領域でのシナジーが期待されています。
急拡大する生成AI市場で成功するには、流行を追うだけでなく、確実に投資効果を出すための導入戦略が不可欠です。導入部門や事業責任者、新技術を担うITチームなど、社内横断的な体制づくりとAIリテラシーの底上げが重要となります。
生成AIサービス開発の事例:スタートアップの挑戦
日本のスタートアップ企業は、生成AIを活用したユニークなサービスを次々と開発しています。例えば、東京・大手町に拠点を置く企業が、話した言葉をほぼ同時通訳のようにリアルタイムで英語に変換するAI技術を開発しました(参考)。これは従来の「話し終わってから翻訳する」アプローチを大きく超える発想であり、小規模な組織ながら高速な音声認識と翻訳処理を実現しています。
また、2024年9月には生成AIの活用率向上をテーマとしたイベントが行われ、社内での生成AI利用率80%を達成するための秘訣が共有されました(参考)。このイベントでは、実際の導入事例や業務効率化の要点、人材育成との兼ね合いも取り上げられ、生成AIを組織に根付かせるための実践的なノウハウが共有されました。
こうした事例から、スタートアップだけでなく大企業も含め、幅広い組織が生成AIをビジネスにどう活かすかを模索していることが分かります。特に日本の企業は品質や正確性を重視する傾向があり、AI導入でも誤回答やセキュリティ面の対策に慎重です。成功事例では、明確な導入目的と社内の共通理解があり、事業部や現場レベルで実際に使いこなす仕組みを整えることが重要です。
AI導入とDX推進を成功に導く社内リテラシー強化
生成AI導入の大きな壁となるのが、社内全体のAIリテラシーです。AIプロジェクトに積極的でも、エンジニアやAIに通じた人材が限られている場合、PoC(概念実証)で止まってしまい、本格運用に至るまでのハードルが高くなります。
生成AIは80点程度の回答を瞬時に提供しますが、完全自動化を期待しすぎると誤回答やバイアスが問題となります。日本でも国産LLM(大規模言語モデル)の開発やGoogleの高性能モデル発表などが進み、多くの企業や自治体が生成AI導入に乗り出していますが、運用時には人間の確認や専門知識が欠かせません(参考)。そのため、組織全体でAIの仕組みを理解し、品質保証と活用手順を明確にすることが重要です。
国内では、教育機関でもカスタムGPTを用いたぬり絵制作や事務作業の効率化が進んでいる例が報告されています。これは業種や規模を問わず、生成AIがさまざまな場面でサポートできることを示しています。従来の業務プロセスを大きく変えず、まずは一部のタスクをAI化してみることがDX推進の第一歩となります。
カスタマイズAIソリューションの要点とセキュリティ
生成AI活用を本格化させる際、特に注意したいのがカスタマイズAIの導入です。自社のセキュリティ要件や保護すべきデータが明確な場合、安全管理の観点を踏まえたクラウドやAIプラットフォームの設計が必要です。海外のクラウドサービスを利用する場合、個人情報保護法上の対応が細かく分かれており、本人同意の取得や契約上の安全措置が求められます(参考)。
また、データ移転が「第三者提供」か「委託」か、ベンダーがデータを閲覧可能かどうかなど、契約内容や運用体制を丁寧にチェックする必要があります。生成AIソリューションの多くは、機械学習アルゴリズムを用いて利用者のデータを学習する場合があり、データの蓄積・分析による機密情報保護をIT部門だけでなく法務部門など複数部署で検討することが推奨されます。
世界的には各国政府が生成AI導入を後押しする一方、プライバシーや誤情報流布といったリスク対策が求められています。日本では慎重な姿勢が見られますが、安全で精緻なAIモデル構築には欠かせないステップです。
これからの生成AIビジネスと日本企業がとるべき一手
世界のスタートアップエコシステムランキングでは、シリコンバレーが依然として1位を維持し、シンガポールが8位に入るなど、北米・アジアの主要都市が生成AI分野でも存在感を示しています(参考)。東京は15位と順位を下げたものの、市場価値は増加傾向で、ユニコーン企業も複数存在しています。日本が今後も生成AI市場でリードするためには、イノベーション創出を後押しする風土づくりが重要です。
この点で、検証止まりになりがちなAI導入を本格運用につなげる「実装力」がカギとなります。トップダウンでのAI活用方針を示しつつ、現場レベルで課題を洗い出し、課題に最適化した生成AIツールやプラットフォームを導入するプロセスを明確にすることが求められます。社内研修や専門コンサルタントの活用、外部スタートアップ企業との協力など、柔軟な連携が促進されれば、日本の生成AIビジネスはさらに成熟していくでしょう。
読者の皆様も、まずは小さなプロジェクトから着手し、PoCをクリアしながら徐々に規模を拡大する進め方をおすすめします。リソースや予算の課題もあるかもしれませんが、安全面や効果測定の仕組みを整え、導入担当者だけでなく社内全体で失敗を許容する文化を作ることが成否を分けます。最新の生成AIトレンド情報をキャッチし、各社の事例や専門家の知見も取り入れて、自社ならではの生成AI導入を進めてみてください。
今後は国産LLMのさらなる進化や、海外クラウド事業者の進出による日本市場の活性化が見込まれ、企業にとっては絶好のチャンスが到来しています。競合他社に先んじて生成AIを取り入れ、生産性向上とDX推進を同時に達成する道が開けるでしょう。生成AI企業と日本のポテンシャルを改めて理解し、未来を切り拓くための一手を打つことが、これからのビジネス競争力を左右します。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
出典
- https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230824/k10014172391000.html
- https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250128/k10014704781000.html
- https://guga.or.jp/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%82%BAxguga%E5%85%B1%E5%82%AC%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%B8%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%A3%87%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B/
- https://generativeaijapan.or.jp/report/307/
- https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/0801/66f6ae39c36d1a50.html
- https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/06/93b72fc9c571fea3.html
- https://www.jipdec.or.jp/library/report/20240227-r02.html
Photo:Denys Nevozhai