オリンピック競技を進化させるテクノロジーとDX:AI・クラウド・5Gが支える最新事例

2026.02.17

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オリンピック競技を進化させるテクノロジーとDX:AI・クラウド・5Gが支える最新事例

はじめに

オリンピックは、世界最高の選手が集まるスポーツの祭典です。同時に、放送、運営、セキュリティまでを一気に動かす巨大なプロジェクトでもあります。ここにテクノロジーが入ると、競技の見え方や大会の回し方が大きく変わります。

この記事では「オリンピック」「テクノロジー」「DX」を軸に、AI、クラウド、5Gなどが何を変えているのかを、具体例と数字で整理します。競技そのものだけでなく、選手強化、観戦体験、大会運営、守るべき安全とプライバシーまで、順番に見ていきます。

企業のDX推進担当者にとって、オリンピックは「短期間で」「失敗が許されない」環境でデジタルを本番運用する実例集です。PoCで止まりやすいAI導入を、どうやって現場に根づかせるかを考えるヒントにもなります。

DXで変わるオリンピックの全体像

DXで変わるオリンピックの全体像

DXの定義

DXは、デジタルの力で仕事のやり方を変えるだけでなく、サービスの形そのものを作り替える考え方です。オリンピックで言えば、競技映像の作り方、選手の育て方、会場の運営、チケットや決済、セキュリティまでを、データと仕組みでつなぎ直すことがDXになります。

International Olympic Committee(IOC)は2024年に「Olympic AI agenda」という文書をまとめ、AI(人工知能)がスポーツにもたらす影響と、スポーツ分野でのAI導入をどう進めるかを整理しました。これは、AIを単発の道具として使うのではなく、スポーツの現場に広く組み込む前提で、進め方を示したものです。(参照*1

またIOCは、AIが才能の見つけ方、パフォーマンス、戦術、健康、教育、放送、チケットなど多くの領域を変えうる一方で、データのプライバシー、セキュリティ、責任、公平性、雇用や環境への影響といったリスクも一緒に考える必要があると整理しています。DXは便利さだけでなく、守るべきことも含めて設計する取り組みだと分かります。(参照*2

企業の取り組みに置き換えると、AIの導入は「精度が出たか」だけでは足りません。誰がデータを使うのか、判断の責任はどこにあるのか、誤りが起きたときに止められるのかまで決めておくと、現場で使える形に近づきます。

オリンピックDXの特徴

オリンピックのDXには、ふだんの企業DXと違う特徴があります。1つ目は、期間が短いのに規模が極端に大きいことです。競技会場、放送、交通、観光、警備が同時に動き、失敗が許されません。2つ目は、世界中の人が同時に使うことです。言語も文化も違う利用者に、同じ品質で届ける必要があります。3つ目は、競技の公平さが最優先になることです。便利でも、判定や競技条件に影響する仕組みは慎重に扱います。

この特徴がよく出るのが、AIを使った才能発掘です。AP通信によると、IOCはIntelと連携し、セネガルの5つの村を訪れて1,000人の子どもたちの反応速度やジャンプ力を測定し、AI分析で「有望」と判定された40人を特定しました。現場で集めたデータをAIで素早く見立てに変える流れは、DXの形が分かりやすい例です。(参照*3

AP通信は同じ記事で、AIを使っても「若い選手の将来を機械が決め切るべきではない」という注意点も紹介しています。AIはコーチや選手の代わりではなく、判断材料を増やす道具という位置づけです。(参照*3

日本でも、スポーツ庁が国際競技力向上の方針を見直し、発掘・育成・強化を一体で進めることや、質の高いトレーニング環境、AIテクノロジーの活用などの観点を示しています。大会で勝つための現場づくりも、データと仕組みで支える方向に寄っています。(参照*4

企業でも同様に、AIを「一部の担当者だけが使う分析ツール」で終わらせると成果が出にくくなります。業務フロー、権限、教育、セキュリティまでをセットで整えると、本番で回る形になります。

選手強化を進めるAI・データ活用

選手強化を進めるAI・データ活用

才能発掘とトレーニング最適化

選手強化のDXは、才能を見つけるところから始まります。人の目だけに頼ると、地域や環境の差で見落としが起きやすくなります。そこで、測定と分析を組み合わせ、可能性のある人を広く拾い上げる動きが出ています。

AP通信によると、IOCはIntelと連携し、セネガルの5つの村で1,000人の子どもたちの反応速度やジャンプ力を測定し、AI分析で40人を「有望」と判定しました。短時間で大量のデータを見て、次の育成につなげる流れは、発掘のやり方を変える例です。(参照*3

日本側の取り組みとして、スポーツ庁は国際競技力向上のプランを改定し、発掘・育成・強化を一体で進めることや、AIテクノロジーの活用などの観点を示しています。才能を見つけた後も、データを使って練習環境を整え、強化までつなげる考え方です。(参照*4

業務に置き換えると、才能発掘は「適任者探し」や「育成の優先順位づけ」に近い発想です。たとえば問い合わせ対応やレポート作成の工数を減らしたい場合、まず現状の作業時間やミスの種類を測り、AIで減らせる部分を切り分けると、導入効果を説明しやすくなります。

動作解析と3Dトラッキング

次に重要なのが、動きの見える化です。速さや回数だけでなく、体の角度やタイミングの違いが結果を分ける競技では、動作を細かく捉えるほど改善点が見つけやすくなります。

富士通は、骨格認識AIを使ってフィギュアスケート選手の動きを3次元でデジタル化することに成功し、日本スケート連盟が関空アイスアリーナで導入したと発表しました。2025年7月3日から5日のトレーニング合宿で、ジャンプのモーションデータを収集・解析し、地上での計測データと比べる取り組みも行うとしています。これまでのモーションキャプチャーは機材設置やマーカー装着が必要で難しかった点も説明されています。(参照*5

競技の見せ方にもつながる技術として、ZDNnet Japanは、3Dアスリート・トラッキング(3DAT)やインテルTrue Viewを紹介しています。3DATは4台のカメラで選手のフォームや動きを取り込み、姿勢推定の計算で分析し、加速度や時速、選手名、順位などを映像に重ねて表示できると説明しています。練習の改善にも、観戦の理解にも、同じデータが役立つ発想です。(参照*6

企業では、作業ログや問い合わせ履歴、会議の議事録のような「現場の動き」をデータとして残せるほど、改善点が見つけやすくなります。AIを使う前に、どんなデータが取れていて、どの粒度なら現場が困らずに入力できるかを決めると、運用が止まりにくくなります。

リモートコーチングとローカル5G

強化の現場では、指導者がいつも同じ場所にいるとは限りません。遠くの選手に高精細な映像を送り、動きを見ながら助言できれば、移動の負担を減らしつつ練習の質を上げられます。ここで効いてくるのが、会場の中だけで使う専用の5Gであるローカル5Gです。

総務省の事例として、田川市は補助事業を活用して総合体育館内にローカル5Gを整備し、高精細カメラ4台や仮想現実のヘッドセットなどを使ってリモートコーチングを実証しました。2021年度には、多視点映像、仮想現実コーチング、AI姿勢推定、ホワイトボード、仮想現実ミーティング、AI人検知の6つの仕組みを検証したと示されています。映像とデータを遅れにくく届ける通信があると、練習の場の作り方自体が変わります。(参照*7

競技団体側でも、運営や普及を含めてデジタル化を進める動きがあります。スポーツ庁は2022年度から「競技団体の組織基盤強化支援事業」を開始し、2022年度は申請44団体のうち11団体を採択しました。トライアスロン連合はDXとデジタルプラットフォームを軸に普及とカスタマーサービスの実現、中長期戦略の見直しに取り組むとされ、他団体でも会員管理や情報基盤、映像伝送技術の活用が進むと説明されています。強化のDXは、現場の練習だけでなく、競技を支える組織運営にもつながります。(参照*8

社内DXでも、現場と離れた専門家が支える形は増えています。通信や端末を整えるだけでなく、誰がどのタイミングで助言し、記録をどう残すかまで決めておくと、担当者が変わっても回る仕組みになります。

観戦体験を進化させるクラウド・5G・映像テック

観戦体験を進化させるクラウド・5G・映像テック

8K配信と自動ハイライト生成

観戦のDXは、映像の質と届け方が中心です。高精細な映像を遅れ少なく配り、見たい場面をすぐ見つけられると、競技の理解も満足度も上がります。ここではクラウド(インターネット上の計算機や保存場所)とAIが、制作と配信を支えます。

Intelは、Paris 2024が大会全体として初めて8Kのライブ配信を実現すると説明しています。OBS(オリンピック放送機構)の配信を含む現地8K/60FPS/HDRの映像を、Intel Xeon ScalableプロセッサーとIntel Deep Learning Boostで符号化と圧縮を行い、世界各地のPCや8Kテレビに数秒で高品質な生放送を届ける道が開かれると述べています。(参照*9

同じ発表でIntelは、AIの自動化によりスポーツニュースのハイライト生成も行うと説明しています。Getiプラットフォームを介して複数競技にまたがるカスタマイズ動画を即時配信し、制作や編集の効率化を図るという内容です。競技数が多いオリンピックでは、見たい競技にすぐたどり着ける仕組みが、観戦の体験を大きく変えます。(参照*9

企業の業務でも、会議動画や問い合わせ履歴の要点抽出、レポートの下書き作成など、情報を「探す時間」を減らす使い方が増えています。導入時は、生成結果を誰が確認して、どのレベルならそのまま使ってよいのかを決めると、現場で迷いが減ります。

判定支援とインタラクティブ視聴

競技を安心して楽しむには、判定の納得感も欠かせません。人の目だけでは難しい場面を、カメラやAIで補助する流れが広がっています。判定支援は、競技の公平さを守るためのテクノロジーとして位置づけられます。

DX検定の解説記事を運営するNextetは、競技の自動判定が普及しており、バレーボールでもBolt6という新システムが導入されたと説明しています。従来の線審が減り、インアウト判定はAIが補助するとされます。またホークアイは野球、テニス、サッカー、ラグビーなどで広く使われ、バレーボールでは2023年にBolt6が採用されたと整理しています。(参照*10

観戦の側では、会場や放送を支えるネットワークや会議の仕組みも体験に影響します。国際パラリンピック委員会のParis 2024ニュースは、パリ2024組織委員会がネットワーク基盤、サイバーセキュリティ、ビデオ会議ソリューションのパートナーとしてCiscoを選定したと伝えています。Ciscoは2012年ロンドン、2016年リオを支援し、東京2020では公式ネットワーク機器パートナーも務めたとされ、コミュニケーションとエンターテインメントを1つに結びつけ、最高レベルのセキュリティとプライバシーを実現すると説明されています。映像や判定の仕組みを動かす土台として、ネットワーク設計が効いてきます。(参照*11

社内のAI活用でも「判断の納得感」は同じ課題です。たとえばAIが出した分類結果や回答案に対し、根拠を見せられる形にする、間違いが起きたときに人が差し戻せる流れにする、といった設計があると運用が安定します。

大会運営DXとスマートベニュー

大会運営DXとスマートベニュー

IoT環境モニタリングとスマートシティ

大会運営のDXは、会場の外にも広がります。街の交通や環境、警備まで含めて動くため、会場だけを最適化しても足りません。そこで、センサーで状況を測り、データで判断する運営が役立ちます。

Minewは、セーヌ川の水質管理でIoTセンサー(通信できる小型機器)のネットワークが導入され、従来の採水と実験室分析が置き換えられたと説明しています。自律型の水質測定ソリューションと化学センサーで、細菌レベルをタイムリーに監視するとされます。また、約90,000台のビデオ監視カメラが報告されているとも述べています。(参照*12

こうしたデータは、会場の中の判断にもつながります。人の流れや混雑を見える化できると、危険を避けつつ、移動のストレスも減らせます。次の節では、決済やネットワーク、混雑管理のように、観客が直接触れる運営DXを見ていきます。

決済・ネットワーク・混雑管理

運営DXで分かりやすいのが、決済と混雑のコントロールです。現金のやり取りが減ると、列が短くなり、会場スタッフの負担も下がります。混雑を測って知らせられれば、危険な密集を避けやすくなります。

Visaは、組織委員会と3年間連携し、オリンピック競技32会場とパラリンピック競技16会場の3,500のPOS(売り場の決済端末)でタッチ決済を使えるよう、パリ内外でカスタマイズした決済ネットワークを構築したと発表しています。開幕後初の週末には、パリの小規模企業におけるVisaカード保有者の売上が前年同期比26%増加し、外国人の購入に占めるタッチ決済比率は前年同期比9%増の78%だったと示しています。大会の運営基盤が街の消費にも影響することが数字で分かります。(参照*13

混雑管理では、ZDNnet Japanが、データプラットフォームを構築してスタジアムや駐車施設の混雑を計測し、収容能力に達したときはリアルタイムで警告を出すなど、大会運営の効率化に活用できると説明しています。(参照*6

企業のDXでも、決済に近い重要業務は「止まらないこと」が最優先になります。新しい仕組みを入れるときは、障害時の代替手段、問い合わせ窓口、復旧手順までセットで用意すると、現場が安心して切り替えられます。

運営の仕組みがデジタル化すると、次に大きくなるのが守りの課題です。ネットワークや決済が止まれば大会全体が揺らぐため、サイバーセキュリティとプライバシーの設計が欠かせません。

サイバーセキュリティとプライバシーのDX

サイバーセキュリティとプライバシーのDX

サイバー脅威と防御体制

オリンピックは、サイバー攻撃をする側にとっても目立つ標的になります。放送、チケット、会場運営、交通などがネットワークでつながるほど、守る範囲も広がります。

Le Mondeは、2018年の平昌冬季大会でワームと呼ばれる悪意あるプログラムが大規模ネットワークに感染し、開会式を妨害したと伝えています。米国司法省は関与した犯人を「Sandworm」、ロシア軍情報機関GRU 74455と名付けたとも説明しています。大会の象徴的な瞬間が狙われうる点は、運営DXの前提として押さえる必要があります。(参照*14

世界経済フォーラムは、パリ2024でチケットが1,300万枚超、来場者が1,500万超見込まれ、Île-de-France地域の経済活動が約110億ユーロと見積もられていると示しています。大会関係者は「500箇所以上を検証した」と述べ、Paris 2024のIT部門は「AIは騒ぎと災害の違いを生む」と述べたと伝えています。規模が大きいほど、守りの準備も具体的な点検数や体制として表れます。(参照*15

防御体制の作り方として、Atosはパリ2024のサイバーセキュリティ支援に関する発表で、自社が欧州1位、世界3位のサイバーセキュリティ企業であり、15カ所のSOC(監視拠点)と世界で6,000人のセキュリティ専門家を持つと説明しています。外部の専門組織も含めて、監視と対応を24時間回す設計が現実的になります。(参照*16

社内の生成AI導入でも、攻撃の入口は増えます。たとえば社内チャットボットに機密情報を入れてよい範囲、外部サービスに送ってよいデータ、ログの保存期間を先に決めると、導入後の手戻りを減らせます。

監視技術と個人データのガバナンス

守りのDXでは、監視技術と個人データの扱いがセットになります。カメラやセンサーが増えるほど、安全は高めやすくなりますが、必要以上に集めたり、目的外に使ったりすると問題になります。ここで重要なのがガバナンスです。ガバナンスは、データを何のために、どこまで、誰が、どう管理するかを決めて守る仕組みです。

フランスの個人データ保護当局CNILは、SAMARITAINE SASに対し、2025年9月18日に100,000ユーロの制裁金を科したと公表しています。2023年8月に貨物の盗難増加を受けて、同社が店の予備室2カ所に煙探知機のように見える隠しカメラを設置し、音声も録音できたとされます。CNILは、従業員の会話まで録音していた点を過剰で、データ最小化の原則に反すると判断したと説明しています。これはオリンピックそのものの事例ではありませんが、「目的に対して取り過ぎない」という考え方を具体的に示す例です。(参照*17

オンラインの視聴や情報提供でも、個人データの扱いは問題になります。WIREDは、オーディエンス測定のクッキー(サイト閲覧の記録)について、サイトの機能やコンテンツ提供に不可欠な集計トラフィックの測定と性能統計の生成のために使い、用途をオーディエンス測定のみに厳密に限定し、他サイトの追跡を許可せず、収集データを第三者と結合・共有しないと説明しています。(参照*18

一方で、企業サイトの例としてトヨタは、パーソナライズと広告効果測定を目的にデータを収集し、__utmaが訪問回数と初回・最終訪問日、__utmbが訪問時刻、__utmcが離脱時刻を記録すると説明しています。これもオリンピックの事例ではありませんが、「目的」と「取るデータ」をセットで具体的に示すことが、ガバナンスの基本になります。(参照*19

生成AIを社内で使う場合も、同じ考え方が当てはまります。目的を「問い合わせの一次回答」「議事録の要点整理」のように言い切り、入力してよい情報と、入力禁止の情報を短いルールにすると、現場の迷いが減ります。

おわりに

オリンピックのテクノロジーとDXは、選手強化、観戦体験、大会運営、セキュリティとプライバシーまでを、データと仕組みでつなぎ直す取り組みです。AI、クラウド、5Gはそれぞれ別の技術に見えますが、現場で起きたことをデータにし、判断と行動を速くする点で同じ方向を向いています。

一方で、便利さが増えるほど、守るべき公平性や個人データの扱いが重くなります。どこまで測り、誰が使い、どう守るかまで含めて設計することが、オリンピックのDXを理解する近道です。

企業のDX推進でも、成果を出す流れは似ています。業務課題を数字で捉え、使うデータを決め、止められない業務ほど守りを厚くし、現場が迷わない運用ルールと教育を用意する。オリンピックの事例は、その組み立てを短期間でやり切る現実的な参考になります。

監修者

安達裕哉(あだち ゆうや)

デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、82万部(2025年3月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))

参照

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