生成AIサービス導入のはじめに
生成AIサービスは、人間の指示や質問に応じて文章や画像などを自動生成するAI技術を活用したサービスです。従来は専門知識が必要とされていましたが、近年はクラウド型の生成AIプラットフォームや生成AIツールが普及し、誰でも手軽に利用できる環境が整っています。企業のDX推進担当者やAI導入担当者が業務効率化を目指す際、生成AIサービスは新たな選択肢として注目されています。経営判断の迅速化や資料作成の自動化、事務処理の負担軽減など、さまざまな業務課題の解決に寄与しています。導入を検討する際には「どこから着手すべきか」「専門部署がなくても運用できるのか」といった疑問が生じやすく、事前の計画立案が重要です。
北海道では2024年6月10日から全庁で文章生成AIサービスの利用を開始し、職員がOpenAIのChatGPT公式サイトやMicrosoft EdgeブラウザーのCopilot機能を活用できる環境を整備しています。利用にあたってはガイドラインを設け、オンデマンド研修を実施するなど、安全かつ効果的な活用を推進しています(参考*1)。このような行政現場での取り組みは、企業においても導入の参考となる事例です。情報漏えいリスクや誤った内容の出力に備えた教育が普及し、大規模組織でもスムーズな導入が進んでいます。現場の声を反映した体制づくりが、生成AI導入の成功に不可欠です。
業務効率化と導入メリットの具体像
生成AIサービスの導入は、書類作成やデータ分析、社内問い合わせ対応などの業務自動化を通じて、工数削減と業務効率化を実現します。例えば、生成AIチャットボットを活用することで、顧客や社内担当者からの問い合わせに自動応答し、適切な担当部署への振り分けも可能です。これにより、業務全体のスピードと質の向上が期待できます。AI技術の進化は法律や医療など専門性の高い分野にも広がっており、資料のドラフト生成や関連文献の要約など、さまざまな場面で作業時間の削減につながる事例が増えています。
2022年11月にOpenAIがリリースしたChatGPTは、法律業界を含む多くの分野で革新的な変化をもたらしています。法分野ではAIが書類の下書きをサポートし、専門家が確認作業に集中しやすい形が試されています。ただし、誤りや漏れが起きないように人によるチェックが不可欠であり、段階的な導入によって精度向上が期待されています(参考*2)。情報量の多い業務や煩雑な応対が多い部門にとって、生成AIサービスの導入は競争力強化の鍵となります。
セキュリティと運用ガイドラインの要点
生成AIサービスの導入にあたっては、機密情報や個人データの取り扱いが重要な課題となります。AIツールに入力したデータがサーバーで学習に利用され、第三者に閲覧されるリスクも指摘されています。情報流出を防ぐためには、アクセス範囲やデータ保管場所、利用ガイドラインを明確にし、社内外でルールを徹底することが求められます。導入担当者はクラウド環境やプライバシー規定を確認し、責任範囲を整理する必要があります。
インディアナ大学では、機関データで利用が許可された生成AIツールに限定してユーザーガイドラインを設定し、未承認のAIツールへの入力を禁止しています。利用希望の場合は大学のデータ管理者による審査を受ける手順が設けられており、こうした対応策は企業や自治体にも応用可能です(参考*3)。また、日本国内でも生成AIサービスの普及を受けて、関係委員会が利用者に向けて注意喚起を行っています(参考*4)。導入前には、利用環境や契約内容、データ保管の仕組み、利用制限などを十分に確認することが不可欠です。
地域行政が進める活用事例
自治体での生成AIサービス導入事例では、職員の事務作業負担軽減と住民サービスの質向上が主な目的です。沖縄県では教職員向けに校務特化型生成AIサービスを導入し、教材作成や文書要約の効率化を図るプロジェクトで560アカウント以上の調達が計画されています(参考*5)。焼津市は2025年度に向けて生成AIサービスの公募型プロポーザルを実施し、市民サービス向上と職員の事務負担軽減を目指しています(参考*6)。奈良市では2025年9月25日に生成AIサービスのライセンス調達に関する一般競争入札を行い、庁内業務の効率化と生産性向上に取り組みます(参考*7)。
また、香芝市ではサービスやソリューションの特徴を収集し、安全かつ有用な環境づくりを進めています(参考*8)。泉大津市では2025年4月から審査を行い、優先交渉権者を選定。初期導入費用や月額利用料の上限額を設定し、運用コストの安定化を図っています(参考*9)。これらの事例は、組織として費用対効果を検討しながら生成AI導入を進める際の参考となります。
導入プロセスと運用の実践手順
生成AIサービス導入の成功には、事前準備から運用開始後の実践まで計画的なプロセスが不可欠です。一般的な流れは以下の通りです。
1. 導入目標の設定:業務効率化や顧客対応の向上など、組織全体のゴールを明確にします。
2. 要件整理と技術選定:処理速度やセキュリティ要件を調査し、オンプレミス型やクラウド型など最適な生成AI技術を選定します。社内ITインフラとの親和性も考慮します。
3. 導入テストと教育:限定部門で稼働させ、操作方法やエラー時の対処法を学びます。運用担当者や利用部門からのフィードバックを取り入れ、全社展開へ移行します。
4. 運用開始後の監視:精度や利用状況を定期的にトラッキングし、想定外の負荷や質問に対応できるかを検証します。データ量を徐々に増やして負荷管理を実施します。
費用面や契約期間、利用者増加に伴うライセンス再調達なども考慮し、導入後の拡張や変化に柔軟に対応できる体制を整えましょう。現場の要望を聞き取り、問題点を修正するサイクルを回すことが、スムーズな運用定着の鍵です。IT部門や管理者だけでなく、現場の声を反映させる姿勢が重要です。
大学や教育現場での実践例
教育現場でも生成AIサービスの活用が進んでいます。教職員が使いこなせる生成AIツールを導入することで、レポートの下書きや調査補助、学術資料の要約などの作業効率が向上します。米国イリノイ大学では、マイクロソフトのCopilot 365を約500名の教職員とボランティアで試験導入し、実際の効果や利便性を検証するプログラムが進行中です(参考*10)。
また、ミシガン工科大学ではGoogle Geminiという生成AIサービスを教職員や学生に無料提供し、回答作成や新規コンテンツ生成などに活用できる環境を整えています。Google Geminiに入力されたデータはAIモデルの改善には利用されず、第三者に閲覧されることもありません(参考*11)。
教育現場では教材作成や学習支援への期待が高まる一方、誤った回答やデータ誤用リスクへの指導体制も必要です。担当教員や研究者が生成AIの特徴とリスクを正しく理解し、学生や利用者に伝える役割を担うことが重要です。
今後の行方と倫理的課題
生成AIサービスの進化は、業務効率化や情報活用の幅を大きく広げています。行政、企業、教育機関などで導入事例が増え、既に一部の領域では広く定着しています。しかし、AIが人間の判断を完全に代替できるわけではなく、誤回答やデータ管理リスクと隣り合わせです。どの業務に適用するかを見極め、想定外の事態への対処方針を明確にすることが導入後に求められます。
倫理面も重要です。個人情報の扱い、誤情報発信リスク、AI利用によるデジタル格差拡大など、ユーザーや関係者が直面しうる課題は多岐にわたります。技術面だけでなく、正しい管理と学習データ・活用範囲の見直しが不可欠です。組織全体でAIリテラシーを高め、基本的な仕組みや注意事項を理解することが望まれます。
AIツール選定時には、投資効果や信頼性、持続可能な運用方法を検討する必要があります。技術進歩が急速な今、状況変化に柔軟に対応できる体制が求められます。明確な検証項目を設定し、最新情報を常に追いながら新たな課題にも対応できる姿勢が重要です。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
出典
- (*1) 道における生成AIサービスの利用について
- (*2) Harvard Law School Center on the Legal Profession – The Implications of ChatGPT for Legal Services and Society
- (*3) University Information Technology Services – AI at IU
- (*4) 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について |個人情報保護委員会
- (*5) 沖縄県公式ホームページ – 校務特化型生成AIサービス提供業務に係る企画プロポーザルの実施|沖縄県公式ホームページ
- (*6) 焼津市 – 令和7年度焼津市生成AIサービス提供業務に関する公募型プロポーザル
- (*7) 奈良市ホームページ – 生成AIサービスのライセンス調達及び利用契約に係る一般競争入札について
- (*8) 生成AIサービス検討に係る情報提供依頼(RFI)の実施ついて
- (*9) 泉大津市生成AIサービス導入業務プロポーザルの実施について【5月22日 選定結果について 更新】/泉大津市
- (*10) Technology Services – Generative AI Resources
- (*11) Michigan Technological University – Information Technology