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はじめに
株式市場では、新しい技術の登場が常に投資家の注目を集めてきました。近年、生成AIと呼ばれる革新的な技術が大きな話題となっています。生成AIは膨大な学習データをもとに新しいコンテンツやデータを生み出す能力を持ち、画像や文章、音声、動画など幅広い分野での活用が期待されています。こうした生成AIへの期待感は投資家の間でも高まっており、株式市場への影響が今まさに注目されています。
本記事では、生成AIと株式市場の関係について基礎から分かりやすく解説します。生成AIの実用例や株式市場にもたらす可能性、注目されている事例を紹介し、投資の新たな方向性を探ります。生成AIがどのような価値を提供し得るのか、リスクとともに考察し、読者の理解を深める一助となることを目指します。
生成AIと株式市場の基礎
生成AIの概要
生成AIは、人工知能(AI)の一分野であり、訓練データをもとに全く新しいコンテンツを作る技術です。AIとは、機械が人間並みの知能を持って感知・理解・行動・学習を行う複数の技術の総称であり、予測AIと生成AIという大きな分類がよく取り上げられます。予測AIは過去のデータから将来の結果を推定し、株価の動向やテキスト入力時の次単語を予測する役割を担います。一方で生成AIは、画像や音声、文章などを学習し、それらをもとに新しい作品や情報を創出する能力に優れています(参照*1)。
近年の生成AIは、インターネット上の大量のテキストや画像を学習データとして、高解像度画像の生成や文章の自動作成、音声や動画のリアルタイム生成まで可能になりつつあります。OpenAIなどが提供する高度なモデルは、自然な受け答えや創造的な文章を生み出し、ビジネスの効率化や独自コンテンツ開発を後押ししています。こうした多角的な活用領域が評価される中、生成AIは企業の決算説明会などでも頻繁に話題となり、投資市場での評価が急速に高まっています。
実際、2014年から2024年のS&P500企業における2万2千件以上の決算説明会資料を調査した研究では、生成AI関連のキーワードが全体の議論に占める割合は2023年に5.0%程度に上昇しました。さらに、高性能のGPT-4oを使い、決算発言内容を「機会」「採用」「リスク」といったカテゴリに分類する試みも進んでおり、AIの存在感が企業活動の中心に据えられつつあることが示されています(参照*2)。
株式市場の基本
株式市場は、企業が資金を調達するために株式を投資家に販売し、その後の売買によって価格が変動する仕組みを持つ資本市場です。上場企業の成長が見込まれる場合、投資家は企業の利益配当や将来の株価上昇を期待して株式を取得します。企業側は投資家からの資金を活用して新製品の開発やマーケティングなどに充て、経営資源を拡大することができます。
株式市場の特徴として、投資家心理や国際情勢、金融政策など多様な要素が価格形成に影響を与える点が挙げられます。経済の動向や企業の業績だけでなく、AIのような新技術の登場も株価を大きく動かす要因です。生成AIが急成長している現在、多くの投資家がこの分野の情報を求めて注目しており、メディア報道やアナリストの評価によって株価が大きく変動しやすい状況が生まれています。特にアメリカのハイテク株を中心とするNASDAQやS&P500などでは、新技術の情報が株価動向に素早く反映される傾向があります。生成AIが実用段階に入り、企業収益の拡大につながる兆しが見られた場合、その銘柄や関連ビジネスを展開する企業に資金が集中します。一方で、具体的な利益が出る前に期待だけで株価が高騰するケースもあり、市場の変動幅が大きくなる点には注意が必要です。
生成AIがもたらす株式投資の新たな潮流
生成AIブームの背景
生成AIブームの背景には、技術革新のスピードと投資家の期待感が密接に関係しています。近年、マッキンゼーが「次の生産性の境界」と評したように、生成AIは2.6兆~4.4兆ドル規模の潜在的成長を生み出す可能性があると試算されています。モルガン・スタンレーも生成AI市場を6兆ドル規模の機会と位置づけており、大手企業が決算説明会などでAIという言葉を強調すると、株価に好影響が及ぶことが多くなっています(参照*3)。
こうした熱狂的な反応の背景には、世界的なIT企業が生成AIを自社戦略の中核に据え、新しい製品やサービスを次々と打ち出している現状があります。たとえば、半導体大手がAI向けの高性能チップを開発し、それが大きな収益源となるケースも増えています。結果として、株価が急騰する銘柄が登場し、投資家の注目をさらに集める好循環が生まれています。ただし、生成AI関連のプロジェクトは運用コストが大きいことも多く、実際に利益として結実するまでには時間がかかる場合もあるため、長期的な視点での評価が求められます。
2023年以降は、生成AIを活用したチャットシステムや画像生成プラットフォームの登場により、一般ユーザーの関心も急速に高まりました。これが新たな投資家の参入を促し、マーケットに資金が流入することで株価が盛り上がりやすい状況が続いています。一方で、経営者が生成AIの用途を誇大に謳うことで、いわゆる“バブル状態”が発生するリスクも指摘されています。ブームに流されることなく、技術と市場の実態を見極める姿勢が重要です。
注目されるAI関連銘柄
生成AIに注目が集まる中、具体的にどのような銘柄が注目されているのでしょうか。2026年に有望視されるAI関連株としては、以下の企業が挙げられます(参照*4)。
- エヌビディア(NVIDIA)
- マイクロソフト
- アルファベット(Googleの親会社)
特にエヌビディアは、2025年10月時点で時価総額が5兆ドルを超えたと報じられ、AI半導体市場で圧倒的な優位性を持っています。高性能のGPUを開発しており、生成AIの処理に必要な演算能力を提供する点が高く評価されています。マイクロソフトは、クラウドやOffice製品など幅広い事業展開の中で生成AIを積極的に取り入れており、企業向けクラウドサービスを通じて安定した収益を確保しています。アルファベットは検索エンジンや動画共有サービスなどの膨大なデータと広告収入を活かし、AI分野への投資を加速させています。
また、GPUやクラウドサービスといったインフラ部分だけでなく、AIを応用したアプリケーションやプラットフォームを提供する中小企業の株価も上昇傾向にあり、投資機会は多岐にわたります。米国市場だけでなく、日本や欧州、アジアのIT企業でも生成AIの研究開発を積極的に進める企業が増えており、今後これらの動向が地域経済や産業界にどのような影響を与えるか注目されています。企業の成長性に関する情報は日々変化するため、投資を検討する際には常に最新の動向をチェックすることがポイントです。
株式市場への影響を分析する主要手法
数値データを用いたモデル
生成AIが株式市場に与える具体的な影響を測定する方法として、数値データや統計モデルを活用する研究が進んでいます。たとえば、1926年から2000年までの約5000万件に及ぶ米国株の日次リターンデータを学習させ、256日間の連続リターンを入力して次の日のリターンを予測するモデル「StockGPT」が提案されています(参照*5)。この手法は、多様な市場データを取り込んで将来の株価動向を推定することを目指しており、アルゴリズムトレーディングやファンド運用で有効とされています。
生成AIを用いたモデル構築は、従来の予測AIにはない柔軟性をもたらす可能性があります。たとえばSNS上のテキストや企業のPR資料など、ビッグデータに含まれる非数値情報を分かりやすい形に変換し、それを株価予測に取り込む取り組みも進んでいます。自然言語処理を駆使して個別銘柄の評判や製品の反響を分析し、投資リスクの高まりを早期に検知できれば、投資家は意思決定を迅速に行うことができます。さらに、複雑な経済指標を統合的に扱う際にも、生成AIは従来の手法にはない多角的な視点を提供すると期待されています。こうした高度なデータ活用には大規模なコンピュータリソースが必要になるため、主に大手投資銀行やヘッジファンドが先行して採用してきましたが、クラウド技術の普及とともに個人投資家向けのツールも増えつつあります。結果として、より多くの市場参加者が生成AIを資産運用の一部として取り入れることが可能になり、広範な投資判断においてデータ駆動型の意思決定が浸透していくことが期待されます。
経済指標と市場トレンド
株式市場を分析する際には、数値データだけでなく、米国の経済指標や世界の政治情勢など多角的な要素を考慮する必要があります。たとえば米国では、政府機関の一時的な閉鎖によるレポート不足がS&P500やナスダック指数に影響を与えた事例がありました(参照*6)。このような突発的なイベントで市場データが不十分になると、予測AIモデルだけでなく生成AIによる分析も困難になることが指摘されています。
一方で、経済指標の数値的な変化だけに注目するのではなく、その背後にある政策意図や企業行動の文脈を捉えることも重要です。生成AIは決算説明会やメディアでの発言をテキストとして収集し、それを要約・分類して投資家に提示することが可能です。たとえば、企業がどのように生成AIを活用し、将来的な収益拡大につなげようとしているかを“リスク”や“機会”といった観点から精査することで、市場のトレンドをいち早く捉えることができます。さらに、世界経済は米国だけでなく、欧州やアジアの成長率や金利政策などとも絡み合っています。生成AIが扱える情報源が増えるほど、多方面のリスクとチャンスを総合的に評価できる期待が高まる一方、過剰な情報によって分析が混乱する懸念も残ります。最終的な投資判断は人間が行うものであり、生成AIの知見をどのように解釈し活用するかが成果のカギとなります。
事例から見る生成AI投資の先行事例
金融機関による応用事例
金融機関では、生成AIを使った投資情報サービスが増加しています。SBI証券とFOLIOホールディングス傘下のAlpacaTechは、2025年8月21日から生成AIを活用した投資情報サービス「朝刊・夕刊」に米国株情報を追加しました(参照*7)。このサービスはGoogle Cloud主催の「第3回生成AI Innovation Awards」で最優秀賞を受賞した実績があり、GoogleのAIアシスタント「Gemini」や生成AIサービスを用いて注目の銘柄や市場動向を要約して提供します。
証券会社や金融ベンチャーが先進的な生成AI技術を導入することで、投資家はより迅速かつ手軽に情報を得られるようになっています。日々のマーケット情報を自動で集約・分析するプロセスが効率化され、投資判断のスピードアップや誤情報の選別にもつながります。また、顧客に対して金融商品や投資リスクを分かりやすく提案するためのツールとしても期待されており、投資家の知識や経験に応じて最適なアドバイスを生成AIが担う可能性があります。ただし、金融機関が採用する生成AIは、機械学習モデルがビッグデータを解釈する際にバイアスを含むリスクも指摘されています。データの偏りによっては、特定の銘柄やセクターへの過度な評価が生じることもあり得るため、人間による検証プロセスは依然重要です。最先端の技術を活用しても、投資判断には専門家の視点と生成AIの分析を併用することが望ましいといえます。
海外市場の新動向
海外市場でも生成AIに関する投資や事例が増えています。中国では、正月行事のシーズンに企業が業務を減速させる傾向がありますが、杭州に本社を置くDeepSeekはその期間でも注目を集めました。AI推論モデルR1と非推論モデルV3を公開し、OpenAIのo1モデルやGPT-4oと同等の性能を低コストで実現したと報じられています(参照*8)。こうした中国発の先進AI企業が登場する背景には、豊富な人口に裏打ちされた膨大なデータ量と、政府による技術支援策があると分析されます。欧州でも生成AIの規制と活用の両面で議論が進んでおり、安全性や倫理面に配慮しながらイノベーションを加速させる取り組みが特徴です。
また、新興国でもスマートフォンの普及により生成AI活用の可能性が広がりつつあり、クラウドベースのサービスを通じて世界中の投資家が同様の情報にアクセスできる環境が整いつつあります。海外では、決算説明会でAI戦略を積極的にアピールすると株価が一時的に上昇するケースが目立ちますが、その後の進捗や業績次第で急落するリスクも無視できません。生成AIのトレンドは国境を超えて広がっていますが、市場ごとに企業文化や規制環境が異なるため、投資にあたっては地域特有のリスクとチャンスを総合的に評価する必要があります。
おわりに
生成AIが株式市場にもたらすインパクトは、革新的な技術そのものの価値だけでなく、投資家心理の変化や企業評価の在り方を大きく動かす点にあります。生成AIによる新商品の開発や業務効率化は多くの企業にチャンスを与える一方で、過剰な期待や急激な株価上昇を招くリスクも存在します。
今後、生成AIの活用がさらに進むにつれて、予測AIとの併用や金融機関の情報サービスの高度化など、さまざまな領域で技術が浸透していくと考えられます。変化の激しい市場環境の中で、最先端の情報を正しく捉え、冷静に投資判断を下すことが成果を得るためのポイントとなります。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
参照
- (*1) DFPI – AI Investment Scams are Here, and You’re the Target!
- (*2) CEPR – What corporate earnings calls reveal about the AI stock rally
- (*3) Ash Center – Watching the Generative AI Hype Bubble Deflate – Ash Center
- (*4) Yahoo!ニュース – 2026年に買うべき「AI関連の米国株」3選(Forbes JAPAN)
- (*5) StockGPT: A GenAI Model for Stock Prediction and Trading I would like to thank Andrej Karpathy for publicly sharing his lecture and code on the GPT architecture. Dat Mai (datmai@mail.missouri.edu) is
- (*6) StockStory – American Outdoor Brands, Opendoor, PVH, Paramount, and Gray Television Shares Plummet, What You Need To Know
- (*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 生成AIを活用した投資情報サービス「朝刊・夕刊」拡充のお知らせ
- (*8) Taking Stock of the DeepSeek Shock