生成AI・copilotの基礎知識
生成AIやcopilotは、大量のデータを学習した人工知能(AI)が新たな文章やアイデアを自動生成する技術です。特にcopilotは、自然言語処理や機械学習といった先端技術を活用し、文章生成やプログラミング支援、業務自動化など幅広い業務領域での活用が進んでいます。近年では大学や企業での導入が加速しており、東京大学ではGPT-4相当の高性能モデルとBing検索を組み合わせたMicrosoft Copilotを全学生・教職員が利用できる体制を整え、商用データ保護のもとで教育・研究支援に活用しています(参考*1)。また、同大学は生成AIの積極的な可能性を見据え、今後も学内向けの生成AIサービス提供方針を検討しています(参考*2)。
このような動きから、生成AIの導入は単なる流行ではなく、データドリブンなデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要な柱となりつつあります。文章作成やレポート作成、プログラミング支援、チャットボットによる問い合わせ自動応答、情報収集サポートなど、業務効率化や生産性向上に直結するAI活用が期待されています。
一方で、専門用語の多さや、どこまで業務に利用してよいか分からないという課題もあります。今後は、生成AIやcopilotがビジネス課題の解決にどう結びつくのか、導入ノウハウや実践的なポイントを押さえながら理解を深めることが求められます。
AI導入のはじめ方と業務自動化
生成AIやcopilotを導入する際は、まず導入目的や期待効果を明確にすることが重要です。例えば、ドキュメント作成の時間短縮による生産性向上、問い合わせ対応の負荷軽減、社内研修や調査の効率化など、具体的なゴールを設定することで、AI導入の方針や実装方法が明確になります。また、社内のAIリテラシー向上や運用ルールの整備も、PoC(概念実証)止まりで終わらせず、定着化を図るうえで不可欠です。
米国のウィスコンシン大学マディソン校(UW–Madison)では、Microsoft 365 Copilot Chatを学生・研究者・職員が無料で利用できる体制を整え、チャット機能やウェブ検索、生産性向上ツールを一括提供し、学内業務の効率化を推進しています(参考*3)。新潟大学では、総務・人事・学務など多様な部門でMicrosoft 365 Copilotの実証試験を行い、文書作成や要約業務の効率化を検証しています(参考*4)。また、フロリダ州立大学(FSU)では、ブラウザ経由で安全に生成AIを利用できる環境を整備し、テキスト生成や画像合成など多様な機能を活用しています(参考*5)。
これらの事例から、AIが提供できる価値を組織全体で共有し、必要に応じて権限やセキュリティルールを定めることの重要性が分かります。業務内容に応じた最適なAIツール導入には、社内のデータ取り扱い方針や活用シナリオの洗い出し、IT部門や導入推進担当者による実運用プロセスへの落とし込みが必要です。
導入時のハードルとしては、コストやシステム改修が挙げられます。外部委託か社内育成かは企業規模やニーズによって異なりますが、目標設定の有無が成果に大きく影響します。
copilot活用事例
生成AIやcopilotの活用においては、社内データとの兼ね合いが重要です。ミシガン州立大学(MSU)では、Microsoft Copilotのみが特定の機関データや研究データ、FERPAデータでの利用を許可している一方、HIPAA情報など機密性の高いデータには使用を禁じています(参考*6)。これは、AIが提供する情報の正確性や責任の所在、機密情報の漏えい防止の観点からの措置です。
また、ジェームズ・マディソン大学(JMU)では、copilotチャットへの入力内容がモデルの学習に使われることや、1日300回の利用上限などの制限が設けられています(参考*7)。SUNY Empire State Collegeでは、チャット内容の暗号化や学習利用の制限、大学アカウントでのログインによる外部情報漏えい防止策が導入されています(参考*8)。
代表的な活用例としては、規定やマニュアルの理解をサポートするAIアシスタント、自動応答による問い合わせ対応、レポートや提案書の文章生成などが挙げられます。特に知識量が多く更新頻度の高い領域では、copilotが参照情報を即時提示することで作業時間の大幅削減が期待できます。導入時は、技術導入だけでなく、業務フローやデータ管理方針のすり合わせが不可欠です。
セキュリティとデータ保護への配慮
生成AIをビジネスや公共の場で活用する際は、データの安全性確保が不可欠です。JR西日本では、駅員向けAIアシスタント「Copilot for 駅員」を開発し、膨大な営業規則や商品情報を即時取得してサービス向上に活用していますが、正しい情報管理と情報漏えいリスクの最小化が重視されています(参考*9)。
また、企業規模や業種によっては社員のAIリテラシーに差があるため、研修を通じて安全なAI導入を進めるケースが増えています。Meta HeroesはGoogle GeminiやMicrosoft Copilotに特化したリスキリング研修を実施し、現場でのAI活用に焦点を当てています(参考*10)。
自治体レベルでもセキュリティを意識した技能講習が行われており、埼玉県ではcopilotの中級講習を開催し、参加者がWindows操作や情報検索、生成AIの知識を深める機会を提供しています(参考*11)。このように、データ保護を意識した研修や講習を活用しながら、AIの利点を最大限に引き出すことが重要です。
スムーズなAI定着化と人材育成
AIツールを継続的に活用するには、使い勝手と導入効果を実感できるサポート体制が不可欠です。Microsoft Copilotには、デザイン支援のDesignerや料理レシピをサポートするCooking assistantなど、用途別の機能が用意されています(参考*12)。会議の要約や資料作成など、作業手順の簡易化に直結するサービスから導入することで、利用者がAIのメリットをすぐに実感しやすくなります。
人材育成の観点では、大学や企業研修でAIの基礎知識や操作手順、リスク管理を学ぶ機会を設けることが有効です。ミネソタ大学(UMN)では、AI生成物の引用指針や倫理面の注意点を明確にしたガイドラインを公開し、学習者や利用者がAIの誤用や過度な期待を避けやすくしています(参考*13)。
企業のDX推進担当者は、導入したAIが日常業務に根付くための仕組み作りが求められます。現場担当者向けの研修やフォローアップ、管理職によるシステム・データ管理の一元的見直しなど、リテラシー向上と情報共有の土台がDX推進には不可欠です。
生成AIで広がるDXの未来
生成AIやcopilotの導入は、組織の生産性向上やコスト削減だけでなく、将来的なビジネスモデルの革新にもつながります。業務効率化のための自動化ツールやチャットボットは既に普及し始めていますが、今後はプロセス全体を最適化するAIプラットフォームの活用や、ビジネス戦略そのものを視野に入れたAI導入が一層注目されるでしょう。
例えば、企業間の受発注や問い合わせ対応、社内文書の制作工程をつなげることで、データが自動的に集約され、レポート作成や顧客分析が効率化します。生成AIやcopilotを活用することで、従来時間と手間がかかっていた作業が大幅に省力化され、担当者は新たな施策や創造的な業務により多くの時間を割けるようになります。組織全体の働き方やコミュニケーションの変革が進み、顧客サービス品質も向上する相乗効果が期待されます。
ただし、AIリテラシーやセキュリティ対策が社内で共有されていない場合、誤った入力やデータ漏えいなどのリスクが生じます。継続的な教育やシステム監視、データ監査が欠かせません。AI開発・運用担当者だけでなく、経営層や現場担当者、ITヘルプデスク部門などが連携し、全社一丸となった推進体制を築くことで、DXによる成果をより確実に得られるでしょう。
今後は最新の生成モデルや自然言語処理技術の進化により、柔軟なカスタマイズAIやクリエイティブAIの登場も見込まれます。競合他社との差別化や新規ビジネスチャンス創出に向け、早期のAI導入や人材育成が長期的な成長の鍵となります。実践事例が示すように、生成AIやcopilotの活用はDX推進を加速させ、新しい働き方やビジネスモデルの創出に寄与しています。
まとめ:生成AI・copilot導入で実現する業務改革
生成AIやcopilotの導入は、単なる業務効率化にとどまらず、組織の生産性向上や新たな価値創出、ビジネスモデル変革の起点となります。導入にあたっては、目的の明確化、社内リテラシー向上、セキュリティ対策、現場定着化のための人材育成が不可欠です。各種事例や最新トレンドを参考に、自社の業務課題や目標に合ったAI活用を進めることで、競争力強化と持続的な成長が期待できます。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
出典
- (*1) utelecon – Microsoft Copilotによる生成AIチャットの提供について
- (*2) utelecon – 当面の全学構成員向け生成AIサービス提供方針について
- (*3) UW–Madison Information Technology – Microsoft 365 Copilot Chat
- (*4) 新潟大学 – 生成AIの業務導入に向けたMicrosoft 365 Copilotの実証試験を開始しました
- (*5) Generative AI
- (*6) Technology at MSU – Technology at MSU – Generative AI
- (*7) Generative Artificial Intelligence (AI)
- (*8) Empire State University – Knowledge Base – Microsoft Copilot: A Generative-AI Productivity Tool
- (*9) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – JR西日本の生成AI「Copilot for 駅員」に対する開発支援を行っています
- (*10) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 生成AI「Gemini」および「Copilot」に特化した企業向けリスキリング研修を開始
- (*11) 埼玉県 – 職能18 Copilotで始める生成AI
- (*12) 「Microsoft Copilot Web版」の利用方法|生成AIの利用方法|各利用方法、マニュアル|利用方法|東京経済大学情報システム課
- (*13) Generative AI tools (Gemini, CoPilot, ChatGPT and more)