ガバメントAI「源内」18万人が使うAIエージェントと源内基準の中身

2026.10.23

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ガバメントAI「源内」18万人が使うAIエージェントと源内基準の中身

この記事のまとめ

ガバメントAI「源内」において、約18万人の政府職員を対象とした2種類のAIエージェント利用環境の提供が始まりました。あわせて、安全に利活用するための統一ルールである源内基準も公表されています。本記事では、エージェント環境の詳細、源内基準の要点、源内の全体像、業務の変化、自治体や民間への展開という5つの論点を整理します。

  • エージェントチャットは各府省庁へ順次導入が進み、より高度な源内工房は令和8年12月頃までの導入を目指しています。
  • 源内基準は、利用者・管理者・開発者という三つの立場ごとに責務と遵守事項を定めています。
  • 源内はガバメントクラウド上の生成AI利用環境であり、全府省庁の約18万人を対象とした大規模実証が進んでいます。
  • スキルの共有や国会答弁の調査支援など、現場の業務負担を軽減する具体的な使い方が示されています。

源内のAIエージェント利用環境

源内のAIエージェント利用環境

エージェントチャットの特徴

エージェントチャットは、日常的な対話型AIの発展形として用意された利用環境です。従来のチャットと何が違うかというと、単に質問に答えるだけでなく、複数のタスクを連鎖的に実行できる点にあります。

デジタル庁の資料では、エージェントチャットを通常のチャットの発展形と位置づけています。自然言語による指示が可能で、専門知識は必要としません。私が企業へのAI導入支援をしている経験からも、「専門知識不要」という設計は現場定着の鍵になります。プロンプトエンジニアリングを学ばなければ使えないツールは、どれだけ性能が高くても現場に浸透しません。

複数のタスクをまとめて自動実行できるほか、AIエージェントのスキルを作成することも可能です。処理結果は、ファイルやドキュメントとして出力できます(参照*1)。

導入の行程も明確に示されています。対話形式でAIエージェントを作成して動かせるエージェントチャットは、公表と同日から各府省庁へ順次導入されます(参照*2)。

源内工房の特徴

源内工房は、より高度で自律的なAIエージェントを構築するための環境です。エージェントチャットが「使う」環境だとすれば、源内工房は「作る」環境に近い位置づけといえます。

こちらも自然言語で操作でき、専門的な知識は不要です。任意のサイトへ直接アクセスし、複数のWebサイトを精査しながら情報を収集・比較してまとめるDeep Researchを実行できます。AIエージェントがファイル操作、コマンド実行、Web取得などを数十から数百ステップ連鎖させて処理し、実際に動作するプロトタイプの開発も可能です(参照*1)。ただし、Deep Research系の機能については、私自身も検証を続けていますが、出力が調査レポートらしく整っているほど、読み手は内容を正しいと錯覚しやすい点に注意が必要です。

源内工房は、自然言語で指示するとプログラムの作成や修正、ファイル操作、動作確認を自律的に進めるAIコーディングエージェントに相当する機能を備えています。デジタル庁は、職員が業務に合わせてAIエージェントを構築・改善できる環境を整え、現場主導の業務改革や効率化、AI活用人材の育成につなげる方針です。令和8年12月頃までの導入を目指しています(参照*2)。

従来のAIアプリとの違い

従来との大きな違いは、定型化されたAIアプリではカバーしきれなかった業務に対応できる点です。言い換えれば、「決まった処理を速くする」ツールから、「まだ手順が決まっていない業務を動かす」ツールへの転換です。

デジタル庁の資料によると、源内のWeb上で提供されている既存のAIアプリは、文書作成、要約、翻訳といった汎用的な業務に有効です。一方で、複数ファイルや膨大なデータ、インターネット検索を伴う連続的な作業や、行政固有の判断基準に基づく審査プロセスの支援には限界がありました(参照*1)。

導入規模の面でも特徴があります。デジタル庁は、高度なAIコーディングエージェントに相当する利用環境を、専門職に限らず一般職員も日常業務で使える政府共通基盤として約18万人規模で導入する取組について、同庁の調査による世界初の試みになると説明しています(参照*3)。私が生成AI事業を運営してきた経験でいえば、難しいのはモデルの性能よりも「一般職員が日常業務で使える状態にする」ところです。その意味で、この規模での展開はプラットフォームとしての設計に相当な工夫があると見ています。

源内基準の中身と狙い

源内基準の中身と狙い

三つの立場ごとの責務

源内基準は、関わる立場ごとに果たすべき役割を明確に定めた運用ルールです。企業へのAI導入支援をしていて痛感するのは、ツールの整備よりもルールの整備のほうが現場定着を左右するという点で、この三者分離のアプローチは理にかなっています。

デジタル庁の説明によると、AIエージェントは従来のAIアプリより機能が高度かつ複雑で、実行可能な処理範囲も広がります。そのため、セキュリティや統制を確保しつつ職員が主体的に活用するためのルールが不可欠です。源内基準では、利用者、管理者、開発者の三者それぞれの立場に応じた責務と遵守事項を明確化しています(参照*3)。

利用者の心構えについても整理されています。源内の基本思想として、AIは政府職員の能力を代替するものではなく、専門性を拡張するための手段と位置づけられました。この考え方は、私が企業のAI導入を支援する際にも繰り返し伝えていることと同じです。

AIへの過度な依存は批判的思考や技能の低下を招きかねないため、利用者は自身が理解・保有していない技能をAIへ安易に委ねない勇気を持つとされています。自ら思考・判断・検証する能力を維持しつつ、専門知識と業務遂行能力を継続的に高める姿勢が求められます(参照*4)。裏を返せば、「AIが出してきた答えを疑える人間」を育てることが、AIを安全に活用するための最重要課題だということです。

AISIの協力とモデルケース性

源内基準は、AIの安全性を専門に扱う研究機関の協力を得て策定されました。

デジタル庁は、AIの安全性評価手法や基準の検討を推進する機関であるAIセーフティ・インスティテュート(AISI)の協力を得て源内基準を策定したと説明しています。あわせて、AIエージェントの導入を検討する地方公共団体や民間事業者にとっても、安全性確保と効果的活用の両立に向けたモデルケースとして広く参考にされることを期待しています(参照*3)。

同様の認識は記者会見でも語られました。デジタル庁の古川俊治大臣は、今後AIエージェントの導入を検討する自治体や民間企業が組織内のAIガバナンスを構築する際にも、源内基準が参考になるとの見解を示しています(参照*2)。

ガバメントAI源内の全体像

ガバメントAI源内の全体像

源内の仕組みと利用環境

源内は、政府職員が日常業務で生成AIを活用するための共通基盤です。

総務省の資料によると、源内は40種類以上のAIアプリケーションを束ねた生成AI利用環境です。機密性2情報まで入力可能で、扱えるデータの範囲は各府省庁が定めます。令和8年5月より全府省庁の職員約18万人が利用できる環境を展開し、導入を支援するカスタマーサポートや利活用を促進するカスタマーサクセスも併せて実施されています(参照*5)。

開発手法にも独自の特徴があります。源内はデジタル庁が主導して内製開発したシステムであり、ガバメントクラウド上に構築され、政府統一基準に沿ったセキュリティ対策が施されています。機密性2情報を含むプロンプト入力にも対応し、行政機関が実務データを扱いながら安全に生成AIを利用できる環境が整えられています(参照*6)。

18万人規模の大規模実証

源内は最初から全員に広げたのではなく、段階的に利用規模を拡大してきました。

デジタル庁は、全府省庁の政府職員約18万人を対象に生成AI利用環境を試験導入する大規模実証事業を、令和8年(2026年)5月から令和9年(2027年)3月までの計画で実施するとしています(参照*7)。

そこに至る経緯も公表されています。源内は2025年5月にデジタル庁内で試験導入され、2026年1月より19省庁での試験利用が始まりました。

同年5月までに農林水産省、環境省、総務省、財務省、内閣府、外務省、国税庁本庁などへ拡大し、約10万人が利用可能な状態となりました。6月以降は防衛省、文部科学省、経済産業省などへ順次対象を広げ、18万人規模への展開が進められています(参照*8)。

国産モデルとAIソブリンティ

源内では、国産の大規模言語モデルと国内クラウドインフラを融合させる取組も推進されています。

デジタル庁がガバメントAIで試用する国内の大規模言語モデル(LLM)を公募した結果、15件の応募のなかから審査を経て7件が選定されました(参照*9)。

国産クラウド上で国産基盤モデルを稼働させる取組もあります。さくらインターネット株式会社の「さくらのクラウド」は、ガバメントクラウドにおける唯一の国産クラウドであり、これに国産基盤モデルを組み合わせることで、源内の中核システムを戦略的に国産技術で構成することを実現しました。政府がガバメントクラウド上で「さくらのクラウド」を本格運用する初の事例でもあります(参照*10)。

こうした試みの根底には確固たる方針があります。今後の政府におけるガバメントAIの整備・活用にあたり、データ、計算基盤、モデル、運用の各層で自律性・代替性・耐遮断性を担保することを「AIソブリンティ」と位置づけ、その戦略的な確保に向けた取組が進められています(参照*5)。

行政職員の働き方の変化

行政職員の働き方の変化

スキルの共有と集合知

源内のエージェント環境において鍵となるのが、「スキル」という概念です。これは私がプロンプトライブラリや業務手順の標準化と呼んでいるものに近く、個人の知見を組織の資産に変える仕組みです。

デジタル庁の資料では、スキルとは個々の職員や部局に属人化していた業務手順、判断基準、参照資料、関連データ、確認手法、出力形式、例外処理などを、AIエージェントが実行可能な形へと可視化・形式知化したものと説明されています。これにより、職員の経験則に依存していた暗黙知を再現可能な形式知へ転換し、作成したスキルを組織内外で共有することで、個人の知見を政府全体の集合知へと発展させます(参照*1)。「業務をAIに任せる」のではなく、「業務をAIが扱える形に言語化する」ところに、実は最大の難しさがあります。言語化できない業務は自動化もできないからです。

ねらいとして掲げられている項目も具体的です。業務品質の均一化、引き継ぎの円滑化、属人化の抑制、人材育成の効率化、優良な業務手法の横展開が図られます。さらに、職員自身がAIを活用して継続的なBPR(業務プロセス改革)に取り組む文化を醸成し、政府全体の政策立案能力や行政遂行能力の強化につなげる方針が示されました(参照*4)。

行政実務での活用事例

現場ではすでに、国会答弁の調査支援やパブリックコメントの自動分類などで活用が進んでいます。こうした事例は「やってみたら使えた」という段階を超え、業務フローに組み込まれ始めていることを示しています。

国会答弁の調査・作成支援アプリでは、自然文で入力された質問からAIが複数の重要キーワードを自動抽出します。そのうえで多様な組み合わせにより国会会議録を検索し、関連度の高い質疑や答弁を的確に特定します(参照*11)。

意見公募の処理業務でも成果を挙げています。デジタル庁は関係省庁の要請に基づき、AIによる提出意見の分類処理を行って結果を回答するサービスを令和8年6月に開始し、依頼から1週間程度で処理結果を返信しています。これまでに国土交通省不動産・建設経済局の3.8万件、農林水産省消費・安全局の約1,000件に及ぶ意見処理を支援しました(参照*4)。

アンケート分析の活用事例も示されています。農林水産省が設定した20件以上の仮説に対し、デジタル庁がAIを活用して約8,000件の回答データをもとに妥当性を検証しました。

分析結果の速やかなフィードバックにより、回答の傾向や特性の迅速な把握が可能となっています。職員1人で約2か月を要する分析作業が約3日間に短縮されるとの試算は、30項目のアンケート回答8,000件のデータ分析を想定したデジタル庁の推計に基づきます(参照*4)。この数字はあくまで推計ですが、「分類・要約・仮説検証」のような作業はAIが最も得意とする領域です。正確性の検証は別途必要ですが、作業時間の削減幅としては現実的な水準だと私は見ています。

自治体・民間への広がりと課題

自治体・民間への広がりと課題

源内OSSと自治体での利用

源内の基盤技術は、国の機関にとどまらず外部への開放も計画されています。オープンソース化により、中央省庁での実証知見が地方へ横展開される道筋が生まれます。

デジタル庁は、エージェントチャットおよび源内工房について、地方公共団体や民間事業者でも幅広く活用できるよう、誰もが利用・改変・再配布できる源内OSS(オープンソースソフトウェア)Ver.2.0として、令和9年2月頃を目途に公開する予定としています(参照*3)。

自治体における実践的な試みも動き出しました。福岡県宮若市では源内の仕組みを活用し、職員間のナレッジ共有や人事異動時の業務引き継ぎを効率化するための実証実験を進めています。自治体での活用はまだ検証段階ですが、中央省庁で培われた知見を地方行政へ広げる試みが始まっています(参照*6)。人事異動による引き継ぎの問題は自治体に限らず、あらゆる組織に共通する課題です。スキルの形式知化が進めば、この問題は構造から解決できる可能性があります。

大規模災害時の緊急提供も行われました。提供期間は令和8年(2026年)7月29日11時頃から令和8年(2026年)9月30日までで、緊急提供期間自体は終了しています。なお、要請のあった一部の被災自治体については、令和8年度末までの再延長措置が講じられています(参照*12)。

残された課題と向き合い方

国と地方をつなぐ情報基盤の確立には、技術面と運用面双方で解決すべき課題が残されています。これは源内に限った話ではなく、組織をまたぐAI導入全般に共通する難しさです。

総務省の資料で整理された、国と地方の情報システム連携に伴う技術的課題のうち、ここでは三つを挙げます(参照*5)。

  • LGWANなど異なるネットワーク環境のセキュリティ確保や接続制約、障害発生時の切り分けと運用責任の境界設定
  • セキュリティポリシーや機密区分、ユーザー認証およびID管理基盤の共通化
  • 政府(源内)と地方自治体間におけるデータ連携規格、データ標準化、アクセス制御の整備

リスク管理の思想についても専門的な見解が示されています。AISIの所長は講演で、懸念されるリスクを問われた際、リスクを恐れるあまり使わないことこそが最大のリスクだと思う、と述べました。また、安全なシステム構築には設計段階での配慮が不可欠であるとしてセーフティ・バイ・デザインの理念を挙げ、企画や設計の初期段階から技術的リスクのみならず社会的リスクも織り込んで安全性を考慮すべきだと説明しています(参照*13)。この発言は、生成AIの導入を検討している企業にも当てはまります。「安全が確認できるまで使わない」という判断が、組織としての競争力を損なうリスクもあるからです。

おわりに

ガバメントAI「源内」では、約18万人の政府職員を対象にエージェントチャットと源内工房という2種類のAIエージェント利用環境が整備され、同時に運用指針となる源内基準が公表されました。活用範囲を段階的に拡大しつつ、利用者・管理者・開発者の三者が果たすべき責務を統一して安全性を確保するアプローチです。私がこの取り組みで注目しているのは、規模よりも設計の思想です。「AIは能力の代替ではなく拡張」「使わないことが最大のリスク」「セーフティ・バイ・デザイン」という三つの考え方は、民間企業のAI導入にも直接応用できます。

デジタル庁は、こうした環境を通じたAIエージェントの活用により、現場主導の業務改革や業務の効率化・質の向上、AI活用人材の育成を加速させる方針です(参照*3)。源内OSS Ver.2.0の公開予定も含め、自治体や民間へも知見が波及していく道筋が示されています。生成AI導入で最初に詰まるのはプロンプトでもモデル選定でもなく、「AIに何をさせるか」を業務レベルで定義するところです。源内基準が示す責務の三者分離と、スキルによる形式知化という設計は、その問いへの一つの答えを示しています。

監修者

安達裕哉(あだち ゆうや)

デロイト トーマツ コンサルティングにて品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事しその後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのち2013年5月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施(1.3億円)。
著書「頭のいい人が話す前に考えていること」 が、95万部(2026年6月時点)を売り上げる。
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参照

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