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この記事のまとめ
新しいモデルを前世代の出力で育てても著作権侵害の責任は消えないというのが、UniversalとSonyの主張です。両社はSunoのv6を巡って再び訴訟を起こし、蒸留によって侵害が「洗浄されただけ」だと批判しています。訴訟は係争中であり、裁判所の判断はまだ下されていません。
要点は4つあります。
- 原告は、侵害モデルの出力で新たなモデルを訓練しても侵害は解消されず、著作物の価値が引き継がれるだけだと主張しています。
- Sunoはv6を業界パートナーと共同開発し、ゼロから訓練したと説明しており、両者の主張は真っ向から対立しています。
- 訴状は60,202件の音源の無許諾複製を指摘し、ライセンス契約の存在がフェアユースの争点になると述べています。
- 生成物を学習に用いるという論点は、音源にとどまらず文章や視覚作品などのライセンス問題にも波及しています。
蒸留で著作権は消えないという主張

洗浄されたにすぎないとする原告の主張
原告は、新たなモデルの訓練によって侵害が消滅するのではなく、別の形へ移し替えられたにすぎないと主張しています。「洗浄」という表現が象徴的で、侵害の事実そのものは変わらず、形を変えて次世代モデルへ引き継がれるという構図です。
訴状は、侵害モデルの出力で「新たな」モデルを訓練しても侵害はなくならず、違法性を洗浄するものにすぎないと指摘しています。複製された音源に含まれる原告の表現価値が、汚染されたモデルへ、さらにその出力へ、そしてv6へと引き継がれていくという構図です。
訴状では「v6は白紙からの出発ではなく、同じ毒の木の実だ」とも表現されています。なお、この「毒の木の実」は原告側による比喩表現です(参照*1)。
さらに訴状は、v6が知識蒸留によって作られたとも主張しています。ここでの「教師」はSunoの過去モデルであり、多様なジャンルや様式で人間の音楽に似せて作編曲し、完成させる能力が引き継がれたという指摘です。
訴状によれば、その能力は無許諾の音源から得られたものであり、そこには原告の著作権付き音源も含まれます。加えてv4、v4.5、v4.5+、v5、v4.5-all、v5.5が同じ複製コーパスで訓練されたと名指しし、最初期からv6に至るすべてのモデルが無許諾複製の産物であると主張しています(参照*1)。
白紙から開発したとする反論との対立
対するSuno側は、v6を一から独自に訓練したと説明しており、原告の見解と真っ向から対立しています。
Sunoは公式ブログにおいて、Warner Music Group、BMG、Believeを含む業界パートナーと共同開発した新世代の音楽モデルとしてv6を発表しました(参照*2)。
v6は9月9日に公開されたモデル群です。Chief Product OfficerのJack Brodyは公開時にMBWに対し、v6は完全にゼロから訓練されたものであり、そのデータにUniversalやSonyの音源は含まれていないと説明しました。これに対しレコード会社側は、v6が自社音源で訓練されたモデルの出力に基づいて構築されている以上、責任は免れないと反論しています(参照*1)。
前世代モデルと蒸留の基本

教師モデルと生徒モデルの関係
蒸留とは、新しい「生徒」モデルが前世代の「教師」モデルの振る舞いを模倣するように訓練される手法のことです。
訴状では知識蒸留について、新しい「生徒」モデルが事前の「教師」モデルの学習済み動作を再現するよう訓練されるプロセスであると説明されています。この仕組み上、たとえモデルを作り直したとしても、前世代が獲得した振る舞いは新たなモデルへと引き渡されます(参照*1)。
私がこの訴訟で注目しているのは、まさにこの点です。生成AIの開発において、モデルを「作り直した」という事実が法的な免責につながるかどうかは、まだ誰も明確な答えを持っていません。技術的な新しさと、法的な責任の継続性は別の問題です。蒸留という手法が広く普及している以上、この訴訟の帰趨は音楽にとどまらず、文章や画像を生成するモデル全般の開発慣行に影響する可能性があります。
UniversalとSonyは、Sunoが知識蒸留および関連するモデル転送技術を用いてv6を開発したと主張しています(参照*3)。技術的な蒸留の仕組みと、Sunoが実際にその手法を用いたかという点は、原告側の主張として区別して捉える必要があります。
ユーザー操作と選好データの役割
v6の開発には、利用者がどちらの楽曲を選んだかという選好記録も活用されています。
訴状によれば、Sunoはv6の訓練に過去モデルに対する「ユーザーの操作」を用いたと認めています。原告側は、その操作の実体が前世代モデルの出力やそこから得られた選好データであり、どのモデルも無許諾の音源コーパスで訓練されていたと主張しています。
Sunoは1つのプロンプトに対して2曲を生成し、利用者がどちらを選んだかを記録しており、これが選好データにあたります。この記録がv6の開発に利用されてきました(参照*1)。
UMGとSonyは、v6が過去モデルの出力に加え、選好シグナルを含むユーザーの操作データからも学習したと主張しています(参照*4)。
再提訴で争われている主な論点

対象作品数と請求の規模
今回の訴訟は、対象となる音源の規模も損害賠償の請求額も極めて大規模なものです。
9月18日にボストンの連邦裁判所へ提出された共同訴状において、Sunoが両社の音源60,202件を許諾なく複製し、音楽生成モデルの構築に利用したと主張されています。米国の著作権法は故意の侵害に対する法定賠償額を1作品あたり最大150,000米ドルと定めており、上限で算定すると60,202件で理論上最大90億ドル強に達します。両社はさらに、YouTubeのダウンロード防止技術を回避した行為に対しても、法律上の上限である1件あたり2,500ドルの賠償を求めています(参照*1)。
今回の再提訴は、2024年6月に提起された第1次訴訟での司法判断が契機となっています。両社は560作品を対象とする当初の訴訟に61,026件の音源を追加するよう求めましたが、F. Dennis Saylor IV判事は8月18日にこれを却下しました。判事は、追加によってフェアユースについて判断する審理が遅延すると指摘し、別訴としての提起を促しました(参照*1)。
訓練データの特定と取得の経緯
どの楽曲が訓練データに含まれていたかという特定のプロセスも、主要な争点となっています。
両社は、第1次訴訟の証拠開示手続きにおいて音声フィンガープリント企業Audible Magicを活用し、自社楽曲がSunoの訓練データに含まれている事実を突き止めたと主張しています。Sunoは同訴訟において、著作権付き音源によるモデル訓練は典型的なフェアユースであると主張してきました。同社は9月1日の提出書面で、YT-DLPというツールを用いてYouTubeから音声を取得していた事実を認めています(参照*1)。
訴状はさらに、Sunoが訓練の完了後も複製音源を消去していないと合理的な根拠に基づいて主張しています。原告の著作権付き音源を含む複製物が、1つ以上の保管用データセットに現在も保持され続けているという指摘です(参照*5)。
ライセンス契約とフェアユースの争点
Sunoが締結したライセンス契約の実績そのものが、原告側の論拠として用いられています。これは論理として興味深い構造で、ライセンス契約を結ぶ行為が「許諾が必要だという認識の証拠」として解釈される可能性があります。
Sunoは2025年11月にWarner Music Groupと和解し、8月12日にBMGと契約、9月8日にはBelieveとの提携を発表しました。訴状は、1年足らずで大手権利者3社と契約が結ばれた事実こそが、生成AIの訓練用音源に関するライセンス市場が機能している証拠であり、Suno自身も利用に許諾が必要だと認識している証左であると指摘しています。Suno側の主たる防御論理は訓練がフェアユースにあたるという点ですが、裁判所が検討する重要要素の1つに、当該行為が原作品の潜在的市場に与える影響があります(参照*1)。
この論点は、私が生成AIを使ってコンテンツを作る立場として、他人事とは思えません。「訓練に使うならライセンスが必要か」という問いは、音楽に限らず、文章や画像を扱うすべてのAI開発者が直面している問いです。フェアユースが認められるかどうかの判断基準の一つが「市場への影響」である以上、ライセンス市場が現実に形成されつつある今、その主張は通りにくくなっていくのかもしれません。
BMGは、録音物と音楽出版の管理楽曲を対象とする枠組みの構築に向け、Sunoとのグローバル提携を発表しました。これは音楽業界との協力のもとで開発されるSuno初の音楽モデルの立ち上げの一環とされています(参照*6)。
Believeも、参加するBelieveおよびTuneCore所属のアーティストやレーベルの楽曲が、Sunoが業界と提携して展開する新たなモデルに含まれると発表しています(参照*7)。
生成物があふれる市場への影響

AI生成楽曲の急増と市場の希薄化
Deezerでは、AI生成楽曲の占める比率が急速に拡大しています。
訴状によると、音楽ストリーミングサービスのDeezerは2026年7月、自社サービスへの1日あたりの新規配信曲のうち、AI生成楽曲が初めて半数を超えたと報告しました。これは1日に約90,000曲の機械生成楽曲が配信されている計算となり、6か月前の約39%から大幅に増加しています(参照*5)。
原告は、ストリーミング市場に供給される無数の機械生成楽曲が、著作権付き音源からリスナーの関心や露出枠を奪い、アーティストや権利者に分配される有限なロイヤリティプールを蚕食していると訴えています。訴状では、この規模と速度による市場の希薄化は将来のリスクではなく、現在進行形で生じている測定可能な実害だと主張されています(参照*1)。
この「希薄化」という論点は、文章メディアを運営している私にも直結します。SEO記事を量産できるAIが普及すれば、検索流入の奪い合いが起きる構造は音楽と変わりません。1日9万曲という数字が示すのは、単にコンテンツが増えたという話ではなく、人間のクリエイターが戦う土俵の性質そのものが変わったということです。
クリエイター収益への影響予測
クリエイターの収入に生じる悪影響については、国際的な調査による具体的な推計が示されています。
500万人超のクリエイターを代表する著作者・作曲家協会国際連合(CISAC)の委託を受け、PMP Strategyが実施した調査によると、音楽および映像クリエイターは2028年までに収益のそれぞれ24%と21%を失う恐れがあると予測されています。これは5年間の累計で220億ユーロ規模の損失に相当し、内訳は音楽分野が100億ユーロ、映像分野が120億ユーロです(参照*8)。
この試算は、法規制の枠組みが変わらない場合を前提とした予測です。同調査では、その状況下でクリエイターは二重の打撃を受けると結論づけられています。1つは生成AIモデルによる無許諾利用と対価不払いによる直接的な収益減であり、もう1つは人間の作品を代替するAI生成物との競合によって既存の収益基盤が奪われることによる損失です(参照*8)。
文章・画像・コードへの波及

他分野でも共通するライセンスの論点
訓練データ利用に関するライセンスの問題は、音楽分野にとどまりません。私がWebメディアとコンテンツ事業を運営する立場から見ると、この訴訟は音楽業界特有の話ではなく、すべてのコンテンツ制作者が直視すべき問題です。
訴状は、生成AI向けに著作権保護作品を取得・利用する市場が現実に機能しており、架空のものではないと指摘しています。そして、この実行可能な新興ライセンス市場の存在は、多くの権利者がモデル訓練や出力利用に関して、音楽作品に限らず文学作品、ニュース記事、視覚作品など多岐にわたる著作物でライセンス契約を結んでいる実績によって裏付けられていると主張しています(参照*5)。
透明性と来歴記録への関心
訓練データの開示や、利用許諾の可否を機械可読な形式で明示する仕組みに関心が高まっています。
インドで実施された意識調査は探索的研究であり、105人の回答者は便宜抽出による標本であって、インド全体の無作為抽出標本ではありません。そのため、全国的な比率の推計や国民全体の総意として解釈することは適切でないと注記されています。同調査で高い支持を得た5項目は次のとおりです(参照*9)。
- 義務的ライセンス:平均4.39、85.7%の同意
- AI特化型の法改正:平均4.36、84.8%の同意
- 無許諾訓練の法的禁止:平均4.34、82.9%の同意
- 訓練データの開示義務化:平均4.30、81.0%の同意
- クリエイターへの対価補償:平均4.29、78.1%の同意
IETFで議論されている仕様書では、自律システムがデジタル資産を取り扱う方針、とりわけAIモデルの訓練や利用に関する権利者の意思を記述するための共通語彙が定義されています。この語彙を用いることで、権利者は許可または制限したい利用条件を明示できます。同仕様書は、訓練利用への選好に従う条件として、モデルを配布する際に資産に紐づく選好情報も併せて伝達することを求めています(参照*10)。
おわりに
新たなモデルを前世代の出力や利用者の選好データで育てても、それは白紙からの開発とは呼べないというのがUniversalとSonyの主張です。訴状では蒸留によって原告作品の表現価値が引き継がれたと指摘され、対するSunoはv6を業界パートナーと共同開発し、ゼロから訓練したと反論しています。
この法的な対立は現在も審理中であり、フェアユース適用の可否についても結論は出ていません。ただ、一点だけ確かなことがあります。生成AIの訓練をめぐるライセンス市場は、もはや架空の話ではなく現実に動き始めているという事実です。その環境の変化を前提に、開発者・利用者・クリエイターがそれぞれの立場で何をすべきかを考える時期に来ています。生成モデルの出力を次の学習データとして再利用する手法をめぐる議論は、音楽にとどまらず文学や報道記事、美術作品など、あらゆるコンテンツのライセンス環境全体に波及していきます。
監修者
安達裕哉(あだち ゆうや)
デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、95万部(2026年6月時点)を売り上げる。
(“2023年・2024年上半期に日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ))
参照
- (*1) Music Business Worldwide – Universal and Sony sue Suno for a second time, claiming platform’s v6 models are ‘the fruit of the same poisoned tree’
- (*2) Suno | Introducing v6
- (*3) The Hollywood Reporter – UMG, Sony File Second Lawsuit Against AI Music Platform Suno
- (*4) Superpower Daily – UMG and Sony Sue Suno Again, Challenging Its Licensed-Music v6 Model
- (*5) https://www.musicbusinessworldwide.com/files/2026/09/26-cv-14275-Dkt.-1-Complaint.pdf
- (*6) BMG – Bmg And Suno Announce Global Strategic Alliance Advancing Ai Music Opportunities And Revenue Streams
- (*7) Believe – Believe and Suno announce strategic partnership
- (*8) CISAC – Global economic study shows human creators’ future at risk from generative AI
- (*9) https://www.ijfmr.com/papers/2026/5/87515.pdf
- (*10) IETF Datatracker – A Vocabulary For Expressing AI Usage Preferences