広告業界ではChatGPTの積極的な導入が進んでいます。効果の予測、大量のキャッチコピーや画像の生成ができる機能を使ってクリエイティブ作業を合理化する目的があります。
また、自然な言語処理はコールセンターで威力を発揮します。
特定の内容問い合わせ、特定の顧客の対応を学習させてパーソナライズした対応を導入することにより、営業や販売に関する業務が大幅に軽減されるという予測もあります。
プロモーションから営業、その後の顧客対応まで、営業の流れにおいて、AIがある営業現場という将来像や実際の導入事例をご紹介します。
セールスと生成AIの関係
業界を問わず、セールストークには、強力なストーリーテリング、商品知識、熟練したコミュニケーションスキルが含まれています。
そして適切なセールストークによって顧客とのエンゲージメントを高め、コンバージョンに導き、長期的な顧客関係を築くことができるようになります。
しかし、こうしたスキルは誰もが持ち合わせているわけではありませんし、習得には熟練の営業マンによる指導に加え、多くの経験や時間を必要とするでしょう。
そこでAIの導入に注目が集まっているのです。
AIはすでにコピーライターによるコンテンツ案の作成や、コンピュータプログラマーによるコードの作成を支援し、生産性を50%以上押し上げているといいます。
セールスの現場でAiができること
では、セールスの現場にAIを導入するとどのようなメリットがあるかをまずご紹介しましょう。
広告の「賞味期限」への対応
まず、セールスの前提になる広告についてです。
電通によれば、広告媒体は世界的にデジタルが多くを占めるようになっており、そのシェアは今後も増え続けると予測されています。
しかし現在、デジタルにはデジタルゆえの課題が浮き彫りになっています。
デジタル広告はいつでも気軽に差し替えられるため、その賞味期限が短いということです。
よって広告業界は、常に最新の広告を大量に生み出し続けなければなりません。その状況に対応するために、短時間で大量のアイデアを生み出すことができる生成AIは大きな役割を果たします。
データドリブンマーケティング
AIはすでにデータ分析、顧客セグメンテーション、予測分析、さらには顧客との直接対話に活用され、営業においてますます重要なツールとなっています。
膨大なデータセットを処理する能力を持つAIは、人間が見落としがちな傾向やパターンを特定することができるため、客観性の高いデータドリブンなマーケティングを可能にしていきます。
業務の効率化
そして現代の営業現場では、ニーズの多様性・販売の複雑性が増しており、文書化、承認、コンプライアンス報告の必要性も高まっています。
業務の効率化は多くの企業の課題になりつつあるのです。
しかしアクセンチュアは、AIの導入によって多くの職種で自動化の可能性が高くなるとの見通しを公表しています。
アメリカでは営業・販売という職種では特にその割合が高く、AIによって業務の約半分を自動化できる可能性が高いとしています。
そしてカスタマーサービスを13のタスクに分類したところ、そのうち4つのタスクは主に人が実行し続けなければならない、他の4つのタスクは完全自動化が可能、残り5つのタスクはAIによって人的業務を効率化できるともしています。
よくある質問への回答や定型的なメールの送信などの繰り返し作業については自動化することができるでしょう。その結果、営業担当者の時間をより戦略的な活動に集中させることができるのです。
なおIBMは、同社のAIシステム「Watson x Assistant」が、ある銀行ですべての顧客の質問の 96% に正しく回答したとしています。
また、人による対応のブレがないことも魅力的でしょう。
大量の問い合わせを同時に処理できるため、営業担当者の時間をより戦略的なタスクに集中させることもできます。
顧客体験のパーソナライズ
Forresterによると、「顧客重視」という立ち位置に分類される企業はわずか6%だといいます。そしてこれらの企業は顧客重視にそれほど固執していない企業に比べて、1.6 倍の収益成長と 1.7 倍の利益成長を実現しているほか、顧客からの支持率も98%にのぼるといいます。
AIは膨大な量のデータを分析し、個々の顧客の好みや行動を理解するのに役立ちます。
パーソナライズされた製品の推奨事項、カスタマイズされたオファー、カスタマイズされたメッセージを提供することで、顧客にとってより魅力的で関連性の高いエクスペリエンスを生み出すことができる可能性を秘めています。
また、顧客とのやりとりを分析することでどの顧客がコンバージョンする可能性が最も高いかを特定するなど、営業担当者がフォローアップ戦略を立てることにも役立つでしょう。
後述しますが、実際そのような生成AIシステムが誕生しています。
顧客対応のリアルタイム性
ChatGPTなどの生成Aiは、24時間365日リアルタイムのカスタマーサービスを提供し、無数の問い合わせを同時に処理して待ち時間を短縮し、顧客満足度を向上させることもできるでしょう。
実際、Salesforceによれば、先に述べたパーソナライズや対応の迅速化などにより、同社製品を導入する理由は顧客満足度、顧客維持率の向上などにあるとしています。
注意すべき点
もちろんセールスの現場にAIを導入するには、注意すべきこともあります。
データプライバシー
AIモデルは、正確な運用のために膨大な量のデータを必要とします。特に顧客の個人情報を直接扱う職種です。よってその取り扱いには注意しなければなりません。
これは社内での研修などを徹底するといった対策を取る必要があります。
統合における課題
また、ChatGPTなどを既存の販売システムに統合することは、特に技術的な専門知識を持たない企業やレガシーなITシステムを持つ企業にとっては、複雑でリソースを要する可能性があります。
「AIドリブンセールス」の世界
さて、PwCはAIによるセールスの形を「AIドリブンセールス」と呼んでいます。
「AIドリブンセールス」の世界では、このようなことが起きるといいます。PDCAの形が大きく変化するのです。
<Plan(計画)>
商品戦略/顧客戦略
・どの商品がどの市場(客)に売れるかをAIが提案
・どの顧客に何を売ることで購買につながるかをAIが提案
売上計画/要員計画
・どの顧客からどの程度の売上が見込めるかをAIが予測
・計画通りの売上を達成するために必要なリソースおよび人員配置をAIが提案
<Do(営業活動)>
営業アプローチ/顧客対応
・顧客にどういう営業活動をすれば受注できるかをAIがナビゲート
・商談の音声や顧客の表情(感情)などをAIが分析し、事後評価と改善案を提示
・進行中の商談の受注確度を予測の上で、受注に向けたアクションをAIが提案
・受注後フォロー(リテンション)
・顧客の行動ログからアップセル/クロスセルの可能性をAIが察知し、営業活動を提案
・顧客の行動ログから離反の可能性をAIが察知し、担当者にアラートとネクストアクションを提案
<Check/Action(評価/改善)>
営業管理
・AIが売上予測と売上増加に向けたネクストアクションを提案
営業スキルアップ
・営業の活動ログが自動で蓄積され、営業力が可視化(数値化)される。AIが各営業パーソンの強み/弱みを分析し、それに応じてスキルアップに向けたコーチング(伸ばすべきスキルやトレーニング計画などを実施
実際、これらを実現しようとするツールが登場しています。
広告大手が続々導入
まず広告についてです。
ChatGPTなどを利用した作成支援システムが続々と開発されており、国内では広告大手による以下ののような動きがあります。
(h3)あらゆる条件を反映した広告テキストの生成〜オプト
オプトはChatGPTと広告予測AIを掛け合わせたオリジナルの「CRAIS for Text」を開発し、広告クリエイティブの制作への活用を始めています。
人のみによる広告テキスト制作はデータ分析から最終稿の決定まで120分を要していました。また、既存の広告テキスト生成AIと効果予測AIの併用で人によるチェック・選定を終えるまでの時間は30分に短縮されたものの、業界、企業名、訴求軸などの条件と他社事例などの情報に基づいた広告テキストの生成ができず、広告効果の担保が困難だったといいます。
この広告テキスト生成AIにChatGPTを導入することで業界、企業名、商品情報、商品ページ、キーワード、過去のテキスト、ターゲット層、ペルソナ、訴求軸、他者での成功事例といった多くの条件を反映した広告の作成が可能になりました。
また、約4倍の数の広告テキストを作成することもできるようになっています。
開発後、LLMをGPT-3.5からCPT-4に変更したところ、コンサルタントが広告を承認する割合は75%から90%に向上、さらに配信後の広告のクリック率が約2割改善できるようになったといいます。
改善サジェストまでをサポート〜電通デジタル
また、電通デジタルは、広告制作のプロセスを支援するAIシステム「∞AI Ads」の提供を開始しています。
訴求軸を発見する段階からクリエイティブ生成、効果予測に加え改善サジェストまでの4つの機能が搭載されています。
一連のPDCAをサポートすることで、先行導入では、CPAが50%以下に削減された事例もあるといいます。
広告のビジュアルを評価〜博報堂DY
博報堂DYホールディングスも広告制作支援AIシステム「H-AI」で、検索連動広告の制作にキャッチコピー文案を自動生成しています。
また画像分野にもAIを取り入れており、「H-AI MOVIE RESIZER」に画像をAIが最も効率的なサイズに切り抜く機能を搭載しているほか、業種の特性に応じてバナー広告効果を評価する「H-AI IMAGES」ではバナー広告のビジュアルから効果を予測できるようになっています。
なお、博報堂DYホールディングスは生成AIの「使い手」であるプロンプトエンジニアを今後大量育成し、グループ全体で1000人体制を目指しています。
制作現場へのAIの導入を推し進めていくとみられます。
営業現場にも生成AI導入の波
そして広告やプロモーションだけでなく、営業の現場で利用できる生成AIシステムも相次いで登場しています。
海外テック機能での営業支援ツール
マイクロソフトは2022年6月に発表した「Viva Sales」は営業担当者と営業マネジャー向けに設計されたもので、個々の顧客に合わせたメールの草案作成、顧客と見込み客に関するインサイトの獲得、推奨事項やリマインダーの作成などを支援するツールです。
商談の早期成約をサポートすることも目的としています。
これに次いでセールスフォースは「アインシュタインGPT」をリリースしています。
こちらも営業担当者が顧客に送信するパーソナライズされたメールを生成したり、顧客サービス担当者が顧客の質問により迅速に回答できるように特定の応答を生成したりする機能があります。
また、マーケティング担当者がキャンペーンの応答率を高めるためにターゲットを絞ったコンテンツを生成したり、開発者向けにコードを自動生成したりという機能も搭載しています。
なお、自動車メーカーのジャガーはOpenAIの画像生成AIである「DALL-E」をInstagramとX(Twitter)向けの画像作成に利用しています。独自の世界観を表すツールにしているのです。
国内では営業トークの採点も
国内でも生成AIを利用した営業支援のシステムが誕生しています。
商談解析サービス「Bring Out」はオンライン・対面問わず会話の内容を99%の精度で文字起こしし、それをもとに商談にあたっての重要箇所を自動抽出するという機能を持っています。
さらには文字起こしをもとに次回話すべき内容を自動生成するほか、商談の出来栄えを採点し指導してくれるシステムになっています[1]。
この機能により、ある企業では「商談で言わなければならない項目」を会話できていた比率が41%から2ヶ月後には70%にまで向上、案件の成約率も32%から50%に上がったといいます。
さらに商談の中で聞くべきことを聞けていたか、話すべきことを話せていたか、営業では非常に大切なことです。Bring Outでは聞けていなかった場合のアドバイスの生成もできるようにもなっています。
Appier(エイピア) グループもAIマーケティングや顧客対応をサポートするシステムを構築しています。同社のAIパーソナライゼーションクラウドはWebサイト上でのユーザー行動を分析することができます。そしてユーザーの離脱意図を検知すると、自動的に割引のオファーに関するポップアップなどを表示させる機能を持っています。
これを導入した台湾のバーガーキングでは平均的なクリック率は27%に達し、全体的な注文金額が増加しています。
また、同社の「AIQUA(アイコア)」は顧客やデバイスに応じたメッセージを作成し、ホームページを通じたWebプッシュ通知や電子メール、SMSなどで適切なタイミングで送信できるようになっています。
同時にマーケティングにおいてはキャンペーン内容の内容や文字の長さ、言語、トーンを入力・選択するだけで、複数の広告コピー案を自動生成できる機能があります。
例えばキャンペーンの説明は「母の日限定リップセール」、メッセージの文字数は「100文字以内」、言語を「日本語」、そしてメッセージの口調は「盛り上げるように」といった指示をシステムに入力すると、ものの1~2分で3つの広告コピーを提示します。
他には、Onebox社が提供しているクラウドサービス「yaritori」があります。
こちらは謝罪メールを自動生成する機能を搭載しています。プロンプトも不要で、新入社員でもクレーム対応ができるというものです。
生成AIによって、営業のあらゆるプロセスに対応、営業担当者を支援できるさまざまなシステムが登場しているのです。
戦略ありきの導入が鍵に
アクセンチュアによれば、世界の経営幹部の97%は、AI基盤モデルがデータタイプを超えた接続を可能にし、AIが用いられる分野と方法に革新をもたらすと考えています。
セールス分野へのAI導入は先行投資として必須の流れとなっていくかもしれません。
またPwCは、DXによってここ10年で営業活動が大きく変化したことを指摘しています。
個人の営業活動はデータとして蓄積され社内で共有するといった形になり、属人性業務からチーム営業へと姿を変えています。
また、MA(マーケティングオートメーション)により顧客の関心事や課題が直接会わなくても把握できるようになり、その情報に基づいてインサイドセールスが、それもリモートで可能になっています。
たった10年でこれだけの変化を遂げているとしたら、向こう10年にどれだけ劇的な変化が起きるかは想像に難くないことでしょう。
なお、ひとくちにセールスの現場にAIを導入するといっても、営業には多数のプロセスが存在しています。
よって、プロセスの中で何を改善すべきなのかという点を洗い出すことが必要です。
今の自社に足りないのは、
プロモーションの魅力なのか?
業務の効率なのか?
営業担当者の質なのか?
データの利活用が足りていないのか?
アフターサービスの質なのか?
まずこれらを分析し、何を強化すべきかを絞り込む作業が大前提であることは言うまでもありません。
そして、生成AIが出す結論は、時に間違っていたりバイアスがかかっていたり、矛盾していたりします。
セールスというのは人の感情に訴えかけるものですから、人間が一切介在しないという形での運用は避けるべきでしょう。