生成AIは大量のデータから深層学習を行い、テキスト・画像・動画・音声など、さまざまなコンテンツを自動生成できる便利なツールです。
一方、深層学習の速さから近いうちにAIが人間の能力を超え、人間の仕事を奪ってしまうのではないかと心配する声も聞こえてきます。
ここでは「Mckinsey & Company」の研究機関である「Mckinsey Global Institute」のレポート「Generative AI and the future of work in America」(以下、「レポート」)*1をもとに、生成AIによってもたらされる未来を紹介します。
今、世界で何が起きているのか
まずは生成AIの登場による変化について着目してみます。
生成AIのなかでも特に幅広く普及しているのが、「ChatGPT」をはじめとしたテキスト生成AIです。
生成AIと自然な会話ができるようになったことで、献立を考えてもらったり家事の順番を考えてもらったりなど、生活のパートナーを得た感覚を覚えた方もいるでしょう。
生成AIによる会話はビジネス利用でも想定されており、レストランの注文や窓口対応は生成AIが取って代わるだろうという見方がされています*1。
生成AIはテキストだけでなく、画像・動画・音声の生成も可能です。
製造業や創作活動などでも生成AIによる自動化が予想されており、生成AIの台頭によって雇用形態に変化が生じる可能性は高いといえるでしょう*1。
迫りくるAGI(Artificial General Intelligence)の時代
AGIとは、Artificial General Intelligenceという言葉の略で、将棋などの特定分野だけでなくほぼすべての分野でAIが人間を超えてしまうコンセプトを表しています*2。
ソフトバンクの基調講演に登壇した孫正義氏は、「AGIの時代が今後10年以内にやってきます」*2と述べています。
加えて、AGIの時代が到来すると、生成AIにより下記のような業務の効率化が見込まれることを紹介しました。
生成AIによる自動化などを背景に予想される仕事の需要変化
コロナ禍を機に、インターネットでの買い物やリモートワークが増えたという方は多いのではないでしょうか。
レポートでは、コロナ禍で急激に進んだeコマースとリモートワークの普及がアメリカの雇用に影響を与えるだろうとされています*1。
eコマースの利用拡大による運搬業の雇用増やリモートワークによる働き方の変化は、日本においても同様に考えられるでしょう。
顧客サービスやビジネスにおける対面作業の減少傾向は、生成AIの台頭による影響と共通しています。
生成AIによる自動化、eコマース・リモートワークの普及をあわせて考えることは、今後を見据えるうえで重要なことかもしれません。
需要が高まる仕事
まずは、需要が高まるだろうとされている仕事を紹介します*1。
・ビジネスや法律のプロ、マネージャー職
生成AIによって自動化が進むとしても、一流のプロや管理職の需要は減りにくいだろうとされています。生成AIが普及した未来においても、秀でた存在になることで道が開けそうです。
・ヘルスケア
アメリカでは高齢化が進みヘルスケアの仕事に携わる人が増えるだろうとされています。
日本も世界有数の高齢社会であり、同様の傾向が予想されます。
介護福祉士による高齢者のケアなどは、生成AIよりも人間の方が高い需要を期待できるかもしれません。
・運搬
前述したとおり、eコマースの普及に伴い、運搬業の雇用が増えています。
今後もeコマースの利用が減ることは考えにくく、高需要を期待できるでしょう。
・STEM(科学・技術・工学・数学)の技術・開発者
今後は生成AIを導入し、施設をハイテク化する企業が増える可能性が高いと思われます。
そのため、ハイテク技術を導入・運用するSTEMの技術者や開発者の人口が増えるだろうとされています。
・環境産業
地球温暖化やゼロエミッションなどの環境問題を背景に、アメリカではインフラ整備の建設業者の雇用増が予想されています。
環境問題は世界共通の課題であり、日本においては「環境産業」がトレンドです。
環境省は2000年から2021年にかけて雇用規模が1.4倍になったとし、環境産業に携わる人口の割合は2050年まで上昇を続けると推定しています*3_冒頭サマリー,P.211。
需要が低下する仕事
次に、需要が低下するだろうとされている仕事を紹介します。
・飲食業
生成AIが自然な会話による対応をできるようになり、飲食業のスタッフは雇用が減るだろうとされています。
日本でもロボットが料理を運ぶファミリーレストランが現れてきており、生成AIが本格的に実用化されればスタッフの需要が減少する可能性は高いでしょう。
・顧客サービスやオフィスの事務仕事
顧客サービスやオフィスの事務仕事なども、生成AIによって仕事を奪われる可能性が高いとされています。
利用者の質問に対してチャットボットで回答するサービスなどが既に実用化されています。
飲食業と同様に、生成AIの対応力が強化されれば、ますます仕事の場が減っていくかもしれません。
・製造業
大量生産を行う製造業は、自動化が業績を上げる肝です。
生成AIによる自動化は生産性向上の要であり、人間の雇用は減少すると予想されています*1_Exhibit5。
生成AIは、製造だけでなく機械部品などの設計でも活用されています。
雇用が大きく減らないまでも、設計者の働き方にも影響を与える可能性が高いでしょう。
生成AIと共存する未来とは
生成AIの普及などを背景に、世界で起こっていること、今後の仕事の需要変化についてみてきました。
では、生成AIと共存するためにはどのような準備が必要でしょうか。
レポートに記されている社会の変化をもとに考えてみましょう。
生成AIによる生産性の向上
レポートでは、生成AIの自動化などによりアメリカの生産性が3~4%向上するだろうとされています。
ここで指摘されているのは、生成AIによる生産性向上を享受するためには、労働者が新しい技術を身に付け、生成AIの危険性を理解しなければいけないということです。
前述したとおり、生成AIの登場により雇用形態に大きな変化が生じます。
そのとき需要のある人材になるためには、生成AIについて正しく理解し、運用するスキルを身に付けるのが重要だといえるでしょう。
雇用の傾向の変化
今後は生成AIとうまく付き合える人材が重宝されます。
従来とは異なる働き方になるので、今までの経験ではなく、学習能力や応用能力を重視して雇用すべきというのがレポートの主張です。
加えて、企業は教育・訓練のシステムを整え、幅広い分野から雇った人材を育成すべきだとしています。
この主張は高等教育を受けられない人が多いというアメリカの事情も絡んでいます。
しかし、働き方が大きく変わる時代に対応できる人材が重宝されるのは日本も同じです。
注釈
*1出所)McKinsey Global Institute「Generative AI and the future of work in America」
*2出所)Softbank「AIは「AGI」へと進化し、今後10年で全人類の叡智の10倍を超える。孫正義 特別講演レポート」
*3出所)環境産業市場規模検討会「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」
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