生成AIアプリ導入の基礎知識
生成AIとは、大量のデータを学習し、新たな文章や画像、音声などを自動で生成する人工知能技術です。従来の識別型AIがデータの分類や分析を得意とするのに対し、生成AIは創造的なアウトプットが可能な点が特徴です。業務文書の自動生成、チャットボット開発、画像や音声コンテンツの生成など、幅広いビジネス領域で活用されています。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が加速する中、生成AIアプリの導入は事業目的の達成や業務効率化の手段として注目されています。特に、社内のAIリテラシー不足やPoC(概念実証)で止まってしまう課題を抱える企業にとって、生成AIアプリの活用は日常業務の効率化を加速させる有効な手段です。
国内でも行政レベルでの導入が進んでいます。東京都では、専門知識がなくてもAIアプリを内製できる共通の生成AIプラットフォームを構築し、行政職員が個別に環境を整えることなく生成AIを活用できる仕組みを整備しています。作成したAIアプリは他自治体でも利用可能なデジタル公共財となり、API連携による他システムとの接続や独自データの安全な活用も可能です(参考*1)。このようなプラットフォーム化により、誰でも簡単にアプリを作成できる環境が整い、行政の業務効率化が進んでいます。また、生成AI技術のビジネス応用は従来のシステム開発と比較して導入ハードルが低く、迅速な実装が可能となっています(参考*2)。まずは基礎知識を正しく押さえ、自社の業務課題を踏まえて適切に導入することが重要です。
業務自動化に生成AIが注目される理由
業務自動化は、長時間労働の是正や限られた人員での高効率運用といった課題に対して、具体的な解決策をもたらします。生成AIはユーザーとの対話履歴や既存データを参照しながら、独自の文章や意思決定サポートを提供できるため、従来のルールベース型システムよりも柔軟性と拡張性が高いのが特徴です。例えば、企業内のレポート作成や問い合わせ対応を自動化することで、人手に頼る作業を大幅に削減できます。
デジタル庁では2024年度に生成AI技術の検証を行い、機密データも安全に扱える利用環境を構築しました。2025年2月時点で、1週間あたり134名の職員が利用し、85個の生成AIアプリが作成されています。専門家支援を受けたチームの70%が実際の業務で利用を開始しており、行政の業務効率化と高度化に貢献しています(参考*3)。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2025年度以降に国産AIモデルを活用した生成AIアプリ開発のコンテストを企画し、省庁業務の生産性向上や生成AIの安全性確保などを目指しています(参考*4)。このように、民間だけでなく公的機関も積極的に生成AIの実用化に取り組んでおり、今後ますます活用が広がると考えられます。
多彩な活用事例 行政・ビルメンテナンス・医療の最前線
生成AIによる業務効率化は、産業界だけでなくさまざまな現場で進んでいます。株式会社オルツが提供する生成AIプラットフォーム「altBRAIN」では、医療問診や歴史上の偉人キャラクターなど多様なテーマのAIをノーコードで開発でき、社員が自分のAIクローンを業務に活用するなど新たな働き方が広がっています(参考*5)。
ビルメンテナンス分野では、株式会社小田急ビルサービスがAllganize Japan株式会社の生成AI・LLMアプリプラットフォーム「Alli LLM App Market」を導入し、定型業務の効率化や自動化、書類作成支援、社内問い合わせの自動化などに活用しています。業務ニーズに即したアプリの迅速な作成や回答根拠の明示、セキュリティ面への配慮が評価されています(参考*6)。
医療現場では、TXP Medical株式会社が生成AI音声入力アプリを開発し、国立成育医療研究センターで実患者を対象にトライアルを実施。医師や看護師のカルテ入力負担を軽減し、専門用語も高精度に記録できることで、業務の電子化やセキュリティ対策にも寄与しています(参考*7)。これらの事例は、生成AIが特定分野にとどまらず、幅広い業種で効果を発揮していることを示しています。
教育分野と組織内リテラシー向上のポイント
生成AIを活用するには、組織全体のAIリテラシー向上が不可欠です。特に若い世代にとって、生成AIなど先端技術に触れる機会は今後さらに増えていきます。東京都教育委員会は中高生向けに「みんなでアプリ作ろうキャンペーン」を実施し、生成AIを活用したモバイルアプリの開発コンテストを開催しています。生活を便利にする新しい価値の創出をテーマに、個人やチームでの参加が可能で、受賞者には表彰やポイント付与も行われています(参考*8)。
初心者が生成AI開発に挑戦する場合は、ノーコードプラットフォームやAIスターターキットなどを活用する方法が有効です。教育機関でも無料ツールから始めて徐々に高機能なサービスへ移行するアプローチが推奨されており、学習者中心の設計やデータの安全性・透明性への配慮が重要です(参考*9)。また、組織内で役立つアプリを導入するには、専門用語やセキュリティ要件への理解を深め、社内の継続的な学習体制を整えることが求められます。
さらなる学習を支援する取り組み
生成AIは導入して終わりではなく、組織の進化に合わせたノウハウ共有と継続的な学習が不可欠です。生成AIに関する誤情報やハルシネーションを防ぐためにも、社内外でのリスキリング機会の確保が重要です。ビジネスパーソン向けには、AIリテラシーを高める無料のAIクイズアプリ「生成AIパスポート」などが提供されており、学習テキストをもとにAIが○×形式のクイズを生成し、苦手分野を集中的に学べる仕組みが好評です。通勤時間などのスキマ時間にも手軽に学習でき、約9ヵ月で利用回数100万回を突破しています(参考*10)。
一部企業では社内ポータルでクイズ形式のコンテンツを運用し、初心者から上級者までバランスよく知識を習得できる環境を整えています。生成AIは学習データのアップデートにより自動回答の精度や表現力が向上し続けるため、実践型の学びがスピーディに得られる点も大きな魅力です。
生成AIが拓く新たな活用の可能性
生成AIの活用は業務効率化や自動化にとどまりません。近年では、仮想恋人アプリなど生活者のコミュニケーションの在り方を変えるサービスも登場しています。マッチングアプリ「LOVERSE」では、年齢や職業が設定された数千人のAIキャラクターと24時間いつでも会話でき、孤独感の解消や心理的サポートとして利用が拡大しています。利用者の多くは40代以上や既婚者で、AIとの結婚を選ぶ人も現れています。一方で、精神科医は依存リスクを指摘しており、アプリ側も「内容は架空」と注意喚起しています(参考*11)。
今後、生成AI市場は業務効率化の枠を超え、幅広いビジネスや個人向けサービスで発展していくと考えられます。導入コストやリスクを低減する動きも加速しており、安全性とカスタマイズ性を両立したソリューションが求められます。競合が増える中、組織や個人が着実にメリットを得るには、正しい知識と運用ルールの確立が不可欠です。クライアントニーズを的確に捉えたアプリ開発や、社内外の理解を得ながらのアップデートを通じて、持続的な成長が期待されます。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
出典
- (*1) https://www.govtechtokyo.or.jp/services/gen-ai-platform/
- (*2) https://onlineexeced.mccombs.utexas.edu/gen-ai-for-business-applications-online-course
- (*3) https://www.digital.go.jp/news/527968c1-5f55-42d4-868c-54112776c19f
- (*4) https://www.nedo.go.jp/koubo/CD1_100395.html
- (*5) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000124.000031630.html
- (*6) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000034106.html
- (*7) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000061.000111359.html
- (*8) https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/08/2025082802
- (*9) https://teachingresources.stanford.edu/resources/building-your-own-ai-app/
- (*10) https://guga.or.jp/2025-01-29/1100
- (*11) https://news.yahoo.co.jp/articles/4f349fa1ca7bac4f400c537bdc49c7f1c8bae832