Googleの、「生成AIによる検索体験(SGE)」の表示ロジックを検証する

2023.11.17

安達 裕哉

Photo by chiyoizmo

Googleは、2023年8月末から「生成AIによる検索体験(SGE)」を日本で試験運用開始しました。SGEは、生成AIを活用して、ユーザーの検索意図に沿った情報をまとめた概要を表示する機能です。

具体的には、以下の画像のように、従来の検索結果の上に、生成AIによる「説明欄」が付加されます

使ってみた方はわかると思いますが、この機能は驚異的に便利で、個別のサイトの中身を見ずに、調べものをGoogleの中だけで完結させてしまうほどです。
この機能がデフォルトとして実装されれば、多くのサイトでGoogleからの流入は激減する可能性があります。

よって、Googleからのトラフィックに大きく依存しているサイトは、「生成AI検索」への対策が必要となります。

「生成AIによる検索体験(SGE)」の挙動

しかし、生成AI検索を使っていくと、いくつかの特徴的な挙動に気が付きます。
ここでは5つの特徴的な挙動を取り上げます。

1.AIによる説明が出ない(出にくい)パターンとは

その一つ目は、AIによる概要説明が出ないパターンです。

例えば拙著「頭のいい人が話す前に考えていること」をGoogle検索すると、以下のように生成AIによる概要表示はされず、従来のGoogle検索のみの表示になります。

また、スパイ映画である007シリーズの主人公、ジェームス・ボンドが使う車で知られる自動車メーカー「アストンマーティン」の車種を検索すると、生成AIの検索結果が直接表示されず、「AIによる概要を生成しますか?」と聞かれます。

この場合、「はい」をクリックしないと、生成AIによる概要が表示されません。

こうして、いくつかの検索結果を見ていくと、「指名検索」については、AIの検索結果が表示されないことが多いのです。

【トヨタ自動車】

【Facebook】

つまり、「Goクエリ」と呼ばれる、特定のサイトにそのまま行きたい際の検索キーワードが入力されたとみなされる場合、Googleは生成AIの結果を表示しない傾向にあります
また、「東京 天気」などの現在の事実を入力するクエリなども、生成AIは結果を表示させません。

これは、Googleが「検索体験の向上」を方針として掲げているため、「余計な情報はできるだけ表示させない」ようにしているためだと推測できます。

2.Googleの生成AIが概要説明の文章を作るしくみ

生成AIによってつくられる概要説明には三つのセクションがあります。
一つは概要説明そのもの。二つ目が説明欄の下の「追加質問」。

そしてもう一つが、以下の赤丸で囲まれたサイトのリンク集です。

このリンク集は、右上のアイコンをクリックすると、概要説明が閉じてリンクのみの表示に切り替えることができます。

この「リンク集」は、従来の検索結果の順位と一致しません
検索順位とは関係なく、生成AIの結果を表示したときに、独自に表示されるのです。
ですからここには、検索では比較的下位に表示されていたサイトも、表示される可能性があります。

生成AI検索をターゲットとした、新しいSEO対策においては、このセクションに表示されることが一つの目標になりそうですが、では、どのようなサイトが表示されているのでしょう?

それを解き明かすため、数多くの概要説明を見ていくと、実は「生成AI」が独自に説明を作り上げているわけではない、という事がわかるのです。
例えば、「なぜ 氷河期 格差」というクエリによって、生成された概要説明がこちらです。

就職氷河期は、1991年の81.3%をピークに就職率が低下し、2003年には55.1%と最低記録を更新した時期です。2000年には大学卒業者の22.5%が学卒無業者でした。


就職氷河期の原因は、内定が上位校に集中していたためです。中堅以下の大学は、国公私立問わず、目も当てられない状況に陥りました。


就職氷河期世代の正社員率は90.7%で、20代後半時点より8.3%上昇しています。40代後半になると、氷河期直前世代を含むすべての世代で正社員率は92%前後でほぼ一致する結果となりました。


就職氷河期世代の雇用を支援するために、助成金が支給されています。助成金の額は合計60万円(大企業は50万円)で、対象期間を6ヶ月ごとに区分し、2回に分けて支給されます。

この文章はChatGPTのように、新たにAIが生成したものだと思われがちですが、実は異なります。

これらの文章は、「リンク集」に上げられたサイトからの引用、つまり切り貼りで構成されているのです。

実際、サイトのリンク集を見ると、どこの部分が、どのサイトから引用されたかがわかるようになっています。

例えば上から2番目のリンクで、元のサイトを見ると、AIが言い回しを変えて、文章をそのまま表示していることがわかります。

要するにGoogleの生成AIは、ChatGPTのように文章をゼロから作っているわけではなく、サイトに掲載された文言を使って、「まとめ記事」を作っているだけなのです。
一番下の文言も、ほとんど丸写し。

著作権とか大丈夫?ってちょっと思いました。

まあ、それはそれとして。
つまり現在の生成AI検索は、従来の検索結果での1ページ目~2ページ目あたりのサイトから、「使えそうな説明」を持ってきて、切り貼りしている。
つまり、生成AIによる概要と、検索結果に表示されるサイトは、異なるアルゴリズムで表示されています。

検索結果に表示されるサイトは、検索キーワードに一致する情報や、関連性の高い情報、被リンク数などを考慮して、表示順位が決定されます。

逆に、SGEの概要は、「いい塩梅で説明を作ってくれているサイト」、が優先されます。
つまりテキスト量が多く、説明的なサイトが優先される可能性が高い。

例えば、ユーザーが「東京の観光スポット」と検索した場合、SGEの概要には、東京の代表的な観光スポットに関する説明が多いサイトがまとめられる傾向にあります。

実際に表示されているのは、一休、RECOTRIP、goopass、rtrpでした。

しかし、検索結果に表示されるサイトは、検索キーワード「東京の観光スポット」に一致し、なおかつドメインが強く、商業サイトであり、公式サイト、あるいは大企業が運営するサイトがランクされています。

実際に表示されたのは、近畿日本ツーリスト、一休、楽天トラベル、リラックス、じゃらんなど、ほとんどが大手旅行代理店のサイトでした。

実際、先に例示した「アストンマーティン」というキーワードにおいても、検索結果では公式サイトが1位ですが、サイトにほとんど文章がないため、生成AIの結果においては、Wikipediaや、代理店のサイトや中古車サイトに負けています。

3.生成AIの結果下に表示される「追加で聞く」に出る質問のパターン

生成AIで概要を表示すると、概要説明の下に「追加質問」が表示されます。

質問をクリックし続けると、追加で生成AIが概要説明を続けてくれるので、これも極めて便利な機能です。

では、いったい、この欄の質問はどのようなアルゴリズムで表示されているのでしょうか?

結論から言うと、これは従来のGoogleの「リコメンド」とほぼ同じです。例えば、上で挙げた「プーチン大統領」というキーワードでは
「プーチン大統領は柔道何段か?」
「プーチン大統領の就任はいつですか?」
「プーチン病気」

という質問が追加で表示されますが、これは「病気」以外は、検索のリコメンドでも表示されています。

弊社名である「ティネクト株式会社」で検索をしてみると、それは一層顕著です。

生成AIの下部に表示された追加質問と、リコメンドが完全に一致していますから、基本的には生成AIで「追加質問」を先取りするには、リコメンドされたキーワードについてコンテンツを作成しておけばよい、という事になるでしょう。

4.Googleの生成AIである「Bard」とはかなり異なる挙動を示す

以上のように、「生成AIによる検索体験(SGE)」に表示される内容は、実は生成AIによる回答というよりも、従来の検索結果を並べ替えているだけと言えます。

そしてこれは同じくGoogleが出している生成AIの「Bard」とはだいぶ異なる挙動となります。例えば上で挙げた、「アストンマーティン」の結果を比べてみましょう。

【Google SGE】

ストンマーティンは、イギリスの乗用車ブランドです。アストンマーティン・ラゴンダという企業が所有しており、高品質でハイスペックな車両を製造しています。


アストンマーティンは、2017年11月に日本最大規模の正規ディーラーとしてアストンマーティン東京をオープンしました。


アストンマーティンの限定モデル「DBS 770 Ultimate」は、2023年に生産終了予定です。


アストンマーティンの日本代理店は、SKY GROUPです。

情報量は多くありませんが、上位サイトの記事を引っ張ってきているだけなので、情報の真偽は「各サイトの信頼性」に依存します。

【Bard】

アストンマーティンは、イギリスの自動車メーカーです。1913年に設立され、100年以上の歴史を誇ります。


アストンマーティンは、ラグジュアリースポーツカーの分野で世界的に有名なメーカーです。DB9、ヴァンテージ、DBS、ヴァンキッシュなど、数多くの名車を世に送り出してきました。


アストンマーティンの最高峰は、DBSです。DBSは、アストンマーティンのフラッグシップモデルであり、最高級のラグジュアリースポーツカーです。DBSは、715馬力の5.2リットルV12エンジンを搭載し、最高速度は340km/hに達します。


アストンマーティンは、映画やテレビドラマにも頻繁に登場します。ジェームズ・ボンド映画では、1964年の「ゴールドフィンガー」から2021年の「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」まで、アストンマーティンの車がボンドカーとして登場しています。


日本では、2021年に388台が登録されました。


アストンマーティンの特徴は、以下のとおりです。


優れた走行性能とデザイン
ラグジュアリーな内装
映画やテレビドラマでの活躍


アストンマーティンは、世界中の多くの人々に愛されている、伝統と格式を兼ね備えた高級スポーツカーメーカーです。

こちらは「サイトから引っ張ってくる」という制約がないので、かなり広範囲な情報を出力してくれます。

しかし、「DBSは、715馬力の5.2リットルV12エンジンを搭載し、最高速度は340km/h」のところなどは、若干怪しい情報となるので、追加での調査が必要になるでしょう。

5.【まとめ】SGEを狙ったSEO対策に役立つ知見

以上のことから、生成AIによる検索体験(SGE)を狙ったSEO対策は、以下の情報をもとに行うと良いでしょう。

1.Goクエリに対しては、従来通りの挙動なのであまり心配しなくてよい

2.Knowクエリ(~とは 系の検索)に対しては、生成AI検索は脅威となるので対策が必要

3.従来の検索順位で、1ページ目~2ページ目に入っていれば、SGEに表示される可能性は十分ある

4.「説明的な文章」があるサイトが優先して表示される

5.「追加で聞く」は従来のリコメンドのクエリを押さえておけばカバー可能

6.Bardのほうが詳しく回答を返してくれるが、SGEのほうがウソは少ない

注:転載の際には、このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。

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