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はじめに
近年、デジタル変革(DX)の進展に伴い、生成AIが多様な分野で注目を集めています。文章生成や画像認識など、さまざまな業務を支える生成AIは、業務効率化や新たな価値創出の可能性を広げています。しかし、こうした技術を十分に活用するためには、適切な理解と実践的な研修が不可欠です。企業や自治体では、現場の声を反映した研修制度の設計が大きな課題となっています。
本記事では、生成AI研修の導入意義や国内外の事例、研修効果を高めるポイントを、企業・自治体の視点から具体的に解説します。読者の皆さまが自社や組織の課題にどのようにアプローチし、失敗リスクを抑えつつ効率的に生成AIを導入できるかをイメージできる内容です。これからの時代に求められる知識として、ぜひ最後までご覧ください。
生成AI研修を導入する意義

企業のDX推進
生成AIは、情報分析や顧客対応など、ビジネスのさまざまな業務効率化を実現します。2025年が「AIエージェント元年」と呼ばれる背景には、企業・個人の双方でAI活用が急速に広がっていることがあります。株式会社メタリアルの調査によれば、2024年度と2025年度の新卒入社社員を対象にした生成AI活用研修の実態調査で、約4割の企業がすでに研修を実施しており、そのうち約7割が業務効率化に直結する内容であると回答しています(参照*1)。また、2025年度の新卒研修導入率は前年より17.2ポイント増加し、企業のDX推進において生成AI研修が重要な位置を占めていることが分かります。
DX推進の要点は、単なるIT技術の導入にとどまらず、目的や社内文化と整合した人材育成にあります。生成AIを活用することで、顧客データやマーケティング分析などをリアルタイムで行うことが可能ですが、使いこなせる人材がいなければ十分な効果は得られません。そのため、実践的な研修を通じて業務活用のスキルを身につける場を設けることが重要です。導入フェーズでの研修設計が不十分だと、定着率が低下し、効果が出ないまま終わってしまうこともあります。企業がDXを推進するうえで、研修内容や進め方の検討は将来への投資といえるでしょう。
人材育成の重要性
生成AI研修の目的の一つは、従業員の理解とスキル向上を通じて業務の質を高めることです。メタリアルの調査では、就職活動の段階から生成AIを活用している学生が2025年度入社者では2024年度入社者より30.7ポイント高いという結果が示されています(参照*1)。これは、AIリテラシーの高い人材が増えていることを意味し、企業も彼らの力を最大限に引き出す環境づくりが求められます。既存社員への研修を充実させ、新卒社員と既存社員が協力してAI活用を推進することで、社内の技術水準を底上げする効果が期待できます。
生成AIに必要な知識はツール操作だけでなく、プロンプト設計やデータ活用におけるリスクマネジメントも含まれます。例えば、誤ったデータ入力によるリスクを理解せずに利用すると、コンプライアンス上の問題を引き起こす可能性があります。そのため、研修では法規制やセキュリティ面の注意点を分かりやすく説明し、実運用でのリスク対策を重視することがポイントです。企業がAIリテラシーを広く浸透させ、人材育成を継続することは、DXを確実に進める基盤となります。
自治体・企業別の研修事例

自治体の取り組み事例
自治体では、社会全体のデジタル化が進む中、住民サービスの向上や業務効率化を目的に生成AIの導入が進んでいます。アンドドット株式会社は、東京都渋谷区を拠点に全国150件(18県、122市、20町)の自治体向け生成AI研修を実施してきました(参照*2)。同社の研修は、ツールの使い方だけでなく、組織全体での活用や現場業務の改善を見据えた伴走型支援が特徴です。受講者からは実践的な内容や分かりやすい説明が高く評価され、総務省自治大学校との連携講座では満足度1位を獲得しています。
例えば、窓口業務の問い合わせ対応自動化や書類整理の効率化など、現場の業務課題に即した指導が行われています。さらに、アンドドットは自治体向け生成AIプラットフォーム「QT-GenAI」の普及や、庁内セキュリティ・市民サービス向上など幅広い領域の相談にも対応しています。こうした取り組みは、地域行政の新たな標準として定着しつつあります。
教育機関でも生成AIの活用が進んでいます。東京都立大田桜台高等学校では、株式会社divが運営するプログラミングスクールと連携し、教員向けの1DAY生成AI研修を実施しました(参照*3)。この研修では、生成AIのリスクや基礎知識、校務の効率化、プロンプト設計の実践などが取り上げられ、受講後には心理的ハードルの低下や具体的な活用イメージの形成につながったと報告されています。自治体や教育現場での取り組みは、公共サービスの質向上と職員の働きやすさを両立させる意義があり、実際に成果が現れ始めています。
民間企業の活用例
民間企業では、競争力強化や業務効率化を目的に生成AI研修が進められています。株式会社メタリアルの新卒社員向け研修調査では、業務フロー改善を目的としたプログラムの導入が多く、業種や規模を問わずAIツール活用が広がっています(参照*1)。営業部門では顧客対応の円滑化、データ分析部門ではレポート作成の自動化など、部署ごとに異なる用途で成果が出ています。短期間で成果を出しやすいことから、部署横断でノウハウを共有する企業も増加しています。
海外事例としては、米国カリフォルニア州が2024年度から公務員向け生成AI研修を開始しました(参照*4)。この研修は、Emerging Techの活用に伴う課題と利点を理解させ、職場をGenAI対応に整備することを目指しています。研修は一般職員、ビジネスリーダー、技術専門家の3層に分かれ、プライバシー・セキュリティ・法的観点も重視されています。将来的には昇進を目指す職員のスキルアップや行政サービスの高度化につながることが期待されています。海外の取り組みも参考にすることで、国内の人材育成課題をグローバルな視点で整理しやすくなります。
研修効果を高めるポイント

伴走型支援
生成AI研修を成功させるには、単なる知識の詰め込みではなく、現場での実践に落とし込める支援体制が重要です。講師やコンサルタントが受講者に寄り添い、実務での活用をサポートする「伴走型支援」が有効とされています。アンドドット株式会社の研修では、受講者に業務改善策を提示するだけでなく、組織全体での活用を見据えた支援体制が整っています(参照*2)。このようなフォローにより、受講者は研修内容を自部署やプロジェクトに展開しやすくなります。
また、研修担当者がゴールイメージを明確に設定し、各段階でフィードバックを行うことで、受講者は自分の理解度を確認しながら成長できます。多くの組織では研修後の運用でつまずくケースがありますが、伴走型支援があれば現場で疑問が生じた際にすぐ相談でき、知識の定着率が高まります。これによりAIリテラシーが安定的に浸透し、導入初期の投資が無駄になるリスクも低減できます。研修を単発イベントで終わらせず、組織変革の一環として外部と連携した継続的支援体制を築くことがポイントです。
実践型の学習
生成AI研修では、座学だけでなく実機操作による体験が重要です。日本ディープラーニング協会(JDLA)が提供する「JDLA Connect」では、会員企業の知見や事例を集約し、実務導入のパターンを分かりやすく紹介しています(参照*5)。組織ごとのフェーズや目的に合わせた情報をもとに研修プランを作成することで、座学と演習のバランスが取れたプログラムが実現できます。実務でどのようにAIを活用するか、研修中に具体的なシミュレーションを行うことで理解が深まります。
滋賀大学では2024年8月5日に大学職員向けの勉強会を開催し、Microsoft CopilotやChatGPTを使った「プチゼミ形式」の体験型研修を実施しました(参照*6)。参加者はグループでツールを操作し、活用アイデアを出し合うことで、どのような業務に生成AIを活用できるかを能動的に考える機会となりました。こうした実践型アプローチは、生成AIのリスク理解やセキュリティ・データ管理の課題発見にも役立ちます。研修段階でツール操作を経験することで、実務へのスムーズな移行が可能になります。
おわりに
生成AI研修の導入は、企業や自治体が単なるデジタル化を進めるだけでなく、人材育成や組織改革の観点からも重要なテーマです。導入に伴うコストや調整事項は多いものの、実践的かつ伴走型の研修を経ることで、社員や職員のAIスキルが向上し、現場の業務効率化やサービス向上につながる可能性があります。
本記事では、国内外の事例や研修のポイントを整理しました。大切なのは、自社や自治体の課題に合わせて研修内容を柔軟にカスタマイズする姿勢です。研修後も伴走支援や実践型の継続学習を取り入れることで、生成AIによる新たな価値創造がさらに広がっていくでしょう。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
参照
- (*1) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【AIエージェント元年の2025年】2025年度新入社員への生成AI研修は約5割が導入生成AI研修を求める声は昨年に比べ15.2ポイント増<メタリアル 白書>
- (*2) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【自治体のAI活用を後押し】アンドドットの生成AI研修、150自治体に拡大
- (*3) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【事例紹介】テックキャンプの「DXハイスクール支援サービス」東京都立大田桜台高等学校の教員向けに「1DAY生成AI研修」を実施
- (*4) California launches GenAI training for state employees
- (*5) 一般社団法人日本ディープラーニング協会【公式】 – 2/14開催【JDLA Connect】~生成AI活用への道筋:組織にあった導入の勘所をつかもう~
- (*6) 滋賀大学 – 業務における生成AI活用アイデアを創出する研修を開催(DX推進チーム主催) – 滋賀大学