法的問題はどう回避?AIコンテンツ活用の注意点

2025.10.08

WorkWonders

AIコンテンツと法的問題の全体像を整理

生成AIの普及で、業務文書や記事、画像、音声、動画まで幅広いAIコンテンツが高速に作られるようになりました。ここで言うAIコンテンツとは、生成AIが出力したテキスト・画像・音声・動画など、業務利用を前提とする成果物を指します。企業はAIコンテンツ生成を前提に、作成から運用、改善と調整、SEO(検索順位対策)、品質管理、検出やモデレーション(投稿監視)、倫理指針までを一体で設計する必要があります。とりわけ本記事の中心となる法的問題は、著作権、ライセンス、個人情報、データ保護、責任分担、透明性、公平性、公正取引、利用規約、法令順守と広くまたがります。初学者でも押さえやすいように、まずは全体像を示し、次章以降で法的問題を具体的に深掘りします。

日本国内でも業務でのAIコンテンツ活用は進み、2024年1月時点の調査で業務利用が31.9%に達し、試験利用を含めると約半数が活用しています。記事やシナリオの作成には40.8%が利用し、画像・動画・音楽の利用も拡大傾向です。著作権は創作意図と創作的寄与の有無が判断の軸であり、生成物の著作権付与の基準は議論が続いています。学習段階の扱い、既存著作物との類似性や依拠性の評価、著作権法30条の4などの制度整理が進行しており、利用者には事前調査や専門家相談が推奨されています(参考*1)。

この前提を踏まえると、実務ではAIコンテンツ品質の基準づくり、AIコンテンツSEOに適う出典表示ルール、AIコンテンツ検出や投稿監視の運用、AIコンテンツ自動化に伴う権利と責任の整理が核心になります。社内のAIコンテンツツールやAIコンテンツ基盤を選定する際も、法的問題対策と連動させることが肝心です。本稿では、著作権とライセンス、学習データと個人情報、生成物の権利帰属と責任、虚偽情報対策、契約・利用規約、海外動向の順に、具体的な法的問題を整理します。

著作権とライセンスの法的問題の要点

著作権は、創作性と人の関与が中心的な判断軸です。日本国内では、長く詳細な指示で画像を作成したり、同一の指示を複数回実行して選別するなど、人の創作的寄与が認められると著作物と評価され得るという整理が進んでいます。反対に、既存作品に依拠し過度に似てしまう場合は侵害の懸念が高まります。また、生成AIの誤情報は事実確認で補正する体制が必要で、世界的にはAI生成物の開示義務を求める規制の動きも見られます(参考*2)。

海外では、米国著作権局がAIコンテンツの扱いについて公聴会や意見募集を進め、2023年8月に連邦官報で調査通知を公表し、同年12月時点で1万件超のコメントを収集しています。今後、複数の報告書が順次公開される予定で、AI生成物の権利範囲や学習での著作物利用の是非、ライセンスやオプトアウト(拒否の意思表示)の設計に影響します。米国の制度動向は日本企業の海外展開やコンテンツ流通にも直結するため、定期的に確認しておきたいところです(参考*3)。

実務での要点は次のとおりです。AIコンテンツの著作権を主張したい場合は、企画意図、指示、選別、修正といった人の創作プロセスを記録します。AIコンテンツのライセンス管理では、素材の出所確認、学習や再学習への二次利用可否、データ提供契約の制約、第三者資産の許諾条件を明記します。さらに、AIコンテンツ検出や開示表示の社内基準を定め、AIコンテンツの販促での出典表記や参照資料の保存を徹底すると運用が安定します。

国内案件と海外案件は契約で分け、準拠法や裁判地、紛争解決条項を明確化します。社外公開の前に、AIコンテンツの調整とともに法的問題の事前審査(著作権・ライセンス・表示の三点チェック)を入れるだけで、後工程の差し戻しや訴訟リスクを大きく減らせます。

学習データと個人情報の法的問題を検証

学習データの収集と利用は、AIコンテンツ運用における法的問題の根幹です。日本国内では、著作権法30条の4や47条の5の射程、オーバーライド問題、データ提供契約上の制約、営業秘密の扱い、本人同意が必要となる個人データや要配慮情報の削除・同意取得など、実務で検討すべき点が整理されています。とくに肖像権(個人の顔写真等の利用に関する権利)やパブリシティ権(著名人の氏名・肖像等の商業的価値に関する権利)の保護、契約上のデータ利用制限の確認は外せません(参考*4)。

海外では、GDPR(欧州一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などのデータ保護法が運用要件を定めています。企業はデータの出所を文書化し、入手から利用、保存、削除までの追跡記録を保持し、透明性と通知、同意、目的制限、データ最小化の原則に沿う必要があります。教育と監督、データ処理プロセスの厳格化、保険の活用まで含め、訴訟や制裁金リスクに備えておくとよいでしょう(参考*5)。

実務の勘所は、AIコンテンツ作成の前後でデータの適法性を二重に確認することです。具体的には、社内のAIコンテンツツールに投入する前に、個人情報や機微情報、営業秘密を除去し、匿名化や仮名化を適用します。さらに、AIコンテンツ検出の仕組みで、学習対象や再学習データに機密が混入していないかを点検します。入力段階と再学習段階の双方に監査ログを残し、AIコンテンツ基盤のアクセス権限と保存範囲を最小限に抑えます。

日本国内では、社内規程に利用目的と範囲、再学習の可否、雛形の保存、第三者提供の有無を明記します。海外では、越境移転の適法性、標準契約条項、データ主体の権利行使への対応を文書化しておくと、監督当局の調査にも耐えられます。

生成物の権利帰属と責任の法的問題

生成物の権利帰属は、人の関与がどこまで創作性に寄与したかが鍵です。海外では、EUがAIが独立して作成した作品は著作権の対象外とする立場を示しており、米国でも著作権局が人の創作的統制がない出力は保護しない方針を明確化しています。2023年8月、米国DC(ワシントンD.C.)連邦地裁はThaler v. Perlmutterで機械のみの生成物の登録を認めず、人が編集し派生的に新規性を加えた場合に限り保護が及び得るという理解が支持されました。今後も人の寄与度合いの記録が重要になります(参考*6)。

責任の所在は、開発者、提供者、利用者の三者で分散しやすい領域です。業務でAIコンテンツ生成を使う場合、入力の適法性、出力の検証、再配布時の表示義務、第三者権利の確認という各工程に注意義務が発生します。人によるレビューや、AIコンテンツ品質を担保するチェックリスト、AIコンテンツの調整ガイドラインを整え、生成物の説明可能性を確保すると、責任分担の線引きが明確になります。

日本国内の実装では、社内での承認フローとログ管理を通じて、誰がどの判断をしたかを残し、後から検証できるようにします。海外展開する場合は、準拠法により製品責任や消費者保護法の適用が変わるため、契約で責任制限や補償、保険の活用を明記しておくのが実務的です。

生成物の権利表示は、著作者名、生成手順の関与度、使用したAIコンテンツツール名やモデル情報、素材のライセンスを整理し、社外向けの公開ポリシーとして定着させると、外部からの指摘に備えられます。

虚偽情報と名誉侵害の法的問題への対策

AIは、もっともらしい誤情報を生むことがあり、名誉侵害や信用毀損につながります。海外では、2023年に米国最高裁でTwitter Inc. v. TaamnehやGonzalez v Googleが議論され、プラットフォームの責任の在り方が注目されました。AIコンテンツの誤情報や著作権侵害、プライバシー侵害に対し、開発者や企業の責任が問われる可能性が指摘され、イタリアの規制当局の対応やフランス、ドイツ、アイルランドへの波及も注視されています。出力の正確性を事前に検証し、公開前に人が確認する運用がポイントです(参考*7)。

名誉侵害を避けるには、AIコンテンツの投稿監視を強化します。学習データの偏りや設計上の偏りが誤分類を引き起こし、特定の属性に不利な結果を生むことがあります。顔認識の誤識別や感情認識の限界など、技術の閾値設定や運用設計が結果を左右するため、問題設定を慎重に行い、文脈を踏まえ、限界を認識するという運用原則を組み込みます。広告や消費者保護法の表示責任の観点でも、透明性の確保と適切な説明が求められます(参考*8)。

日本国内では、社外公開前に事実確認、権利者名寄せ、出典追跡、根拠メモの添付を標準化し、AIコンテンツ検出の結果と合わせて保存します。海外に向けては、誤情報対策として、由来表示、透かし(デジタル透かし)や識別子の付与、訂正プロセスの明示が評価されやすい傾向があります。

実務では、AIコンテンツ運用におけるリスク指標をKPI(重要業績評価指標)として可視化します。例えば、訂正率、異議申立件数、削除対応までの平均時間、開示請求への応答時間、名誉侵害クレームの再発率などを継続測定し、AIコンテンツ品質の改善につなげます。

契約と利用規約で抑える法的問題の実務

契約はAIコンテンツの法的問題対策の要です。海外の実務整理では、商業契約、製品責任、プライバシーとデータ保護、知的財産、雇用、独占禁止などの条項設計が重要とされ、データ収集と利用の適法性、知財侵害の回避、セキュリティ義務、訴訟リスク、準拠法の選択などを包括的に管理する必要があります(参考*9)。

日本国内の調達・委託では、学習データの権利帰属、再学習の可否、モデル改善への利用範囲、第三者データの許諾、生成物の表記と開示、責任分担と補償、監査対応、情報漏えい時の通知、AIコンテンツ基盤の稼働率保証やセキュリティ管理を条項化します。社内の利用規程では、入力禁止データ、レビュー体制、保存期間、外部共有の可否、AIコンテンツの調整手順、投稿監視の基準を明記してください。

海外では、企業が生成AIの出力に関する著作権クレームに備え、補償や防御を宣言する動きがあります。マイクロソフトはCopilotとAzure OpenAI Serviceの出力に関し、顧客の著作権侵害クレームに対して弁護し、訴訟での不利な判決や和解金を負担する方針を示しました。適用には安全策や内容フィルターの活用などの条件が付きますが、Word、Excel、PowerPoint、GitHub Copilot、Bing Chat Enterpriseなど法人向け製品まで広く対象としています。契約交渉では、同様の補償条項の有無や条件を確認しておくと、実務上の判断材料になります(参考*10)。

利用規約では、AIコンテンツ生成とAIコンテンツ運用に関する透明性、データの再利用可否、ユーザーの責務と禁止行為、AIコンテンツ検出の実施、法的問題発生時の連絡と削除、ログ保存期間を明確化します。これにより、社内の統制だけでなく、社外説明責任にも応えられます。

海外法制と最新動向から見る法的問題

日本国内は、AI事業者ガイドライン第1.0版の公表やAI制度研究会の検討が進み、当面は自主的な取組などのソフトローを中心に整備が図られています。海外では、EUが2024年にAI法(AIに関する包括規制)を成立させ、汎用AIモデルに透明性義務や重大なシステミックリスクへの対応を課しています。米国ではAI権利章典(AI利用に関する原則集)や大統領令、業界合意を通じて規範形成が進み、州レベルでもユタ、コロラド、カリフォルニアなどで動きが見られます。実務論点としては、開発と利用の各段階、再学習データの扱い、権利帰属、データ保護、透明性、透かし付与などが焦点です。国内の統治と海外規制の整合が、今後の大きな課題となります(参考*11)。

日本国内では、海外法制への対応として、AIコンテンツの開示、リスク階層化、説明可能性、評価と監査のプロセスを段階的に実装します。海外向けの提供では、EU向けの透明性要件やリスク管理枠組み、米国での製品責任や消費者保護の要件、州法の個別規制をマッピングし、契約と運用に落とし込みます。

AIコンテンツ倫理と公平性に関する社内方針を公開し、AIコンテンツ品質の評価指標、AIコンテンツ検出と投稿監視の手順、偏り低減の工程を明確にすると、海外の規制当局や取引先との信頼が高まります。透かしや出所表示、記録の保持は、虚偽情報対策としても有効です。

最後に、国内外の制度変更は継続します。法的問題に関する規制の改定、AI法の具体化、データ保護や透明性要件の強化が予想されるため、定期的な規程見直しと、専門家や外部監査の活用を続けることが、AIコンテンツ活用を安定させる近道になります。

 

監修者

安達裕哉(あだち ゆうや)

デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))

 

出典

Photo:Sasun Bughdaryan

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